障害者雇用の業務切り出し方法と成功事例を解説
更新日:2026年10月20日

法定雇用率の引き上げに伴い障害者雇用に取り組む企業が増える一方、採用後の「業務切り出し」に悩む事業所は多く存在します。業務の切り出し方を間違えると、定着率の低下や現場の負担増につながりかねません。本記事では、障害者雇用における業務切り出しの具体的な手順や押さえるべきポイント、さらに製造業・医療福祉業・小規模サービス業などの成功事例まで詳しく解説します。
障害者雇用の専門チームによる監修記事
本記事は、国内最大級の障害者転職支援サービスを運営するatGP(アットジーピー)が監修しています。2,000社以上の支援実績に基づいた実務情報を提供します。
目次
障害のある方が得意な業務とは
症状や個人によって得意分野は違う
障害者への業務の切り出しをおこなう際にまず理解しておかなければならないのは、その障害者が何が得意で何が不得意かはその人の持つ障害特性と個性によるということです。
障害のない従業員にしても得意、不得意はあります。この場合、適性を見極めて入社後の配属部署を決定し、その後育成するなかで配置転換ということもあり得ます。
同じく、障害者にも当然、一人一人に育ちや経験からくる個性があります。しかし、そこにさらに障害特性というものがあり、それを加味して仕事を創出する必要があります。
障害特性によってできないことでも、適切な配慮をすればできることもあれば、そうでないものもあります。
障害者を雇用する場合は、その人にどのような障害があって、それによって何が得意で不得意か、自社で任せられる仕事があるのかを採用前から考えておくことが重要なのです。
実際に障害者の方でも任せられる仕事について例を挙げていきます。
マニュアル化できる定型的な仕事
例:事務職 / 清掃 / 工場内作業
例えば事務職、清掃業務、工場内作業などはルーティン作業であり、やり方に大きな変化があまりないこのような作業は、マニュアル化すれば再現性が高くスムーズに進められます。
特にやり方が標準化されていたり、指示が明確な業務は、知的障害者や発達障害者に向いています。そもそも、障害者雇用枠での仕事はこの手の定型業務も多く、これらを前職でしていたり、就労移行支援や就労継続支援のサービスを受けていた障害者なら多くは経験しているものです。
特化した能力や感性を活かせる仕事
例:エンジニア / デザイナー
移動が不自由であったり、身体的な作業に制限がある身体障害者や、他者との対人コミュニケーションが得意ではないが、得意分野に並外れた感性や集中力を見せる自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害のある方、うつ病などの精神疾患のある方なども、一人でパソコンに向かうようなITエンジニアやWEBデザイナーに向いています。これらの障害のある方の中には自ら就労に向けて自学していたり、就労移行支援の訓練でこれらのスキルを身につけていることもあります。
切り出し対象になりやすい業務の特徴
障害者雇用において業務を切り出す際は、どのような仕事が適しているかを見極めることが重要です。まずは以下の「6つの特徴」に該当する業務がないか、社内のタスクを整理してみましょう。
1. 判断がシンプル: 高度な意思決定を必要としない業務
2. 再現性が高い: 手順が定型化されており、繰り返し進められる業務
3. 継続性がある: 単発ではなく、定常的・定期的におこなう業務
4. 専門性が低い: 特別な知識や資格を必要としない業務
5. 対人が少ない: 他部署や顧客との複雑な折衝・交渉が発生しない業務
6. 後回りしがち: 「重要だが緊急ではない」ため既存社員の手が回っていない業務
これらの特徴にあてはまるタスクを集約し、マニュアル化や手順の可視化をおこなうことで、障害のある方が安心して能力を発揮できる業務へと再構築することができます。
障害者をどんな業務やポジションで採用したらいいのかで悩んでいませんか?
