発達障害でも就職できる?向いている仕事と職場や学校での支援を解説
更新日:2026年04月07日

発達障害のある人の比率は正確にわかりませんが、文部科学省の2012年の小中学校への調査では、発達障害の”可能性がある”児童は全体の約6.5%という結果が出ています。10数年前でも、一クラス35人〜40人とすれば、2、3人は発達障害がある計算になりますので、実際の数値はもっと高い可能性もあるようです。そのような発達障害のある子どもたちが大きくなり、人生の一つの大きな決断をする時が高校卒業後の進路と言えるでしょう。大学などへの進学や就職活動、そしてその先にある就職では、それまでと違い、より社会に合わせた自立した行動や振る舞い、考え方が必要になってきます。今回は発達障害のある人の大学での生活や就職に際した困りごとや悩みごと、そしてそれに対する学校や職場で受けられる支援について詳しくご紹介していきます。
目次
発達障害の方の働き方とは?
発達障害のある方の働き方は、主に「一般採用枠」で働くか、「障害者採用枠」で働くかの2つの選択肢に分かれます。
さらに、自身の障害を職場に伝えるかどうかによって「オープン就労」と「クローズ就労」というスタイルが存在します。どの道を選ぶかは、ご自身の特性の強さ、必要なサポートの程度、そして「どのようなキャリアを歩みたいか」という希望によって決まります。
一般採用枠での就職
一般枠は、障害の有無に関わらず、すべての求職者を対象とした通常の採用枠です。
● 特徴
・クローズ就労: 障害を伏せて働く形。周囲と同じ配慮なしの条件で働きます。
・オープン就労: 一般枠であっても、特性を伝えて理解を得ながら働く形。
● メリット
職種や業種の選択肢が非常に広く、キャリアアップの機会も他の社員と同一です。
給与体系が一般の規定通りであるため、高い収入を目指しやすい側面があります。
● デメリット・注意点
原則として、他の社員と同じパフォーマンスを求められます。
特性による苦手分野(マルチタスクや対人交渉など)で無理をしてしまい、二次障害(うつ病や適応障害)を招くリスクに注意が必要です。
障害者採用枠での就職
障害者採用枠は、障害者手帳を持つ方を対象とした、企業の法定雇用率に基づいた採用枠です。
● 特徴
入社時から「障害があること」を前提とした雇用であり、最初から配慮が組み込まれています。
● メリット
業務内容の調整や指示系統の明確化といった「環境の最適化(合理的配慮)」が受けられるだけでなく、困りごとを一人で抱え込まずに済む「心理的安全性」が保たれているため、安心して長く働き続けられる土壌が整っています。
● デメリット・注意点
一般枠に比べると、選べる職種が事務補助などに限定される場合があります。
給与水準が低めに設定されているケースがあり、応募には「障害者手帳」の取得が必須となります。
合理的配慮を職場に求める
「合理的配慮」とは、障害のある方が他の社員と平等に働けるよう、職場側が過度な負担のない範囲で環境を整えることです。2024年4月からの改正障害者差別解消法により、現在は民間企業においても提供が義務化されました。
これは決して「わがまま」ではなく、個人の能力を最大限に発揮し、職場全体の生産性を高めるための重要な調整です。具体的な配慮の内容を3つの視点で整理してご紹介します。
● 対人コミュニケーションの負担を減らす配慮
対人関係に苦手意識がある場合は、情報の入り口を整理することが有効です。
複数の人からバラバラに指示を受けると混乱するため、窓口を一人に集約したり、指導担当(メンター)を固定したりするよう依頼しましょう。
また、不特定多数とのやり取りが少ない部署への配置を希望し、直接やり取りする相手を最小限に絞ることで、本来の業務に集中できる環境を整えます。
● 体調とエネルギーを管理するための配慮
発達障害の特性や環境への適応により、人一倍疲れや体調不良を感じやすい方は少なくありません。
