メンタルヘルスマネジメントの意義と効果、取り組む際の進め方とポイント
更新日:2022年09月29日
仕事や職業生活への不安や悩み、ストレスなどによって、メンタルヘルスが不調になる社員が増えています。メンタルヘルスの問題は、従業員のモチベーションが下がることによる生産性の低下だけでなく、最悪の場合には離職や休職になることもあり、人手不足で困っている企業にとっては深刻な問題です。今回は、従業員の心の健康を保つための方法である「メンタルヘルスマネジメント」ついて解説します。
目次
メンタルヘルスマネジメントとは
メンタルヘルスとは、英語を直訳すると「心の健康」や「精神保健」という意味ですが、最近では、「心身ともに充実した健康な状態を目指す」という意味で使われることが多くなっています。
近年、経済環境や雇用環境が急激に変化する中で、職業生活や仕事に対して、不安やストレスを抱える人が多くなっています。また、不安やストレスなど心理的な負担が原因で、休職や離職する人が増えています。
最悪の場合には、精神疾患を発症または自殺によって労災と認定されるケースもあり、大きな社会問題になっています。
そのような状況を受けて、厚生労働省では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)を定めて、職場における心の健康づくりの対策を進めています。従業員が生き生きと職場で働くためには、心の健康管理(メンタルヘルスマネジメント)が重要になっています。
メンタルヘルスマネジメントの目的
メンタルヘルスマネジメントの一番の目的は、従業員の心の健康を保つことで、従業員が持てる能力を最大限に発揮して職場で活躍することです。一人ひとりが、心理的な不安やストレスを持たず、生き生きと働くことで職場には活気が生まれ、生産性の向上が期待できます。
また、適切なメンタルヘルスマネジメントを行うことで離職者や求職者を減らし、人材の定着を図ることもできます。
メンタルマネジメントとの違い
メンタルヘルスマネジメントと似ている用語に「メンタルマネジメント」があります。メンタルマネジメントとは、心理面における自己コントロールや自己管理によって、モチベーションを維持向上させる方法です。
具体的には、目的達成のために緊張感を高めて集中力を発揮する、プレッシャーを克服する、必要に応じてリラックスするということを、自分の心理に働きかけてコントロールして、パフォーマンスを引きあげる効果を狙うものです。
日本でメンタルマネジメントが注目されるようになったのは、オリンピックの強化策としてトップアスリートへのメンタルマネジメント・プログラムの開発が行われたからです。
このようにメンタルマネジメントは、自らのパフォーマンスを引きあげるために、メンタルをプラスの方向に持っていくのがメンタルマネジメントで、基本的には自分で行います。
一方で、メンタルヘルスマネジメントは、職場の従業員が仕事や職業生活で不安やストレスを抱えて、メンタルヘルスが不調にならないように取り組むことを目的としており、実施するのは経営者や人事総務部門です。
なお、メンタルヘルスの不調は、不安やストレスだけが原因ではなく、モチベーションの低下も関連しています。そのため従業員にメンタルマネジメントを勧めることで、メンタルヘルスマネジメントへの効果も期待できます。
メンタルヘルスマネジメントがもたらす効果
企業が従業員のメンタルヘルスマネジメントに取り組むことで、次のようなさまざまな効果が期待できます。
従業員の離職・休職を減らせる
厚生労働省が公表した「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、メンタルヘルスの不調で、1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所は全体の7.8%。また、メンタルヘルスの不調により退職した労働者がいた事業所は3.7%でした。
常用労働者の内の割合では、1ヶ月以上休業した労働者は0.4%、退職した労働者は0.1%となっています。
職場でメンタルヘルスマネジメントに取り組むことで、従業員のメンタルヘルスの不調が原因の離職や休職を減らすことができます。
参考:厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_gaikyo.pdf
仕事の生産性をあげる
仕事に対するストレスや不安でメンタルが不調になると、仕事へのモチベーションが維持できなくなる、仕事の効率が低下するなど、本来その人が持っている業務遂行能力を十分に発揮することができなくなります。
従業員が心身ともに健康で生き生きと働ける職場環境を整備することは、従業員一人ひとりが能力を発揮して活躍できることにつながります。不安やストレスがない職場環境では、従業員は仕事にやりがいを感じて、業務の効率化や生産性が向上します。
管理職として人材育成に活かせる
近年、メンタルヘルスは特に重要なマネジメントスキルと言われています。メンタルヘルスマネジメントの知識を持つことで、部下のメンタルの変化に素早く気づき、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことができます。
心が健康な状態でなければ、いくら部下を育成しても成長は見込めません。管理職が部下のメンタルヘルスマネジメントに取り組むことで、人材育成の効果も期待できます。
メンタルヘルスマネジメントの取り組み例
企業が、メンタルヘルスマネジメントに取り組む際の社内体制の整え方や進め方について紹介します。
相談窓口を設ける
「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、仕事や職業生活に対する不安や悩み、ストレスについて相談できる人がいると回答した人は90.8%で、相談できる相手(複数回答)は「家族・友人」が75.8%で最も多く、「上司・同僚」は73.8%でした。つまり4人に1人は、不安や悩み、ストレスなどを感じても、職場の上司や同僚に相談できない状況であると言えます。
職場内にメンタルヘルスの相談窓口があると、従業員が仕事や職場の人間関係などの悩みについて相談しやすくなります。相談窓口にはメンタルヘルスの知識を学んだ担当者を置き、社外の専門家とも連携しながら従業員の心のケアに取り組みましょう。また、メンタルヘルスの不調によって休職した人の復職のサポートなども行うようにします。相談窓口を設置したら、窓口の役割や利用方法などの情報について社内に周知します。
ストレスチェック制度を導入する
2015年に「労働衛生安全法」が改正されて、従業員が50人以上いる事業所では毎年1回、ストレスに関するチェックを行うことが義務づけられました。ストレスチェックは、質問に回答して分析することで、自分のストレスがどのような状態かを簡単に調べることができる検査です。
「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、ストレスチェックを実施している企業の割合は62.7%でした。厚生労働省のホームページには「ストレスチェック制度導入マニュアル」が掲載されています。
50人未満の事業所や契約期間が1年未満の従業員、通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外ですが、従業員のメンタルヘルスの不調を防止のためストレスチェック制度を導入してはいかがでしょうか。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
セルフケアに取り組んでもらう
メンタルヘルスの健康を保つためには、従業員自身もストレスに関する知識や対処する方法などを身につけて、心のセルフケアを行うことが大切です。
意識的に休憩を取るようにしたり、適度な運動やストレッチ、仲間との会話など楽しいと思えることに取り組むことで、ストレスを軽減できます。また、不調を感じたら1人で悩まず専門家に相談することも大切です。
メンタルヘルスマネジメント検定の取得
メンタルヘルスマネジメントに取り組むには、ストレスやメンタルヘルスに関する基礎知識、メンタルヘルスマネジメントの意義や目的、効果などについて、経営層や管理職だけでなく一般の従業員も理解する必要があります。
メンタルヘルスマネジメントについて理解するひとつの方法として、「メンタルヘルスマネジメント検定」があります。メンタルヘルスマネジメント検定には、経営者や人事労務部門向けの(マスターコース)、管理職向けの(ラインケアコース)、従業員のセルフケアの方法を学ぶ(セルフケアコース)の3つのコースが設定されていて、社内の全員でメンタルヘルスマネジメントについての知識を得ることができます。
メンタルヘルスマネジメント検定公式ホームページ
https://www.mental-health.ne.jp/