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障害者雇用での新卒採用の動向と大卒者が障害者枠を利用するメリット

更新日:2024年09月14日

独立行政法人日本学生支援機構が発表した「令和2年度(2020年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査」によると、令和元年5月1日現在で、全国の大学、短期大学及び高等専門学校における障害学生数は37,647人で全学生数の1.17%でした。調査を開始した平成18年度は障害学生数4,937人(0.16%)でした、それから年々増え続けており、今後さらに人数が増えると予想されます。大卒者全体の就職環境は、2010年のリーマンショック以降の景気回復や、少子高齢化による労働人口の減少により、2020年までの求人倍率は高い状況にあり売り手市場が続いています。しかし、障害者雇用促進法に定められた法定雇用率を達成している企業の割合は、いまだ 48.0%で障害を持つ大学生が就職するのは決して簡単ではありません。今回は大卒障害者の就職活動の動向や、障害者採用枠で就職するメリット、効率的な就職活動の進め方などについて解説します。

障害者の新卒採用の動向

大卒見込みの障害学生は大きく増えています。では大卒障害者の就職活動の動向はどのようになっているのでしょうか。コロナの影響後の障害者採用の動向にも触れてみましょう。

 

法定雇用率について

民間企業や国、地方公共団体などの事業主は、「障害者雇用促進法」によって常用労働者に対して一定の割合以上の障害者を雇用が義務づけられています。この基準を「法定雇用率」と言って、法定雇用率を達成できなかった事業主は、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて障害者雇用納付金を納付しなければなりません。

民間の法定雇用率は2.2%ですが、厚生労働省が公表した「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」によると、前年に対して0.06%増加しましたが実雇用率は2.11%で、法定雇用率を達成した企業の割合は 48.0%しかありませんでした。

 

コロナ禍での障害者採用動向

採用市場では、好調な日本経済と少子高齢化による労働人口の減少により、新卒採用・中途採用ともに売り手市場が続いていましたが、今般の新型コロナウイルス感染症の流行拡大で、企業の採用動向にも変化がみらます。

 

新型コロナウイルスによる自粛で、大きな影響を受けた飲食や宿泊、観光、百貨店などの業界では採用意欲が減少、コロナの影響で逆に忙しくなったITや物流、医療などの業界では、採用意欲が高くなっています。また、大企業では法定雇用率の改正が予定されていることから、障害者採用に継続的に取組む企業が多い一方で、中小企業では障害者の採用に慎重な姿勢を見せる企業が多いなど、業種や会社の規模で採用動向は2極化しているようです。

 

企業の採用活動は、約4~5割は継続して活動を行う予定ですが、5~6割は採用をストップしている状況です。しかし、これまで人材確保に苦労していた企業では、競合企業が少ない状態で採用活動を行えるチャンスと見るところもあります。

大卒障害者が障害者雇用枠を利用するメリット

障害のある人が就職する際には、企業に障害のあることを開示せず(クローズとも言います)一般採用枠で就職を目指す方法と、障害を開示して障害者採用枠で就職する方法(オープン)の2つがあります。では障害者採用枠を利用して就職するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

大企業や有名企業に入れる確率が上がる

障害者雇用促進法では、法定雇用率を定めて、企業に対して一定の割合以上の障害者の雇用を義務づけています。現在、民間企業の法定雇用率は2.2%で、従業員を45.5人以上雇用している企業は、障害のある人を1人以上雇用しなければなりません。

 

常用雇用者が100人以上の企業が、法定雇用率を達成できない場合には、不足する障害者の人数に対して1人当たり月額5万円の障害者雇用納付金が徴収されるだけでなく、障害者の雇用状況に改善が見られない企業は、企業名が公表されます。

 

障害者雇用は、法律で定められた義務だけでなく、企業の社会的責任(CSR)でもあります。そのため多くの大企業や有名企業は、障害者採用枠を設けているため、一般採用枠では就職が難しいような企業でも、障害者採用枠では就職できる確率が上がります。

