統合失調症と上手く付き合いながら仕事をする方法
更新日:2022年09月09日
精神疾患の中でも、うつ病は有名ですが統合失調症を知らないという方も多いと思われます。一方で、統合失調症と付き合いながらの就職活動に悩む方や、就職後も「職場での理解を得られない」といった悩みを持たれる統合失調症の方は多いです。そこで、統合失調症を患っていても仕事を長く続ける方法について今回は書かせていただきます。
目次
統合失調症と、仕事での対処法
統合失調症の症状は大きくわけて3つに大別できます。
・ 陽性症状(妄想・幻覚)
・陰性症状(感情鈍麻・無為・自閉など)
・ 認知機能障害(記憶・注意・実行機能など)
陽性症状は100%服薬でコントロールできない場合もあり、また就職など環境の変化によるストレスなどから、症状が出現する場合もあります。
■職場で症状が出てしまったらどうするか?
統合失調症のある方から頂くお悩み事例を2つあげます。
⇒通勤途中の電車の中で幻聴が聞こえてきた
⇒職場の同僚や上司が関連した妄想が出てしまった
こういったケースの場合、統合失調症の方の反応として2つに分かれます。
1.通勤できなくなってしまう/仕事に集中できなくなってしまう
2.症状が出ても通勤、業務継続が可能
この違いはどこから生じるのでしょうか? ケース別に見ていきましょう。
■1.通勤できなくなってしまう/仕事に集中できなくなってしまう
通勤や集中できない場合の行動や思考を整理すると下記の様になります。
【通勤途中で幻聴が聞こえてきた】
⇒途中で電車を降りてしまう
⇒職場に電話をかける「今日は出勤できません」
【職場の同僚や上司が遠くで自分のことを話しているような気がする】
⇒自分のことを言っているに違いないと確信する
⇒仕事に集中できなくなってしまう
⇒次の日欠勤するなど勤怠に影響する
【就業中、聞こえるくらいの距離で笑い声がする】
⇒わざと気づくように、仕事ができないと馬鹿にしているに違いない
⇒仕事が進まず、気分が落ち込む。職場の人を疑うようになる。
このような場合は症状とうまく付き合っているというよりも、症状に行動を振り回されてしまっている状態にあります。
統合失調症の幻聴や幻覚症状が出ると仕事が出来ない場合は、リハビリやトレーニングが足りていない、または上手くいっていない可能性があります。
先程も書きましたように、統合失調症の陽性症状は服薬だけではコントロール出来ない部分もあります。
だからこそ、病院でのリハビリや就労支援事業所などでのトレーニングが必要になってきます。
症状に行動が振り回されている場合は主治医に相談してリハビリ内容を見直す、就労支援事業所などでのトレーニング内容を見直しては如何でしょうか。
■2. 症状が出ても通勤、業務継続が可能
通勤や仕事への支障が出ない場合の行動や思考を整理すると下記の様になります。
【通勤途中で幻聴が聞こえてきたが通勤できる】
⇒幻聴以外に意識を向ける対処法を見つける(イヤホンで音楽を聴く/スマホでゲームをしてみる等の工夫を行う)
イヤホンで音楽を聴く等の、症状とうまく付き合うためのノウハウを蓄積していきましょう。
実際、イヤホンという物理的な音の遮断やゲームなどの気分転換で対処されている統合失調症の方も多くいらっしゃいます。
【同僚や上司が自分のことを話しているような気がするが、上手く対処できる】
その方法は、
⇒同僚と上司のもとに向かって業務に関する質問など別件で話しかけてみる
⇒自分のことを言っていないことが確認できる
⇒業務を継続することができる
事実を確かめる行動は、自分の妄想の特性を把握することに役立ちます。そして自分を客観視できることに繋がります。自分を客観視することで幻聴・幻覚だと自分が理解し、業務を継続出来るのです。
こういった事実確認は統合失調症の方のいわゆる「悪口」という形の幻聴・幻覚・妄想に対して有効であるといえるでしょう。
【自分のことを笑われた気がしたが、上手く対処できる】
その方法は、
⇒他にも人がいる中で、皆が悪口を近くで言うわけがない
⇒気にならなくなり仕事に集中できる
物事の捉え方を意識的に変えてみること、他の視点を意識的に取り入れることは、妄想に対する対処として有効です。
これも先程と同様、自分を客観視することによって幻聴・幻覚・妄想だと自分に気付かせることに繋がります。
以上が、症状が出ても通勤、業務継続が可能な思考、行動パターンです。
イヤホンなどの物理的対処はすぐに自分で実行出来るので試してみると良いでしょう。