そんな企業様におすすめの「業務切り出し」についてご紹介します。
この資料でわかること
・障害者雇用における課題「業務・ポジション」
・業務切り出しの進め方
・採用手法
業務の切り出し方法
1.対象部署の決定
障害者の業務を切り出す場合、まずは対象部署の選定から始めます。部署の選定では、可能な限り全ての部署の責任者による会議をおこなうようにします。
障害者雇用の目的、障害者雇用促進法の概要、企業の社会的責任などについて理解を深めます。
アンケートの活用や社内公募など代替の手段はありますが、その場で意見の交換ができる会議型式なら、障害者の特性や各部署の切り出し可能な業務についてその場で具体的に共有、理解ができ、より的確な部署の選定、切り出し業務の洗い出しが可能になります。
2.業務の洗い出しと作業レベルへの細分化
業務の切り出しを成功させるポイントは、対象部署の業務を棚卸しし、作業レベルまで細分化(工程分解)することです。一見複雑に見える業務も工程ごとに分解すると、切り出し可能な作業が見えやすくなります。
【工程分解の例:顧客管理】
情報収集シート作成 ➔ 確認依頼 ➔ データ修正 ➔ ステータス更新
このように分解した上で、作業の難易度、所要時間、必要なツールや配慮事項などの詳細を整理していきます。
最初から全工程を一人で任せるのではなく、慣れるまでは指導担当者が付き添うなど、段階的に業務範囲を広げられるような配慮もあわせて検討しておきましょう。
3.業務の比較表化と優先順位付け
洗い出した業務は、作業内容・所要時間・発生頻度・難易度・委任可否などで一覧化し、比較表にまとめます。表で比較することで切り出しの優先順位が明確になり、任せるべき業務を客観的に絞り込めます。
切り出す業務を決定する際は、作業の難易度や必要なツールだけでなく、「対象となる障害者のイメージ」「必要な配慮事項」まで具体化します。
特に初めて障害者を採用する部署では、全工程を最初から一人に任せるのではなく、業務量を調整しながら段階的に任せる計画や、慣れるまで指導担当者が側に付くサポート体制まで含めて決定しておくことが大切です。
業務切り出しの成功事例
ここで紹介する事例は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が公表している「障害者雇用職場改善好事例」等の事例集を参考に作成したものです。業種や企業規模によって業務切り出しのアプローチは大きく異なります。自社の規模や業態に近い事例をぜひ参考にしてください。
事例1:中小企業(製造業)
【課題と背景】
創業前から障害者雇用に関心を寄せていた同社の代表は、「機会があれば自社でも障害のある方を迎え入れたい」という強い想いを抱いていました。しかし、自社のような中小企業でどのように受け入れを進めるべきか手探りの状態だったため、まずは地域障害者職業センターに相談し、受け入れノウハウや助言を受けるところからスタートしました。その後、就労移行支援事業所からの人材紹介を受け、職場体験実習やトライアル雇用といった段階的なステップを丁寧に進めることで、ミスマッチを防ぎながらスムーズな採用へとつなげていきました。
● 取り組み内容
・工程の分業化: 制作工程を細かく分け、障害のある方が従事しやすい単位に業務を切り出し。
・スキルマップの導入: 工程ごとの習熟度を「見える化」し、本人と指導者が成長度合いを共有。
・指導・管理体制の強化: 「障がい者雇用促進室」を設置し、ジョブコーチ研修修了者がマンツーマンで指導。作業日報やセルフケアシートで体調変化を早期把握。
● 成功のポイント
元々の分業体制を障害者雇用へ転用し、「配置して終わり」にせずスキルに応じて次の工程へステップアップできるステップを用意した点です。
● 成果
当初の想定以上の戦力化を実現。周囲の現場チーフのマネジメント能力向上や、社員同士の気配り・配慮の意識向上といった組織的な相乗効果も生まれました。
事例2:大手企業(医療・福祉業)
【課題と背景】