無理なく働き続けるためには、業務の合間に短時間の休憩を取り入れたり、仮眠スペースの確保を相談したりすることが脳のリセットに効果的です。また、時差通勤や時短勤務など柔軟な働き方を選択することも、安定した就労を支える大きな助けとなります。
これらの要望は、長期的な生産性を維持し会社に貢献し続けるための「業務上の調整」であるという視点で伝えることが、周囲の理解を得る鍵となります。
● モチベーションと適応力を維持する配慮
新しい環境への適応や、突発的な変化に不安がある場合は、あらかじめ「自分のペース」を共有しておきましょう。例えば、業務習得に時間が必要であることを事前に共有し、過度なプレッシャーを軽減することで着実な成長が可能になります。
また、気圧の変化による体調不良や、ランチ・飲み会といった社交的な場がストレスになることを伝えておくことも重要です。無理な誘いを控えてもらうなどの配慮を通じて、不要な消耗を避け、仕事への意欲を維持しやすい環境を自ら築いていくことができます。
このように、自分の特性に合わせた環境調整を行うことで、不要な消耗を避け、仕事への意欲を維持しやすい「自分らしい働き方」を築いていくことができます。
発達障害者の就職状況は?
最新の調査では、発達障害のある方の雇用は着実に拡大しており、特に「正社員(無期契約)」の割合や「勤続年数」において大幅な改善が見られます。
発達障害者の雇用者数:約9万1,000人
前回(平成30年度)の3万9,000人から約2.3倍に増加しています。
契約形態の割合
・ 無期契約:36.6%(前回 22.7%から大幅増)
・有期契約:63.4%
以前より「長く安定して働く」スタイルが定着してきています。
平均勤続年数:5年1ヶ月
前回の3年4ヶ月から1年7ヶ月も延びており、職場定着が進んでいます。
平均月給:約13万円
(参考:週所定労働時間が30時間以上の方に限定すると15万5,000円)
週所定労働時間の割合
・ 30時間以上(フルタイム等):60.7%
・20時間以上30時間未満:30.0%
仕事内容(職種別割合)
かつては事務職が中心でしたが、現在は現場作業やサービス業など、活躍の場が大きく広がっています。
・サービスの職業(飲食・接客・清掃・介護補助など):27.1%
・事務的職業(一般事務・データ入力・受付など):21.7%
・ 生産工程の職業(製造・組立・加工など):16.2%
・ 運搬・清掃・包装等の職業(倉庫内作業・仕分け・ピッキングなど):12.5%
・専門的・技術的職業(ITエンジニア・デザイナー・研究者など):10.4%
このように、最新データでは「雇用者数の増加」だけでなく、「同じ職場で長く働く(定着率の向上)」と「職種の多様化」が顕著になっています。この変化は、企業側の受け入れ態勢がより具体的かつ実践的になってきているポジティブな兆候と言えます。
発達障害の特性と向いている仕事

ADHD(注意欠如・多動性障害)
ADHDの方は、「多動・衝動性」を行動力や決断の早さとして、「不注意」を多方面への好奇心や自由な発想として活かすことができます。単調な作業よりも、常に新しい刺激や変化がある仕事、自分の裁量で動ける仕事で真価を発揮しやすい傾向にあります。
ASD(自閉症スペクトラム障害)
ASDの方は、自分の興味がある分野において驚異的な集中力を見せることがあります。また、マニュアルやルールが整備された環境では、誰よりも正確に、妥協せず業務を完遂する力を持っています。曖昧な指示が少なく、手順が明確な職場であれば、安定して長期的に活躍できます。
LD(学習障害)
LDの方は、読み、書き、計算といった特定のスキルに困難を抱えますが、それ以外の知的能力には問題がありません。「苦手なことをITツール(読み上げソフト、音声入力、電卓など)で補う」ことが認められる環境であれば、他の分野での強みを最大限に活かせます。自分の得意・不得意を周囲に伝え、理解を得ることが就職後の定着の鍵となります。
向いている仕事はあくまで一般的な傾向です。同じ障害名であっても特性の現れ方や程度には個人差があるため、自身の具体的な「強み」と「困りごと」を整理することが大切です。
発達障害の方が就活で困ることとは?