イヤホンを使用する場合は、職場に自分の今の状況を説明し、就業中にイヤホンを使用しても良いかの許可を貰いましょう。
イヤホンを使うという物理的対処は自分ですぐに行うことが出来ますが、自分を客観視するという対処法は自分自身の力だけではなかなか出来るようにはなりません。
自分を客観視したい場合には自分一人でなんとかしようとせずに、病院で主治医に相談し、リハビリなどを行いながら徐々に出来ることを目指しましょう。
統合失調症を含め、精神疾患は「気持ちの問題」ではありません。強い意志を持っていない、自分が弱いからかかる病気ではありません。
自分が甘えている、弱い、と自分を責めないようにしましょうね。
次に通勤や仕事に支障を与えないためのその他の方法をご紹介します。
■自分を3人に分けてみる
統合失調症の治療法、リハビリの方法の一つに「自分を3人に分けてみる」という方法があります。
その具体的な方法を今からお伝えします。
ひとり目(1):本来の自分自身/いま現に存在する自分
ふたり目(2):幻聴の声の主/妄想を抱いている自分
三人目(3):「ひとり目」と「ふたり目」を高いところから眺めている自分
例:
(2)幻聴の主「@#$&%+※&※」
(1)「声が聞こえる!怖い!どうしよう!」
(3)「ああ、でも統合失調症ってこうゆう症状がある病気だから」
(2)幻聴の主「@#$&%+※&※」
(1)「なんか言っている、嫌だな」
(3)「まぁしばらくしたら治まるから大丈夫」
幻聴が聞こえてくると恐怖や不安、不快感を覚える自分がいます。
感情を揺さぶられる「自分(1)」と「声の主(2)」
声は自分のものであったり他者のものであったりします。
(3)の自分は統合失調症という病気の症状の中には「幻聴」や「妄想」があることを知識として知っており、(2)が症状によるものであることの認識がある。(1)に対して「落ち着け」「大丈夫」と反駁することが可能な自分です。
このような形で、自分を3人に分けてみるのです。
【ふたり目(2)の特徴を知る】
ふたり目(2)の自分(幻聴の主)にも様々な特徴があります。
今回、ここでは「自分を攻撃している自分」と「自分に注意喚起、忠告などを行う自分」という2パターンに分けて説明していきます。
1.「ふたり目(2)」が「自分を攻撃している自分」である場合
⇒本来の自分が抱く不安や悲しみ、怒りなどネガティブな感情が幻聴として現れてくる場合もあります。不安や悲しみなどの感情を取り除くことに意識を向ける必要があるでしょう。
2.「ふたり目(2)」が「自分に注意喚起、忠告などを行う自分」である場合
⇒本来の自分が直面する現実的な課題や、心配事に対するポジティブ(前向き)な警告であると捉えることもできます。
以上、パターンに分けて説明しましたが、ご自身の傾向をよく知るには過去に症状が出た時のことを振り返ってみることをお勧めします。
過去に症状が出た時の環境、行動、感情などの状況を書き出してみるなど、関連性を分析することでふたり目の特徴を知ることに繋がります。
このように症状が出るパターンを知り、心の対処法を知る・会得することはとても重要になってきます。
【三人目(3)になることは難しい】
「三人目(3)」の自分は非常に冷静な自分です。
冷静な自分という存在を意識するなんて難しいと思う方もいるかもしれませんが、まずは身近な人に協力してもらうことをお勧めします。
症状が出たときにその状況をご家族、友人、主治医、支援機関の支援者などに話をすることで、まずは症状の客観化が可能になります。
ご家族、友人、主治医、支援者から自分とは別の視点でフィードバックがあれば、それが「三人目(3)」の役割を自分の代わりに担ってくれます。
どうですか? 自分一人では「三人目(3)」の自分を作り出すのは難しいかもしれませんが、身近な人に「三人目(3)」の自分の代わりを担ってもらうことは難しくないでしょ?
【三人目(3)を強化する】
三人目になるためには、統合失調症の正しい知識が必要不可欠です。
陽性症状というものがあるということを知り、症状が出る医学的なメカニズムの概要を知っておくだけでも、症状とうまく距離をとることができるでしょう。
医療機関で心理教育が行われているのも、atGPジョブトレ 統合失調症コースで症状理解研修を実施しているのも、まずは病気の正しい知識を付けて、ご自身で対処できるようになるためです。
“atGPジョブトレ 統合失調症コースとは?
