「障害者雇用促進法」 ~2013年改正の主なポイントを解説します~
更新日:2023年11月13日
「障害者雇用促進法」は1960年に施行された「身体障害者雇用促進法」として始まった社会保障法の一つです。この法律では事業主に一定の条件で障害者の雇用義務を定め、雇用すべき障害者の数を法定雇用率で定めるなどしており、社会情勢に合わせて定期的に見直しをしています。ここでは同法の2013年の重要な改正点について解説します。
目次
「障害者雇用促進法」の沿革と概要
「障害者雇用促進法」正式は法律名は「障害者の雇用の促進等に関する法律」と言います。
1960年、施行当初は「身体障害者雇用促進法」という名称でした。当時、身体障害者は太平洋戦争の戦禍によって障害者となった国民が大多数で、優先的に対応すべき対象でした。
1976年には身体障害者の雇用については”努力義務”であったものが”雇用義務”へと改正されました。「国連障害者の十年(1983~1992)」など、国際社会で障害者の権利に関する運動が活発化すると、1987年には「障害者雇用促進法」に改称され、その対象者を身体障害者以外にも拡大し、知的障害者も含まれるようになりました。
2006年の改正では精神障害者も対象に拡大し、2013年の改正では国が「障害者の権利に関する条約」を批准するために障害者関連法を要件を満たすよう改正、公布し、「障害者差別禁止法」を成立させ、2013年末に同条約を批准しました。今回の「障害者雇用促進法」の改正はこの動きと連動しています。
「障害者雇用促進法」は第1条が総則で目的、理念や障害者の定義などが書かれています。
第2条は職業リハビリテーションの推進とし、主に障害者の雇用に関する公的機関について、第3条に対象障害者の雇用義務に基づく雇用促進とし、法定雇用率、その対象となる事業主、雇用調整金(補助金)納付金などについて述べており、第4、5条は雑則となります。2013年の改正の1つ目のポイントとなる「障害者に対する差別の禁止」、「合理的配慮」という言葉は「障害者の権利条約」に記されているキーワードなのです。
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・障害者雇用が進まない企業が抱える課題
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「障害者雇用促進法」2013年改正3つのポイント
2013年に改正された「障害者雇用促進法」の施行は2018年の4月からとなっており、すでに実施されて4カ月ほどが経つことになります。
それでは激変緩和措置2013年の改正では大きくは3つのポイントとその他従来と変わった点、変わらない点がありますので見てましょう。
1.障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務
まず、”差別の禁止”というのは大きくは二つあり、一つはその求人などに応募してきた障害者に対して、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)を理由に採用を拒否してはいけないということがあります。
つまり、その人が車いすだから、人工呼吸器をつけているから「うちの会社は働ける環境ではない」という理由はこれに相当します。募集、採用の機会は障害を持たない人と均等でなければなりません。
二つ目は、同様に障害があることを理由に障害を持たない人より賃金を低く設定したり、賃金を引き下げること、研修、実習などを受けさせない、昇進をさせない、食堂や休憩室など会社の施設、設備の利用を認めないなども差別に相当します。賃金の決定、教育訓練の機会、人事、福利厚生施設の利用は障害を持たない人と公平でなければなりません。
また、他の従業員に障害者の人権や特性などの障害に関する教育や雇用への理解を求めるなどもこの項目に含まれています。
次に”合理的配慮の提供義務”ですが、障害を持つ方が採用試験を受けたり、実際に労働する上で、その人の障害に合わせた配慮をすることが求められます。
具体的には、例えば視覚障害者の方が採用試験を受ける際、試験問題を点訳する、音読する、解答時間を延長するなどがあります。
実際の労働場面では、車いす利用の人に机や作業台の高さを調整する、知的障害や発達障害、聴覚障害などを持つ人に対して口頭だけではなく、視覚的な資料やマニュアルを使って指導する、筆談道具を準備、使用する、手話通訳者、要約筆記者を配置または派遣する、相談員を配置する、ラッシュアワーを避けた勤務時間に変更するなどが想定されます。
これらの配慮を行うことは当然、経済的な負担も必要となりますが、一定の条件下で障害者雇用促進納付制度の補助金の対象になります。
2.苦情処理・紛争解決援助