ASD特性が強い方の例
自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合、意思伝達や対人的相互作用における特性や、特有のこだわりが挙げられます。自分のこと、自分の考えていることを他者に伝えるのが難しく、相手の伝えようとすることに言葉以外の遠まわしな意味が含まれていたり、率直な表現でない話し方などは理解が難しいのです。また非言語的コミュニケーションの手段に乏しいため、表情やジェスチャー、言葉の抑揚などが少なかったり、乏しかったりすることがあります。
つまり社会人の基本として、ある程度、高いコミュニケーション能力が求められ、試される場である就職活動では、困難が生じる場面が想定されます。例えば、最初に電話での面接などのアポイントメントを取る際は、言葉だけでのコミュニケーションになるため、伝え方が直接過ぎたり、型どおりの言葉だけになったり、その上、言葉に就職したいという熱意や感情が込めにくかったりします。
また、面接の場面では自己アピールや会社や仕事への情熱を伝える必要がありますが、それらを言葉で表し、その場に応じた感情を表情やジェスチャーで表したりすることは自閉症スペクトラム障害のある人にとっては不得意とする状況です。
またこだわりが強いと、そもそも場所の変化や状況の違いに馴染めないため、面接の場に行ったとしても落ち着きを失ってしまったり、自分の気になることに集中しだすと、相手の言葉が聞こえないこともあり、質問に答えたり、指示のとおりに動いたりすることも難しくなります。そのため、適切な準備や支援がない状態では、内定を得るまでに多くの課題に直面することが予想されます。
ADHD傾向が強い方の例
ADHD(注意欠如・多動性障害)がある場合、代表的な特性として衝動性があります。衝動性があると、あまり考えずに行動してしまい、行動自体が早いことはメリットの部分もありますが、言い換えれば計画性に乏しいため、就職活動をする場合に自分で学校の授業やアルバイト、そしていくつかの企業での受験を掛け持ちするというような多面的な活動は非常に難しいと言えます。
ADHDだけで知的な遅れや他の疾患がなければ、書かれている予定表・計画表やプログラムの理解はできます。また衝動性への対策として普段からメモ帳やスマホに予定や課題などのやることをメモする訓練もできます。しかし衝動性が強いと、いつ、何時までにどこかに行くという理解はできていても、途中でいろんな誘惑に興味を惹かれれば、予定や計画のことはそっちのけになってしまうということです。
また衝動性があると、コミュニケーションも深く考えず、思ったことをずばずばと言ってしまうことが多いため、相手が採用する側の人間だったとしても、意図せず相手への気遣いや遠慮などが感じられない話し方をしてしまうという失敗もあります。これでは上司や先輩を敬う姿勢や、取引先への営業や接待などの適性について、採用側から懸念を持たれる可能性があります。
また衝動性が強いと、書類やその他のタスクも遅々として進まず、期日に間に合わないことも多くなります。
発達障害の方の就活の進め方は?