福岡県にあるこちらの医療法人(従業員551名)では、平成25年に障害者手帳を持つ職員が退職したことをひとつのきっかけとして、組織的な障害者雇用の本格化に取り組み始めました。平成29年には専任組織である「障がい者雇用推進室」を発足させ、障害のある方が現場で存分に力を発揮できるよう、独自の専門職種「ケアメイト」を創設。介護や看護の現場で発生する周辺業務を集約・集約化することで雇用枠を拡大し、現在では正規職員を含め多くの障害のある社員が活躍する体制を確立しています。
● 取り組み内容
・ 病院・施設ごとの業務切り出し: 病院では病棟の朝食下膳・ゴミ回収・清掃、老健ではシーツ交換・配茶、デイサービスでは食事準備・室内清掃などを担当。
・ 実習から採用へのプロセス: 2〜14日間の実習を経て適性を見極めてから採用。
・ キャリアアップ制度: 年1回のチェックシート評価により、実績に応じた正規職員登用制度を導入。
● 成功のポイント
現場の看護師・介護士が「本来の専門業務」に専念できるよう、周辺業務を集約して専門職種(ケアメイト)として切り出した点です。
● 成果
専門職の業務負担が大幅に軽減され、施設全体の業務効率化が達成されました。
事例3:小規模企業(従業員10名・サービス業)
【課題と背景】
従業員10名ほどの小規模なサービス業を営む同社では、「少人数の職場環境で、どのように業務を切り出せばよいか」という課題に直面していました。今回採用に至った方は、複数の業務を同時並行で進めたり優先順位を瞬時に判断したりすることが苦手な特性(ADHDなど)を持っていました。大企業のように大規模な部署移動や業務切り出しが難しいからこそ、同社では面接時から支援機関の専門員に立ち会ってもらい、本人の特性や配慮すべきポイントを事前にしっかりと把握した上で受け入れる環境整備を進めていきました。
● 取り組み内容
・ 指示・スケジュールの可視化: 1週間・当日単位のスケジュールを事務所内に掲示し、「一度に一つの指示」を徹底。
・ 集中できる環境の整備: 共同事務室での業務が難しい場合に備え、パーテーションで区切った個別スペースを用意。
・ 定期的フォロー: 月1〜3回の定期面談と日報により、体調や不安の早期把握を実施。
● 成功のポイント
大企業のように大規模な業務切り出しをしなくても、「指示の出し方」「働く場所」「休憩の取り方」といった環境調整に重点を置いた点です。
● 成果
本人が自作のマニュアルやスケジュール表を活用しながら安心して業務に取り組めるようになり、ON/OFFの切り替えを保ちながら長期定着につながっています。
障害者雇用で業務を切り出す際のポイント
現場に障害者雇用についての理解や配慮を促す
事業所やその部署において、初めて障害者を雇用する場合、雇用計画の段階から障害者雇用について現場サイドの理解を求めておくことが重要です。
事業主や人事担当者のみが障害者雇用を理解し取り組んでも、障害者を受け入れる現場サイドを放っておいては後にトラブルしか残りません。
実際に受け入れて共に働く現場の従業員が正しい障害に対する理解をし、適切な関わり方、配慮ができるように研修なども計画的に実施していきます。
現場との連携を細かくしておく
障害者への業務を切り出すうえで、障害者の雇用計画の段階から現場との連携を密にしていくことが望ましいでしょう。
計画の段階から事前に業務の切り出しについて話し合いができていれば、採用後の配属部署や必要な配慮などについてもスムーズに段取りができます。
実際に障害者が配属された後も部署や業務への適応具合などを定期的に確認するなど、定着に向けた支援をするために現場との連携は欠かせません。
業務はマニュアル化しておく
昨今、障害者雇用とは関係なく、今まで長く社内で先輩が後輩に口伝えや手取り足取り教えていた業務をマニュアル化するという改革が事業によってはおこなわれています。
マニュアル他者に業務のやり方を聞かずに済み、自分で必要な時に確認できるのでで障害がない従業員にも非常に便利なものです。
マニュアルはできる限り視覚的にわかりやすい絵や写真、記号、ピクトグラムなどを取り入れ、文章を少なくし、小冊子、PDFなどスマホ携帯できるものが便利です。
障害のある方が業務に慣れ、定着するには長い期間が必要であることを理解する