上記の障害者に対する差別の禁止、合理的配慮に関する事項について障害を持つ労働者から雇用主に対して苦情の申し出があった場合、事業所内において自主的に解決するよう努めなければなりません。
また当然のことながら、相談員などを介して苦情がスムーズに相談、申し出できる体制を組織する必要が出てきます。
もし、事業所内において苦情が自主的に解決できない場合、都道府県労働局長による紛争当事者に対する助言、指導、監督、及び労働局長に委任された紛争調停委員会の委員による調停、または調停案の策定、受諾勧告がなされる、いわゆる紛争解決援助を受けることになります。
3.法定雇用率の算定基礎の見直し
今回の改正での大きな前進の一つは対象に精神障害者が加えられたことです。
これにより、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)すべてが対象となりました。精神疾患は後天的要因が大きく、日本では増加の一途で大きな社会問題となっており、総数は身体障害者の総数とほぼ変わらない400万人弱(厚労省H26年調べ)で、既に雇用されていた人が精神障害者になるケースも多いので、この算定基礎の見直しも当然のことと言えるでしょう。
法定雇用率の算定式(2018年4月以降)
法定雇用率:
=(身体・知的・精神障害者の常用労働者数+失業している身体・知的・精神障害者数)÷(常用労働者数-除外率相当労働者数+失業者)
法定雇用率も5年ごとの見直しとされていますので、今回の改正では民間企業は2.2%、国、地方公共団体等は2.5%、都道府県等の教育委員会は2.4%となっています。
しかしながら、この5年間の民間企業の雇用率2.2%は激変緩和措置としての数値となっており、民間企業に関しては2021年までに2.3%に段階的に引き上げるとしています。ちなみにパートタイム雇用者は0.5ポイントでカウント、重度身体障害者、重度知的障害者は1人雇用で2人分と計算します(ダブルカウント)。
今回の改正で注意しなければならない点として、対象となる事業主の範囲も拡大され、従業員50人以上の事業主から従業員45.5人以上の事業主となりました。
また除外率は障害者が就業するのが困難と思われる業種について、各業種ごとに率が定められていますが、ノーマライゼーションの観点から順次廃止とすることが決まっています。
現状は経過措置として残されており、この点はしっかりと確認する必要があります。
除外率は障害者雇用促進法の改正ごとに縮小される傾向にあります。除外率が高い業種としては船舶運行等が80%、幼稚園、幼保連携型認定こども園が55%、道路旅客運送業、小学校が50%となっています。
次に特例子会社と認定された子会社を持つ親会社はその子会社の障害者の実雇用率を合算できる特例子会社制度については変更はありません。
また親会社が特例子会社とその他グループ内の関係会社の雇用率を合算できるグループ適用もできます。このような特例子会社には2017年で500社近くが認定されています。
障害者雇用納付金制度についても今回の改正で対象事業主に拡大変更があり、常用労働者100人以上の事業主については雇用率未達成の場合、障害者雇用促進のために徴収される納付金、不足1人に付き5万円(雇用者数により減額あり)を支払うようになりました。
また納付金から拠出される障害者雇用促進に対する取り組みへの補助金に関しても、障害者相談窓口担当者を配置するもしくは相談業務を外部に委託する場合、そして手話通訳者に加えて要約筆記者の委嘱も補助金の対象となりました。
障害者雇用促進法と障害者雇用の考え方
事業主側として障害者雇用促進法における障害者雇用の留意点としては、まず今回の様な激変緩和措置はあるものの、障害者の範囲や雇用率は定期的に見直される点です。
一度、現法の雇用率を満たした、改正点に合わせて人員を配置し必要な処置を講じても数年のうちに次の改正がやってきます。厚労省からの通知を見落とさないようにする必要があります。
また、根本的な問題として、基本的人権は障害者もそうでない人も一緒ですから事業主を含む、雇用側と同僚となる被雇用者は差別を防止するためにしっかりとした人権理解と障害特性などを知る必要があります。
特に精神障害や発達障害を持つ人は見た目や少し関わっただけでは障害がない人と違いが判らないケースが多く、専門家などから事前に接し方を学んでおくということも今回の障害者の差別禁止、合理的配慮に一致するのではないでしょうか。
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障害者雇用については、「障害者雇用促進法」という法律で義務付けられていますが、障害者雇用促進法には、他にも障害者差別の禁止や合理的配慮の提供の義務などが定められています。
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