自己分析(自己の特性の把握)
発達障害を含む障害があることにより、社会生活において困難を感じることや、社会参加に不利がある場合、一般の企業などで就職活動するには自己分析、自己覚知、自己理解といわれることをやるのは非常に有効です。
この手法は就職活動をする一般学生にも進路指導や就職活動の支援プログラムなどで使われる、非常にポピュラーなものです。障害がある人の自己分析も障害がない人の自己分析と特に変わりません。
自己分析では自分で簡単にできる方法から心理的な記述式テスト、そして今では複数の就活支援サイトでも簡単な入力で質問に答えていくだけで自己分析ができたりします。
もし、今まで本格的に自己分析を経験していない場合、パソコンでも、手書きでも構わないので、自分の性格的な長所・短所、普段の生活(家事、学業を含む)の中で得意なことや不得意なこと、好きなこと嫌いなこと・もの、今まで取得した資格・免許や段、表彰されたこと、発達障害などがある場合、さらにここに障害特性を加味して具体的に何ができて何ができないのかを実際に書き出していきましょう。
ウェブサイト上の自己分析ツールは手軽ですが、自分を具体的に分析するには一度、しっかりと考えながら書いてみるという作業をする方が整理できるでしょう。自分のプラス面、マイナス面について理解することは、どんな職業が向いているのかについて考える際に大いに役に立ちます。特にマイナス面については、そのマイナス面をどのように改善したり、カバーするのか具体的に考え、就職活動に向けてそれらを実行することもできるようになります。
ポジティブ・シンキングやリフレーミングという手法を使い、マイナス面をプラスに考えたり、他者に伝えることも就職活動で内定を獲得する上で重要です。例えば自閉症スペクトラム障害のこだわりは一つのことに集中できる、注意欠如・多動性障害の衝動性は行動力があると言い換えることができるでしょう。
実際に面接の場面や採用試験の作文などでは、長所や短所について話したり、書いたりすることもよくありますのでそういう面でも自己分析ができていればすらすらと話したり、書いたりできます。
企業・業界研究
自己分析ができたら、次にどんな業界や業種が自分に合うのか実際に考え、インターネットで調べたり、気になる会社の求人資料などを取り寄せて、どんな仕事をするのか把握していきます。またその業界、会社で実際に働いている先輩や知人の話を聞いてみることも重要です。学校の就活へのサポートや会社の新卒募集の一環として行なわれることもあります。労働人口が減少し、人材確保が困難になっている昨今、障害者の採用に力を入れている企業も少なくありません。
例えば、欧米などの外資系の企業や、IT企業、新進気鋭のベンチャー企業などでは、合理的な思考や実践を重要視したり、多様なバックグラウンドを尊重する風土があることが多く、コミュニケーションの面でも、メールやSNSを利用することが多い傾向があり、この面でも障害特性でコミュニケーションが苦手という人にもチャンスがあると言えます。
障害に理解のある企業はインターネットなどを通して自分で探すこともできますが、このような企業を探したい場合は、是非、ハローワークなどの後述する公的支援機関を利用するのがおすすめです。自分がやりたい仕事と自分に合っている仕事は必ずしも一致するわけではありません。しっかりと企業・業界研究をして、就職後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないようにしたいものです。障害者の離職率が一般のそれよりも高いというのも現実なのです。
一般枠または障害者枠で求人先へ応募
発達障害を持っている場合、就職活動の際に考えていただきたいのは、障害がない人と同じ土俵で一般枠での採用を目指し就職活動をするのか、または国の政策に則った、「障害者枠」での採用を目指すのかという点です。
就職活動は就職の始まりであって、採用内定をもらうことがゴールではありません。働き甲斐を感じ、安定した収入を得る、そしてキャリア形成をしていける仕事に就くことが大きな目標ですが、一般枠でこれらを達成することには、現状では課題が生じやすい側面もあります。