障害者雇用促進法

法定雇用率

 

 

給料や待遇は一般枠と変わらない

障害者採用枠と一般採用枠では、障害者採用枠の方が平均年収が低いというデータがあり、障害者採用枠のデメリットと考えられています。
障害者採用枠の平均年収が低いのは、

 

1)障害者採用枠で働く人の中には、フルタイムの正社員ではなく、非正規や週30時間未満の短時間労働の人も含まれている

2)そもそも給与水準が低い企業で働いている

 

などが要因となっています。

 

しかし、新卒の障害者採用枠の求人では、異なる待遇にすることは障害者差別となることから、一般採用枠と同様の給与や待遇となっています。

 

障害の配慮やサポートが受けられる

障害者採用枠で就職する最大のメリットは、障害に対する配慮が得られやすいことにあります。その配慮は、入社後だけでなく選考の段階でも期待できます。

 

障害の種類によって、視覚障害者には文字や用紙の拡大、聴覚障害者には手話通訳の手配や、書面や筆談での対応、身体障害者には試験会場や机への配慮、別会場での選考などの合理的な配慮が必要となります。障害者枠での採用を予定している企業の人事担当者は、障害についてある程度の知識を持っていると考えられるので、事前に相談することで、適切な配慮やサポートを受けることができます。

 

入社後についても、必要な配慮やサポートを得ることによって、早期に退職することなく継続的に就労することが可能となります。

大卒障害者の給料や待遇の実態

では、実際に大卒障害者の給与や待遇はどうなっているのでしょうか。

 

給料面について

厚生労働省の発表した「平成30年分民間給与実態統計調査結果について」によると、1年間を通じて勤務した給与所得者の平均給与は男性で545,000円、女性が293,100円、男女計で440,700円でした。

 

一方で、同じく厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査結果」によると、通常(週30時間以上)勤務している障害者の週所定労働時間別平均賃金は、身体障害者で268,000円、知的障害者は157,000円、精神障害者は193,000円、発達障害者は155,000円と、いずれも一般採用枠に比べるとかなり低くなっています。

 

また、厚生労働省が発表した「令和元年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況」によると、大卒者の初任給は男性で212,800円、女性で206,900円、男女計は210,200円でした。大卒障害者が、新卒採用で入社した場合には、障害者採用枠でも一般採用枠と同じ初任給となります。したがって、障害を持つ大学生は新卒で就職するのが、絶対的に有利と言えます。

 

待遇面ついて

給与以外の待遇面についても、大卒障害者が新卒で就職する場合には、一般採用枠と同じ条件であることがほとんどです。しかし、配属先や勤務時間、通院のための休日の変更など、さまざまな面で障害に対する配慮を受けることができる可能性があります。

 

しかし、障害により業務の幅が狭かったり、部署の異動が難しいなどのケースがあると、差別ではありませんが、他の社員より昇給や昇格が遅くなることは考えられます。
 

障害者雇用で新卒採用する企業側のメリット

一方で、大卒障害者を新卒採用する企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

ある程度の学力を備えた障害者で、母集団(採用候補者)を形成できる

障害者採用枠であっても、企業はできるだけ優秀な人材を採用したいと思っています。大学を卒業する見込みということは、ある程度の学力を有しており、学部や学科によっては自社の業務に関係のある専門知識を学んできた可能性があります。

 

また新卒の採用スケジュールは、ある程度決まっているため、他の応募者と併せて募集や説明会の開催をして母集団を形成することができるので、人事担当者としては負担が少なくなります。

 

通勤や、職場環境に対応できる可能性が高い

大学を卒業見込みであるということは、ある程度は自分の力で、大学への通学や授業に対応してきたと考えられます。したがって、入社後は特別な配慮をしなくても通勤や職場環境に対応できる可能性が高いと言えます。

 

一方で、大卒であっても中途採用の場合には、大学卒業後に障害になった人や障害が重くなったケースもあり、障害が通勤や業務にどの程度の影響があるのか判断するのが難しい場合があります。