障害のある方が業務を習得し、職場に定着するまでには一定の期間を要します。障害特性によって慣れるまでのプロセスや配慮すべきポイントが異なることを理解しておくことが大切です。
● 知的障害: 抽象的な指示や複雑な思考が難しく、業務の習得までに時間を要する傾向があります。
● 発達障害(ASD・ADHDなど): 新しい環境や未経験の作業に慣れるまで時間を要しますが、手順が定型化されれば高いパフォーマンスを発揮します。
● 精神障害(うつ病など): 疲れやすくストレスの影響を受けやすいため、体調に合わせた勤務時間やペース配分が必要です。
入社初期はフルタイム相当ではなく、0.5人分程度の業務量から無理なくスタートするのが効果的です。また、「障害者職業生活相談員」を配置して進捗状況を管理するとともに、定期的に本人と面談を行って意見や不安を聞き取る姿勢を持ちましょう。本人の声を反映しながら業務量や配慮事項を微調整していくことが、長期的な定着支援へとつながります。
「業務切り出し」資料を無料ダウンロードできます
障害者をどんな業務やポジションで採用したらいいのかで悩んでいませんか?
そんな企業様におすすめの「業務切り出し」についてご紹介します。
この資料でわかること
・障害者雇用における課題「業務・ポジション」
・業務切り出しの進め方
・採用手法
業務創出に行き詰まったときの相談先
社内だけで業務の棚卸しや切り出しを進めようとしても、「自社には任せられる業務がない」「現場の理解が得られない」と行き詰まってしまうケースは少なくありません。そうした場合は、外部の専門機関や公的支援を積極的に活用するのがおすすめです。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が全国47都道府県に設置している専門機関です。
企業に対して障害者の雇用管理や業務選定に関する専門的なアドバイスを無償で提供しています。「どのような業務が切り出し対象になるか」の検討段階から、職務の再構築、採用後の職場適応援助まで、専門の障害者職業カウンセラー等が具体的なソリューションを提案してくれます。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、求人募集や採用支援だけでなく、障害者雇用の準備段階からの相談窓口としても機能しています。
地域障害者職業センター等の専門機関と連携しながら、事業所の実情に応じた業務の切り出しや配慮事項の検討をサポートしてくれます。また、障害者雇用の導入にあたって活用できる各種助成金(特定求職者雇用開発助成金やトライアル雇用助成金など)の案内・申請手続きについても一括して相談することが可能です。
民間の障害者雇用サービス・ジョブコーチ
公的機関に加えて、民間の障害者雇用支援企業や「ジョブコーチ(職場適応援助者)」の活用も非常に有効です。
民間の専門サービスでは、他社での事例ノウハウをもとにした業務抽出の代行やマニュアル作成、社内向け研修の実施まで、より現場に踏み込んだ手厚いコンサルティングを受けられます。また、ジョブコーチ制度を活用すれば、専門家が実際に職場へ訪問し、障害のある社員への業務指導や現場スタッフとのコミュニケーション調整を直接サポートしてくれます。
自社だけで対応するのが困難な場合は、業務の切り出し・設計から採用、その後の職場定着まで一気通貫で伴走してくれる外部の専門サービスに相談するのも一つの有効な手段です。
まとめ
障害者雇用での業務切り出しに困っている事業所が多くあるのは事実です。しかし、実際に切り出す業務がないなんてことはないとも言えます。
業務を無理なく切り出すためには、雇用計画を作る段階の準備が重要といえます。
事前に社内で障害者雇用に向けてしっかり受け入れ体制を作るなかで自然と切り出せる業務も見つけられるはずです。
そのためには、しっかりと事業主や採用担当者が各部署と連携を取り、情報を共有すること、そしてしっかり障害者理解を深め、実際の配属に当たっては、一人一人にあった配慮やサポートすることで結果的にその切り出した業務がその障害者の方にとって適切な業務となっていくのではないでしょうか。
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