一般枠で働くように収入を得たり、キャリアを形成することは難しくても、今の自分の障害特性を理解し受け入れてくれる障害者枠で働くということも、無理をせず、長く安定して働くという意味では十分に考慮すべき選択肢と考えることができます。
最近では、障害者差別解消法などの障害者の社会参加を促進するための法制度の整備が進み、障害者の採用に際して合理的配慮をすることが求められています。現状では一般枠で働くより、障害者枠で働く方がより合理的な配慮を受けられやすい傾向にあります。当然、自分の可能性への挑戦として一般枠での就職活動もありです。しかし、不採用が続いたり、入社後の退職で自信をなくしたりするよりは、一度、障害者枠で働いてみるのもよいかもしれません。
逆に最初は障害者枠で働いてみて、もっとできそうだ、と感じたら一般枠に挑戦してみる。自分に合った働き方、仕事はそういう探し方があってもよいのではないでしょうか。
就職活動に役立つ支援機関や事業の一覧
障害者就業・生活支援センター
「なかぽつ」の愛称で親しまれ、仕事と生活の両面を支える公的機関です。就職の相談だけでなく、安定して働き続けるための体調管理や自立した生活のアドバイスまで、身近な地域で総合的にサポートします。
■問い合わせ先:厚生労働省 | 障害者就業・生活支援センター 一覧
就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す方向けの通所型サービスです。PCスキル習得やマナー訓練、自己分析などの「準備」から、自分に合う職場探し、就職後の職場定着まで、スタッフが二人三脚でじっくり支援します。
■問い合わせ先:お住まいの市区町村の障害福祉窓口
地域障害者職業センター
専門的な「職業リハビリテーション」を行う機関です。職業適性の評価やジョブコーチによる職場適応支援など、データや専門知見に基づいた高度なサポートが強み。より客観的に自分の強みを見極めたい方に最適です。
■問い合わせ先:JEED | 地域障害者職業センター一覧
ジョブカフェ
主に若年層を対象とした都道府県運営の就業支援施設です。カウンセリングからセミナーまで1カ所で受けられるのが特徴。障害の有無にかかわらず利用でき、一般枠での就職を検討している方の相談にも応じてくれます。
ハローワーク
障害者専門窓口があり、専門の相談員が求人紹介や就労相談を行います。障害者雇用枠の求人を豊富に扱い、面接のセッティングや「トライアル雇用」の調整など、就職活動の実務的な拠点となる場所です。
■問い合わせ先:厚生労働省 | ハローワーク所在案内
障害者能力開発校
事務、IT、製造など、就職に直結する専門技能を習得するための公共訓練施設です。障害特性に配慮された環境でスキルを磨けるのが魅力。原則受講料は無料で、手当を受給しながら通えるケースもあります。
■問い合わせ先:障害者の在宅就労支援HP(能力開発)
障害者向け就職エージェント
民間企業が運営する、障害者雇用枠に特化した人材紹介サービスです。専任アドバイザーが求人紹介から条件交渉まで代行。非公開求人も多く、キャリアアップを目指す方や効率的に活動したい方に適しています。
発達障害が大学生活へどう影響を与えるか?

発達障害がある場合、大学等の高等教育機関に進学すれば、ある程度、自立的、自主的に授業に参加しないといけないため、今まで以上に大きな影響があると考えられます。
大学側からの保護者への連絡やアプローチの度合いは少なく、学生が遅刻、欠席、提出物を提出しないなどについて、その都度報告することはありません。ある一定回数の欠席をした時点で学生に注意を促す学校はあります。学生数が多い学校では授業中、教員と個別に話す機会は少なく、授業内容がわからなかったり、質問があれば学生自ら積極的にアプローチしなければなりません。また学生同士の人間関係が構築できなければ授業に関する情報が回って来なかったり、学校へ足が進まなくなる可能性もあります。