 

障害の受容と、最低限のコミュニケーション能力(協調性)が期待できる

障害者採用枠で応募する大卒障害者は、ある程度自身の障害について理解し受容していると判断できます。
障害のない人たちと一緒に大学生活を過ごしてきたということは、自身の障害について受容し、周りの人たちとコミュニケーションを取りながら協調してきたと判断でき、入社後も他の社員とうまくやっていける可能性が高いということです。

 

一般の新卒採用と同時に採用活動ができる

企業の採用活動は、募集・説明会・応募受付・書類選考・面接試験・内定者決定・内定者フォロー・入社といった工程があります。また、それぞれの工程には準備が必要で、人事担当者・採用担当者は年間を通じて多忙です。

 

障害者採用を新卒採用のスケジュールとは別に実施すると、人事担当者・採用担当者の負担は2倍になります。そのため、企業としては障害者の採用を別スケジュールで行うより、新卒の採用活動と並行して行いたいと考えます。

 

内定から入社まで期間がある

新卒採用では、政府から日本経団連や日本商工会議所に対して、選考開始時期を6月1日以降、正式な内定を10月1日以降にする要請がされ、会員企業に対して周知がされています。したがって、最も早く内定を出した場合には入社まで5か月の期間があります。

 

一方で中途採用の場合には、選考から数日~長くても2か月程度で入社するケースが多くなっています。内定から入社までの期間が長ければ、建物内のバリアフリー化などの施設や設備の対応や、配属予定の部署における受入れ体制の整備など十分な準備をすることができます。

 

特に初めて障害のある人を受け入れる部署では、メンバーに対して障害について理解してもらうような研修や、教育担当となる人を配置するなども必要となります。このように受け入れの準備を行うことで、入社した障害者は安心して働くことができます。

大卒障害者の効率的な就職活動方法

大卒障害者は障害者採用枠を使って新卒で就職するのが有利であることを説明してきましたが、ではどのように障害者採用枠で募集している企業を見つけたらよいのでしょうか。障害のある大学生が、効率的に就職活動を行う方法を紹介します。

 

就活サイトに登録する

就活サイト(就職情報サイト)は、たくさんの企業の企業情報や求人情報が検索できるサービスです。就活生は基本的に無料で利用することができます。業界別、職種別、地域別といった条件を入力して求人企業を検索できます。さらに資料請求やエントリー、会社説明会の予約などもできます。また、就職活動に役立つような情報やコラムなども掲載されています。

 

就活サイトの中には、障害者の求人に特化したものもあります。障害者専門の就活サイトでは、障害者採用で募集を行っている企業を検索できる他、障害の種類や必要とする配慮などでも検索できます。また、障害を持つ先輩社員のインタビューなども掲載されていることもあり、会社の雰囲気や配慮などについて知ることができるので、登録しておくようにしましょう。

 

ただし、障害者専門の就活サイトに求人情報を掲載している企業の中にも、障害があっても優秀な人材は採用したいと思っている企業がある可能性はあるので、一般の就活サイトも併せて登録するのがおすすめです。

 

また、多くの企業では自社のホームページにも採用情報を掲載しています。気になる企業があればホームページも確認するようにしましょう。

 

企業の選考に応募する

応募したいと思える企業が見つかったら、エントリーしていきましょう。就活サイトでは、企業のページからエントリーシートの入力をすることができます。応募者が多い大企業や人気企業では、エントリーシートによって書類選考が行われます。エントリーだからと油断すると、この段階で落とされることになります。

 

エントリーシートの内容は、企業によって違いますが、ほとんどの企業では志望動機の項目があります。エントリーシートを入力する際には、事前に自己分析や企業研究をしっかりと行うことが重要です。自己分析や企業研究ができていない状態では、採用担当者が納得できる志望動機を書くことができません。

 