国内唯一の統合失調症の方専門の就労支援サービスのこと。
参考:https://www.atgp.jp/training/course/togo/”
病気に対する正しい知識だけではなく、過去の経験、うまく症状を乗り切った経験は三人目(3)を強化します。
逆に、症状によってよくないことが生じると、幻聴や妄想は現実に起きていることとして強化されてしまう場合もあります。
妄想は「訂正ができない判断の誤り」と言われることもあります。最初は自分だけでは訂正できない場合もあるからです。
その際は信頼できる医師や支援者、ご族から代わりに訂正してもらう必要があります。
経験を重ねることで、三人目(3)は強力で、冷静な自分の味方になってくれる存在になり得ることでしょう。
【働き始めると三人目の役柄は人に頼めない】
職場では働くことが最優先されます。それは仕事をする上で当然のことです。仕事は業務の遂行が義務なのですから。
そして業務を遂行できるコンディションは自分の責任で行わなければなりません。
就労移行支援に通所している間にクリアしておきたいこととして、症状の自己対処が挙げられている理由は実はこの部分にあるのです。
「幻聴が聞こえてきました。どうしたらいいでしょうか?」
「Aさんが自分のことを悪く言っているような気がするんですけれど、何とかしてください」
職場で頻繁に言っていると業務が回らなくなりますが、就労移行支援事業に通所している間は積極的にご自身の症状について考え、試行錯誤する必要があります。
先程までは自分の身近な人に力を借りればいいと言いましたが、一方で仕事においては、まずは自分で問題解決をしていく姿勢が重要です。
三人目(3)になるためには、自分で症状をコントロールしようという意思が不可欠なのです。そして積極的な学びの姿勢も求められます。
もちろん、必ずしも自分一人だけで取り組まなければならないわけではありません。
・ご家族
・主治医
・友人
・支援機関の職員
・その他信頼できる人物
就労移行支援事業所に通所している間に上記の人たちのサポートを受けながら、三人目になる、三人目(3)を強くすることで、仕事においても自分で症状をコントロール出来るようになります。
就労移行支援事業所に通所している間に三人目(3)を強化しましょう。
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統合失調症専門のatGPジョブトレ 統合失調症コース
先程も少し紹介させていただきましたがatGPジョブトレの統合失調症コースは国内唯一の統合失調症専門の就労支援サービスです。
atGPジョブトレ 統合失調症コースの大きな特徴は、通所されている方が全員同じ病気をお持ちの方々であるという点が挙げられます。
atGPジョブトレ 統合失調症コースでは発症から治療、リハビリの過程で同じような体験を持つ人たちでグループが構成されています。
お互いがお互いのアドバイザーになれる関係が自然と形成されています。
atGPジョブトレ 統合失調症コースでの症状理解研修やストレスマネジメント研修は、そのグループの特性を最大限に活用します。
そして症状に関する基礎知識、必要な配慮、統合失調症を知らない相手に分かりやすく説明する表現など、就労前に必要な内容を研修では取り上げています。
atGPジョブトレ 統合失調症コースでの症状に関するディスカッションでは、利用者の方々のこれまでの対処法、経験則を共有します。
月に1度の就労SST(ソーシャルスキル・トレーニング)は、症状に関する利用者の方一人一人の悩みや困りごとをテーマに設定して他者の視点や対処行動、アイディアを取り入れる機会として位置づけられています。
“SST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは?