発達障害という診断を受け、自分で認識している場合、その特性を「開示(オープンに)」するのか、しないのか、あるいは発達障害であることが今まで認識できておらず、教職員やスクールカウンセラーなどに相談する中で、病院での診断に繋がるようなケースもあり、状況によって違いはありますが、いずれにせよ大学生活に様々な影響があることは間違いありません。
現在では様々な障害のある学生の高等教育機関への進学が増えていて、障害者差別解消法の施行もあり、学校側でも障害のある学生への指導や受け入れなどの支援態勢が整っているところが増えています。
発達障害についても教職員が知識を持っていて、特性を伏せていたとしても、修学上の困難から支援の必要性に周囲が気づくケースもあります。よりよい理解と支援を受けるためには、診断が出ているのであれば入学する前から相談する方がよいでしょう。
発達障害のある学生が抱えやすい学内での困りごと
生活習慣
発達障害のある学生は、自己管理をすることに困難を感じる傾向があります。自宅や自分の部屋の整理整頓が苦手なことが多く、大学の授業に必要な教科書や筆記用具、そして提出すべきレポートや課題を持参することができないという事例も多くあります。
配布された資料や課題のプリントを紛失してしまい、「新しいプリントをもらえますか」と相談することも頻繁にあります。効果的な学習の組み立てが難しいため、課題や試験の評価に影響し、単位修得が困難になる事態になりがちです。こだわりや衝動性があると、規則正しい生活リズムを維持することに大きなエネルギーを要します。生活リズムが乱れることで、授業を欠席したり、出席しても疲労や特性により集中を維持できず、内容を十分に聞き取ったり板書を取ったりすることが難しくなることもよくあります。睡眠や食事のバランスを崩すと健康を害し、心身の不調から長期欠席に至るケースも少なくありません。

人間関係
自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合は、周囲との円滑な人間関係を築くことに困難を感じる場合があります。自分から他者に対して積極的にアプローチすることが苦手なうえ、独特なコミュニケーションのスタイルを持つことがあります。会話の際、表情や感情の表出が少なかったり、身振り手振りのアクションが少なかったりすることで、周囲の学生が接し方に戸惑いを感じてしまうこともあります。また、助けを求めたり感謝を伝えたりするタイミングを逃してしまい、素っ気ない印象を与えて距離ができてしまうこともあります。
教職員に対しては、授業中に個人的に話す機会は限られており、必要最低限のやり取りに留まりがちです。事前に合理的配慮の相談をしていなければ、大学側から個別に配慮を提案してくることも少ないでしょう。実際のところ、学友や教職員の支援がなければ、学習面でもキャンパスライフの面でも、自分一人の力だけでは対応が難しい場面も多いものです。
入学当初から大学や学友に特性を伝え、理解を得ることができれば、教職員によるサポートや、周囲の学生との協力関係を築ける可能性が高まります。障害の有無にかかわらず、多くの学生が友人と情報を共有し、助け合いながら大学生活を送っています。大学生活を維持する上で、周囲との繋がりを作ることは非常に重要なのです。
スケジュール管理
注意欠如・多動性障害(ADHD)などでは、衝動性や不注意といった特性があるため、物事を計画的に進めることを苦手とする傾向があります。大学での授業は自ら主体的に計画を立てて臨むことが求められるため、こうした特性のある学生には大きな負担となります。行事の日程などの連絡は学年暦やシラバスを通じて行われ、個別に対面で説明される機会は限られていますので、自分で情報を確認して行動する必要があります。
ホームルームや担任がいない学校が多い中、情報を整理して時間割を作ったり、単位計算をしたり、教室を移動して参加したりする作業は、多くの学生にとっても容易ではありません。また学業だけでなく、友人やサークル活動での約束も増えていきます。目の前にスケジュール帳があっても、他のことに気を取られると予定通りに行動することが難しいのが、この障害の特性による困難さなのです。
困りごとに対しての教育機関はどう支援してくれる?