就職エージェントに登録する

就職エージェントは、民間企業が運営する職業紹介サービスです。一般に公開されていない求人情報を持っていることがあり、その中から自分に合った求人の紹介してくれます。また求人の紹介だけでなく、専任の担当者が就職活動の進め方から入社までサポートまでしてくれます。エントリーシートや履歴書の書き方や面接試験の対応などについても、アドバイスしてくれるので、就職活動に自信がないといった人は利用してみるとよいでしょう。

 

今年は新型コロナウイルス感染症の流行により、合同企業説明会、就職フェアなどのイベントやインターンシップが開催されず、例年の就職活動とは動きが変わっています。一方で、オンラインによるセミナーや説明会を開催する企業が増え、面接試験もオンラインで行われるケースもあります。

 

企業は、今後ますます「Zoom」や「Skype」などのオンライン通話サービスを使ったWEB面接を進めると予想されます。そのため、就職活動を行う学生はこれらのツールを使い慣れる必要があります。転職エージェントでは、オンラインカウンセリングのサービスを行っているところもあるので、WEB面接の受け方やコツについてもアドバイスしてもらうことができます。

新卒の障害者が就活で利用できる支援機関

キャリアセンター・就職課

キャリアセンターとは、大学で就職支援や進路支援業務を行う専門の部署のことです。就職活動に関する相談やカウンセリング、自己分析や模擬面接などの就活準備支援、大学に届いた求人情報の公開や各種合同説明会の案内など、一人ひとりに合ったサポートを提供してくれます。ぜひ有効に活用してください。

 

新卒応援ハローワーク

新卒応援ハローワークは、大学・大学院・短大・高専・専修学校などの学生・生徒の方や、これらの学校を卒業した方のためのハローワークです。障害について専門的な知識を持っている職員や支援員が配置されています。誰でも利用でき、無料で求人の紹介や職業訓練などの案内を受けられます。ハローワークの障害者相談窓口は、就職に関する相談だけでなく、生活面の相談もできます。

 

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、障害のある方が自立した職業生活をおくれるように、専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。受けられる支援は、「職業評価」「職業準備支援」「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」「リワーク支援」です。

 

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、企業などで働きたい障害者に対して、働くために必要な能力や知識を身につけるための職業訓練や、就職活動のサポート、就職後の職場定着の支援サービスを行う施設です。対象年齢は18歳以上からです。原則2年間利用できます。

大卒障害者は新卒採用を目指して就職活動を頑張りましょう

これまで解説してきた通り、障害者採用枠の雇用では、給与や待遇面で障害のない人と比べると低くなっています。

 

新卒採用では一般採用枠と同等の条件で働くことができます。新卒で障害のある人を積極的に採用する企業はまだまだ多くはありませんが、効率的に就職活動を進めて、障害者採用枠での就職を目指しましょう。

 

新型コロナウイルス感染症の影響による業績悪化により、新卒採用に消極的な業界もありますが、障害者雇用促進法で定められた法令雇用率が、2021年3月1日には2.3%に引き上げられるため、大手企業はさらに障害のある人を雇用することが必要となります。障害の特性によって、業種や職種が限定されることもありますが、その中でも自分に合った企業を見つけられるように効率的に就職活動を進めましょう。

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ライター:atGPLABO編集部(監修:戸田重央)

障害者専門の人材紹介として15年以上の経験とノウハウを活かし、障害者の雇用、就労をテーマとした情報発信活動を推進しています。 【監修者:戸田 重央プロフィール】 株式会社ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所所長。 企業の障害者雇用コンサルタント業務に携わった後、2015年より聴覚障害専門の就労移行支援事業所「いそひと」を開所、初代施設長に。 2018年より障がい者総合研究所所長に就任。新しい障害者雇用・就労の在り方について実践的な研究や情報発信に努めている。 その知見が認められ、国会の参考人招致、新聞へのコメント、最近ではNHKでオリパラ調査で取材を受ける。 聴覚障害関連で雑誌への寄稿、講演会への登壇も多数。

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