特例子会社における精神障害者雇用のポイントについて
更新日:2022年10月12日
厚生労働省が公表している「 障害者雇用状況の集計結果」によると、 民間企業に雇用されている障害者は約59万7千人で、18年連続で過去最高を更新しています。また、特例子会社は562社で、雇用されている障害者の数は約4万1千人、そのうち約8千人が精神障害者です。本記事では特例子会社における障害者雇用のメリットと精神障害者を雇用する際のポイントについて紹介します。
目次
特例子会社における障害者雇用
障害者雇用率制度では、障害者の雇用機会の確保はそれぞれの企業ごとに義務づけられています。一方で、障害者の雇用の促進と安定を図るために、企業が障害者雇用に特別な配慮をした子会社を設立して、一定の要件を満たした場合には、特例として子会社で雇用している障害者を親会社が雇用しているものとして実雇用率を算出できます。この子会社のことを「特例子会社」と呼びます。
●特例子会社認定の要件
特例子会社として認定されるには下記の要件を満たす必要があります。
・親会社が、子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること。
・親会社から役員が派遣されているなど人的関係が緊密であること。
・雇用されている障害者が5人以上で、従業員に占める割合が20%以上。また、障害者に占める重度身体障害者と知的障害者、精神障害者の割合が30%以上であること。
・障害者のための施設改善や専任の指導員の配置など、障害者の雇用管理を適正に行うことができること。
・障害者の雇用の促進と安定が確実に達成できる見込みがあること。
特例子会社による雇用の主なメリット
企業が特例子会社を設立して障害者を雇用する場合、次のようなメリットがあると考えられます。
障害者雇用に合わせた制度設計がしやすい
特例子会社を設立した場合、親会社とは異なる独立した組織設計が可能です。例えば、就業規則や給与規定などを定める際に、障害者雇用に合わせた制度設計がしやすくなります。
障害によって長時間勤務が難しい場合には、短時間勤務やリモートワークなど勤務時間の調整がしやすい勤務体系にしたり、定期的に通院が必要な場合には特別休暇が取得できる制度などを設けることができます。
効率的な雇用管理や設備投資ができる
特例子会社で障害者をまとめて雇用することで、一か所でマネジメントや雇用管理ができるため、管理面や設備面での効率化が図れます。
障害者雇用状況について
厚生労働省が発表した「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、 令和3年6月1日現在における、民間企業(従業員43.5人以上規模の企業:法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者数は約59万7千人で、前年から約1万9千人(前年比+3.4%)増加して、18年連続で過去最高の数値となっています。
雇用されている障害者のうち、身体障害者は約35万9千人(前年比0.8%増)、知的障害者が約14万人(前年比4.8%増)、精神障害者が約9万8千(同11.4%増)と、いずれも前年より増加していて、なかでも精神障害者の伸び率が大きくなっています。実雇用率は2.20%(前年は2.15%)と10年連続で過去最高となり、法定雇用率を達成した企業の割合は47.0%(前年は48.6%)でした。
今後も障害者雇用の全体数は増加すると予想され、また精神障害者の雇用も増えると想定できます。
また、特例子会社の認定を受けている企業は562社(前年+20社)で、雇用されている障害者の数は約4万1千人(前年は約3万9千人)でした。そのうち身体障害者は約1万1千人、知的障害者は約2万2千人、精神障害者は約8千人です。
参考:厚生労働省「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000871748.pdf
精神障害者雇用の難しさについて
前章で紹介した通り精神障害者の雇用は増加していますが、一方で精神障害者を受け入れるのは難しいと感じている企業は少なくありません。なぜ、精神障害者を雇用するのは難しいと考えられているのでしょうか。
精神障害の主な種類
精神障害とは、精神疾患のため精神の機能に障害が生じて日常生活や社会生活が困難な状態を指します。精神障害には、次のような種類があります。
・統合失調症
病気の原因はよくわかっていませんが、100人に1人弱発症する比較的一般的な病気です。「幻覚」や「妄想」といった症状が特徴的ですが、その他にも「意欲が低下して、それまで趣味や楽しみにしていたこと対して興味を示さなくなる」「疲れやすい、集中力が保てないなどで人づきあいを避け引きこもりがちになる」といったさまざまな生活のしづらさが障害として表れます。
・気分障害