対応は学校によって違う
発達障害だけではなく、障害のある学生への対応については、原則的な指針やマニュアル、事例などが文部科学省から各学校へ通知されています。しかし、実際に行われる支援は「障害者差別解消法」に定められた「合理的配慮」の範囲内となります。そのため、学校の規模や教職員数、施設、設備などの状況によって、実際の対応が異なるのが現実です。合理的配慮は、支援を必要とする側と提供する側が話し合い、建設的対話を通じて双方が合意できる範囲で提供されるものです。そのため、どちらか一方の判断だけで支援内容を決定するのではなく、相互の理解に基づいた調整が重要となります。
例えば、リソースが豊富な大規模な大学であれば、発達障害者を支援するための専門組織や人員、設備、ICT機器などが充実している傾向にあります。組織的な体制のもと、手厚い配慮を受けられる可能性が高いでしょう。一方で、規模の小さい大学、短大、専門学校では教職員の人数が限られており、設備や機器の拡充に制約がある場合もあります。実際にどのような支援が受けられるのかについては、入学前に個別に問い合わせて確認しておく必要があります。
しかし、規模の小さい学校には、少人数ゆえに一人ひとりの学生に目が届きやすく、困っている様子や変化に気づきやすいというメリットもあります。担任制を敷いている学校もあり、家庭的な雰囲気の中で手厚い支援を受けられるケースも少なくありません。また、学校によっては保護者との連携を密に行い、欠席状況や学内での変化についてきめ細かく共有してくれる場合もあります。さらに、医療系、心理系、福祉系の学部・学科であれば、教員が障害特性に詳しいため、より適切な配慮や支援を期待できるでしょう。画一的な設備が整っていること以上に、教職員が「支援には個別性が高い」という基本を理解し、柔軟に対応してくれる体制があるかどうかが、安心感に繋がります。
発達障害とは?
ここでは、発達障害とはどのような障害なのか解説していきます。2005年に施行された発達障害者支援法の第2条には、発達障害を以下のように定義しています。
「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」(発達障害者支援法第2条)
発達障害は現在のところ、主に3つに分類できると言っていいでしょう。
①自閉症スペクトラム障害(ASD)
広汎性発達障害とも呼ばれ、以下がその中に存在します。
・自閉症
・アスペルガー症候群
・レット症候群
・小児期崩壊性障害
②学習障害(LD)
知的な遅れはないにも関わらず、読み書き、計算などの特定の学生がうまくできない障害です。
③注意欠陥多動性障害(ADHD)
多動や注意力がない、衝動性が高いなどの症状が特徴として挙げられます。
発達障害の症状は人によって様々で、症状が重なっていることも多く、必ずしも明確な診断名が出るわけではありません。
発達障害の原因とは
発達障害の定義で触れられていますが、発達障害は脳機能の障害と言われています。ただし、具体的に何が脳機能の障害を起こしているのかについては、まだまだ解明されていない部分が多くあります。発達障害は、遺伝的要因や胎児期の環境などの先天的要因が関係していると考えられていますが、具体的な原因は未だ不明です。
しかし、自閉症スペクトラム障害の場合、胎児期の風疹への感染や、フェニルケトン尿症などに合併することがあるようです。一時期、ワクチン接種要因説がありましたが、現在は科学的に完全に否定されています。
また、最も重要な点として、「親の育て方」や「愛情不足」などが原因ではないという事実は、医学的に明確に証明されています。
発達障害の種類
ASD(自閉症スペクトラム障害)
発達障害の症状の出方は人によって様々です。自閉症スペクトラム障害と学習障害、注意欠如・多動性障害の境界が曖昧なように、自閉症や、アスペルガー症候群などのいわゆる広汎性発達障害も同様で、明確に分けられないケースも多く、一つの症状の様々な現れ方を境界が曖昧な連続体と捉え、自閉症”スペクトラム”と呼ぶようになりました。
特徴的な特性としては、「社会的コミュニケーションの困難さ」や「対人的相互作用の難しさ」があり、自分の意思を相手に伝えることや、周囲との関係を築く上で特有の困難さを抱える場合があります。また環境や状況の変化を嫌う傾向が強く(同一性の保持)、変化があると馴染めなかったり、変化を拒否するような強い反発やパニックを見せることもあります。新しい環境や新しいことに挑戦する場合は周囲の協力や工夫が必要です。