社会の中で人と人とが関わりを持って生きていく為に欠かせないスキルを身につける訓練。“
また、症状への対処法を増やす研修も行われています。
■有効な対処行動のログを残す
atGPジョブトレ 統合失調症コースには「ログ」というツールがあります。
atGPジョブトレ 統合失調症コースでは日々のディスカッションなどで利用者の方々から出していただいた有益な知識・経験・情報を、これから就職を目指す統合失調症の方々と共有できるように「ログ」に残していくようにしています。
統合失調症の方々によるグループ運営を具体化、具現化させるツールとして有効な対処行動を利用者の皆様の言葉で記録に残し、その行動のポイントに職員が注釈を入れて解説するのです。
そして、就職が決まってatGPジョブトレ 統合失調症コースを卒業する際に、ログを一冊プレゼントすることにしています。
次に、一緒に働く周囲の方に取り組んでほしいことも書いていきます。
統合失調症を抱えた方の周りの人も理解を示す
・症状とうまく付き合いながら働く
・症状と向き合うことは孤独な作業
病気への理解も十分得られるわけではない中で、周囲からは「症状とうまく付き合わないと」「病識をもっと高めないと」と言われることもしばしばあります。
ご本人の周囲にいる人はまず、ご本人の体験そのものに想像力を働かせることがとても重要になってきます。
統合失調症を抱えている本人がまず大変な経験をしていることを知る。その経験は本人の代わりに体験してあげられることではありません。
自分では体験し得ないことであることを前提に共感する・協力する・協同することが必要なのです。
「統合失調症の症状」と「症状に翻弄される自分」。そのどちらをもしっかりと捉え、症状の部分への気付きと、自分に落ち着きを促すことができる、そんな三人目(3)になるには、ご本人の意思と周囲の理解は不可欠になってきます。
周囲にいる人との信頼関係もまた三人目(3)を強化することになるからです。
以上の理由から、周りの人も統合失調症当事者に共感する・協力する・協同することが必要なのです。
統合失調症の当事者が実際に就労するまでの事例
■事務員Yさん(25歳 男性)の事例
法学部出身のYさんは大学院へ進むための受験勉強中に統合失調症を発症しました。
元々、身体の弱かったYさんは頭脳をいかす仕事しか自分は出来ないと思っており、弁護士を目指していました。
法学部での勉強と並行して資格試験予備校にも通う毎日を送っていたYさん。
無理をしすぎたからなのか、統合失調症を発症してしまいました。
統合失調症になってからというもの、幻聴・幻覚・妄想が酷く、服薬の副作用などが原因なのか頭の回転も鈍くなり、弁護士になることは断念しました。
発症から半年ほど経った頃、Yさんはデイケアに通うようになりました。生活リズムを整える為です。
それから就労支援移行事業所にも通い、パソコンを勉強し仕事をする準備を整えるようになりました。
就労支援移行事業所ではパソコン以外にも、幻聴・幻覚・妄想をコントロールするトレーニング、そして就労SSTなどを受けました。
家族、医師、就労支援移行事業所の支援員、精神保健福祉士、臨床心理士の方、様々な方の力を借りることで、発症から3年後、法律事務員として障害者雇用で入社。今も正社員としてその職場で働いています。
発症当時を振り返り、Yさんはこう話してくれました。
「弁護士になるはずだった自分がまさか統合失調症という聞きなれない精神疾患にかかるとは思ってもいませんでした。
ある日、大学院へ進むために受験勉強をしていると、なんだか幽霊のようなものが見えるようになりました。
私は幽霊など信じていませんでしたが、自分は今まで霊能力が無かっただけで、頭脳をフル回転させてきたから霊能力が開花したんだ! などとおかしな妄想をするようになっていたんです。
そして、インターネットを使って有名な霊能者さんの連絡先を調べ、弟子入りしようとしました。
弟子入りすることを両親に話すと即、精神病院に連れて行かれ、そこで統合失調症が発覚したんです。
その時は現実を受け入れることが出来ませんでした。本当に地獄に突き落とされたような思いでしたね。
弁護士になるはずだった自分が、精神障害者になってしまった。障害者福祉関係に強い弁護士になってそういった皆さんの力になるはずだった自分自身が障害者になってしまった。
あまりにも悲しすぎて、逆に涙すらでませんでしたね。感情が死んでしまった感覚でした。」
続けてYさんはこんなことを話してくれました。
「現在、統合失調症を抱えている方に伝えたいことがあります。
それは、どん底に落ちたらもう下は無い。あとは這い上がるだけだということです。でも、今はゆっくりと休んで下さい。病気になったということは、身体が、心が休憩したいと思っているからですから。ゆっくり休憩しながら、這い上がっていけばいいんです。」
最後にYさんは笑顔でこんなことを言っていました。
「社会人としてはまだ1年目。今の仕事を継続させることが目標です。
弁護士になる夢は諦めてしまいましたが、法律事務員として人々の役に立てているので今の仕事も好きです。」
統合失調症と上手く付き合いながら仕事を続ける方法 まとめ
ライター:atGPジョブトレ
全国的にも珍しい障害特化型、ジョブ特化型就労移行支援事業所を運営しています。各障害に特化するからこそ効果のある就労支援プログラム、業種に特化するからこそ身につく実力。これまでに培ったノウハウから就職に役立つ選りすぐりの情報を日々発信して行きます。