主な症状として気分の波が表れる病気です。うつ状態だけが認められる時は「うつ病」と呼び、うつ状態と躁状態が繰り返して起こる場合には「双極性障害(躁うつ病)」と呼びます。
うつ状態の時は、気持ちが強く落ち込んで何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かないなどの症状がでます。躁状態の時には、気持ちが過剰に高揚して普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに活動を続けたりします。
・神経症、ストレス関連障害
パニック障害:強い不安や動悸、呼吸困難などが突然現れます。
恐怖症:特定の対象や状況、場面に対して強い恐怖心が現れます。
強迫性障害:強いこだわりや不安によって日常に支障が出る病気です。
心的外傷後ストレス障害(PTSD):非常に怖い思いをした記憶が整理できず、その時のことが突然思い出されて、それを思い出すような場所を回避したりする病気です。
精神障害者雇用の難しい点
これまで紹介した通り、ひと言で精神障害と言っても、病気の種類は多くそれぞれ症状が違います。また人によっても体調や症状の変化が異なるため、必要な配慮が違ってきます。症状によっては、勤務時間、通勤時間や方法への配慮が必要となるケースも少なくありません。
精神障害者は、身体障害者や知的障害者と比べると、障害者雇用の義務対象となったのが遅かったことから、企業側の精神障害への理解が低く、どのような配慮を行えばよいのかわからないという点も、雇用が難しいと考えられる要因の一つです。
近年、精神障害者の雇用が増えていますが、定着率は低い傾向にあり、メンタルケアなど継続的な企業の取り組みが重要となっています。
精神障害者雇用の際に気をつけること
精神障害者を雇用する際に気をつけるポイントについて解説します。
社内研修を行って精神障害への理解を深める
精神障害者を雇用する際には、同じ職場の従業員もどのように接したらよいのか、不安に感じることが少なくありません。精神障害は、身体障害者とは違って障害が目に見えないため、周囲の人が障害の特性や症状を理解するのが難しいからです。
そこで、雇用する前に社内研修を実施して、一緒の職場で働く従業員に精神障害の特性や必要な配慮についての理解を深めることが大切です。
採用する前に職場実習で本人の状況を確認する
精神障害者の雇用は、定着率が低い傾向にあります。採用のミスマッチや雇用後にどのような配慮が必要かを事前に確認するためにも、採用前に職場実習を実施する必要があります。
障害の特性は、短い面接や応募書類だけではわからない部分が多くあります。ある程度の期間、職場実習を行うことで、職場や仕事内容が体力的、能力的に合っているのかや、求める職業的なスキルを持っているのかなどを確認できます。
他の企業がどのような取り組みをしているのか知る
精神障害者を雇用している他の企業がどのような取り組みをしているのか調べて、自社でも取り入れられることがあれば導入してみましょう。実際に雇用している企業について知ることで、自社で精神障害者が働くイメージを持つことができます。
厚生労働省のホームページには、精神障害者雇用事例集「精神障害者とともに働く」~厚生労働省モデル事業参加企業の取り組み~として、10社の取り組みが公開されていますので、参考にするとよいでしょう。
定着のポイント
精神障害者の定着率を向上させるためのポイントを紹介します。
障害者とのコミュニケーション
厚生労働省が公表した「平成25年度障害者雇用実態調査の結果」によると、精神障害者の離職理由の約33.8%は「職場の雰囲気・人間関係」でした。精神障害者の雇用が増えても、定着せず離職してしまうのは残念なことです。
精神障害者の方一人一人の症状や特性に合わせた配慮を行い、能力を活かせる仕事に配置するためにも、企業側と障害者がしっかりとコミニケーションを取って理解しあうことが大切です。
支援機関との連携
障害者が職場で働く際には、仕事に関する不安や生活に関する不安などさまざま不安を感じています。不安を軽減するためにもコミュニケーションが大切ですが、企業では解決が難しい時には、「障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)」や「地域障害者職業センター」「就労移行支援事業所」などの公的な支援機関と連携して対処することが重要です。
民間の障害者雇用支援サービスの活用
まとめ
民間企業に雇用されている障害者の数は、、身体障害者、知的障害者、精神障害者のいずれも前年より増加していますが、なかでも精神障害者の伸び率が大きくなっています。しかし、一方で定着率が低いといった課題もあります。精神障害者を雇用する際には、社内研修などを実施して、職場のメンバーが精神障害についての理解を深めることが大切です。また採用や定着について企業で対応が難しい場合には、公的な支援機関や民間の障害者就職支援サービスと連携することが大切です。