発達障害そのものは原因がまだ明らかになっていませんので、自閉症スペクトラム障害の原因も詳細はわかってはいません。発症率は約1%と言われていますが、男性の方が女性の4倍ほど報告数が多いようです。アスペルガー症候群のように、知的な遅れを伴わない場合、児童期に発見されないこともあり、生きづらさを感じながら社会生活を送るケースもあります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)
障害名のとおり、不注意や、多動、衝動性を中心とした特性を持つ発達障害で、その有病率は3~7%と発達障害の中でも多く、児童期では10%前後がADHDの特性を持っているとも言われています。また、男児の方が女児よりも報告数が多くなっています。
具体的な特性としては、集中力が持続しないため、仕事や学業において相手の話を最後まで聴くことが難しかったり、不注意によるミスが目立ったりします。また、じっとしていることが難しく、落ち着きがなく席を立ってしまうのが多動、そしてあまり深く考えずに行動してしまうのが衝動性です。衝動性が強いと、周囲からは予測しづらい行動に見えたり、事故や怪我、対人関係でのトラブルに発展してしまうケースもあります。
ADHDについても脳機能の特性という以外に原因は明確ではありませんが、ドーパミンやノルアドレナリンといった脳内物質の機能の偏りが見られるという報告もあるようです。
LD(学習障害、限局性学習症)
学習障害の有病率については諸説ありますが、文部科学省が令和4年に行った調査では、学習面で著しい困難を示す児童生徒の割合は6.5%にのぼると報告されています。
学習障害の大きな特徴として、読み書き、計算などの学習に関することが挙げられます。他にも、聞く、話す、推論することも含まれます。これら全てができないわけではなく、このうちの一つ、または複数が著しく苦手というケースも少なくありません。読み書きに関しても、読み書き全体が苦手な場合もあれば、どちらか一方が苦手、あるいは特定の文字の読み書きが困難ということもあります。
発達障害の方の就職でよくある質問
Q:発達障害があっても仕事は見つかる?
A:はい、十分に可能です。
就職の方法には、一般の方と同じ条件で応募する「一般枠」のほかに、障害への理解と配慮を前提とした「障害者雇用枠」があります。特に障害者雇用枠では、業務内容の調整や指示出しの工夫などの「合理的配慮」を受けやすく、自分らしく長く働き続けられる環境を選びやすくなります。
Q:働いている発達障害者はどのくらいいる?
A:令和5年の調査では約9万1,000人と推計されており、右肩上がりで増えています。
前回の平成30年(2018年)調査の約3万9,000人から、約2.3倍に増加しました。雇用形態で見ると、正社員として働いている方の割合も前回の22.7%から36.6%へと大きく上昇しており、活躍の場が広がっていることがわかります。
Q:発達障害でもできる仕事はある?
A:特性を活かせる仕事は多岐にわたります。
令和5年の厚生労働省の調査によると、発達障害のある方の職種別就業割合は以下のようになっています。
まとめ
発達障害のある方を含む障害者の大学への進学率や就職率は、年々高まってきている傾向にあります。日本が「障害者の権利条約」を批准して以降、国が障害者の大学等への進学や就労などの学習の機会の平等、そして社会参加を推し進めてきた成果が実ってきているとも言えるでしょう。
現在、障害のある人にとって、進学するのか就職するのかは、本人の希望や適性をしっかり考えた上で、本人と家族が話し合って決めるのがよいでしょう。
よりよい人生の選択をするために、大学等へ進学する場合は、発達障害があるとどのような困りごとが生じ、学校はどのような支援をしてくれるのかを事前に理解しておくことがとても重要です。
就職する場合にまずやることは、自分の性格や能力、向いていることを見極める自己分析です。そして、実際に自分が希望する企業や業界で働いていけるのか、どのようなサポートがあるのかといった企業・業界研究を行い、一般枠で働くのか、障害者枠で働くのかを選択することも大事なステップです。このような就職に関わる公的な支援機関についても紹介しました。
よりよい選択をするためには、事前に学習すること、情報を集めることはとても重要です。








