障害者雇用を推進するにあたって企業が取り組むべき働き方改革
更新日:2022年09月22日
現在、政府が中心となって推進している「働き方改革」は、少子高齢化社会や労働人口の減少といった日本の構造的な課題を解決することに加えて、誰もが生きがいを持ち、持っている能力を発揮できる社会の実現を目指すものです。 障害者雇用においても、本人の希望や能力、適性に応じて活躍できる環境を、企業は整備する必要があります。本記事では障害者雇用を進めるにあたって、取り組むべき働き方改革について解説します。
目次
働き方改革とは
2019年から「働き方改革改革関連法(正式名:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が施行され、「働き方改革」は企業にとって重要な経営課題となっています。
「働き方改革」が目指しているのは、「少子高齢化による労働人口の減少」や「育児や介護と仕事の両立などの働く人のニーズの多様化」などの課題の解決です。そのためには、生産性の向上と合わせて、「就業機会の拡大」や「誰もが生きがいを持って、能力を最大限に発揮できる」ように職場環境を整備することが大切です。
具体的に働き方改革を実現するには、大きく分けて3つの課題があります。
・長時間労働の解消
・労働人口の不足(高齢者の就業促進)
・正社員と非正規社員の格差の是正
障害者雇用と働き方改革
障害者雇用においても、本人の希望や能力、適性を活かし、安心して働き続けられる職場環境を整備するといった「雇用の質の改善」が、一般の方の働き方改革と同様に求められます。
障害のある方を雇用する際には、さまざまな検討や取り組み、改善などが必要となり、一時的に現場の負担が増します。しかし、長期的に考えれば、障害者が働きやすく活躍できる職場を作り上げることは、多様な人材が活用できる環境を整備することになるはずです。
少子高齢による労働人口の減少により、今後はどの企業も、介護や育児など何らかの制約がありながら働く人材や高年齢者などの活用が不可欠です。障害者が活躍できる環境を整備することは、働き方改革を考えるうえで不可欠な視点です。
障害者の法定雇用率とこれまでの雇用率の変化
「障害者雇用促進法」は、障害に関係なく誰もが働くことを通じた社会参加ができる「共生社会」の実現を理念とし、障害者の職業の安定を目的としています。法律では全ての事業主に対して、法定雇用率以上の障害者を雇用するように義務付けています。
法定雇用率は2021年3月1日に引き上げられ、現在は民間企業が2.3%、国や地方公共団体などが2.6%、都道府県などの教育委員会が2.5%となっています。法定雇用率は、少なくとも5年に1度は見直されることになっています。
厚生労働省が公表した「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者は597,786.0人です。これは18年連続で過去最高を更新しています。また実雇用率も10年連続で過去最高で2.20%でした。実雇用率のこれまでの推移は次の表の通りです。
法定雇用率を達成している企業の割合は47.0%で、未だに半数以上の企業は法定雇用率が守られていません。法定雇用率は今後も引き上げられることから、更に障害者雇用に対する取組や理解が必要です。
障害者雇用のメリット・デメリット
障害者を雇用することは法律で定められた義務ですが、障害者雇用に取り組むことで企業は大きなメリットを得る可能性があります。一方で、障害者雇用を行わなかった企業にはデメリットがあります。
障害者雇用のメリット
障害者雇用は、企業にさまざまなメリットをもたらしますが、主なメリットには次のようなものがあります。
①業務の見直しによる効率化
障害者を雇用する場合、障害の種類や程度、特性に合った業務を用意する必要があります。これまでの自社の業務を見直すことで、業務全体の効率化や最適化を図ることができます。
例えば、「データ入力」や「書類整理」「資料やリストの作成」など、障害のある人が比較的取り組みやすい業務を切り出すことで、他の従業員の負担が軽減でき、新たな仕事に着手することが可能です。
②優秀な人材を確保できる
障害者の中には、働きやすい環境を整備したり、周囲が配慮することで、問題なく業務を遂行できる人が多く存在します。そのため、障害が理由でこれまで就業機会に恵まれなかった優秀な人材を確保できる可能性があります。
③企業の社会的責任(CSR)を果たすことできる
障害者雇用は、法律で定められた義務であり、企業の社会的責任(CSR)でもあります。障害者雇用に積極的に取り組むことで、社会的責任を果たしている企業として周知できれば、企業価値や社会的信用の向上につながります。
④ダイバーシティによる組織の活性化
ダイバーシティとは、人種や性別、年齢、障害の有無などに関わらず、多様な人材の雇用、活用する取り組みのことです。障害者を雇用することで、障害者の視点を活かした新たな商品やサービスの開発も可能です。例えば、ユニバーサルデザインの商品の開発には、障害者の意見や実体験が重要になります。
障害者雇用を行わないデメリット
障害者雇用促進法では、企業に障害者雇用を義務付けていますが、それが達成できない場合には、納付金の徴収や行政指導、企業名公表などの罰則があります。
①障害者雇用納付金の徴収
常時雇用している従業員が100人を超える企業が、法定雇用率を未達成の場合、不足している障害者数に応じて、1人につき月額5万円の障害者雇用納付金が徴収されます。
②ハローワークによる行政指導
常用雇用者が43.5人以上の障害者雇用の義務がある企業は、毎年6月1日現在で障害者雇用状況報告をハローワークに提出しなければなりません。法定雇用率を大幅に未達成の場合には、ハローワークから障害者雇入れ計画の作成命令が出されます。それでも改善が見られない場合には、雇入れ計画の適正実施勧告や特別指導が行われます。
③企業名が公表される
行政指導が実施されても、障害者雇用の状況が改善されない場合には、厚生労働省のホームページに企業名が公表されます。
障害者雇用✕働き方改革における取り組み例
「働き方改革」が目指しているのは、一人ひとりの多様性を尊重した効率的な働き方です。これは障害者雇用にも通じるテーマであり、障害者雇用を働き方改革のきっかけとして取り組んでいる企業も少なくありません。次のようなポイントを意識して障害のある方の働く環境を考えてみましょう。
雇用形態に関わらない公正な待遇
厚生労働省が公表した「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、雇用されている障害者のうち、週所定労働時間が通常の30時間以上が79.8%と最も多く、次いで20時間以上30時間未満が16.4%でした。
また、無期契約の正社員は約半数の49.3%でした。パートタイムや派遣社員など非正規社員の場合には、体調面などを考慮して、短時間勤務ができるといったメリットもあります。障害者本人の希望に合わせて雇用形態を選べるようにすることで、働きやすくなることもあります。しかし、その際には「同一労働同一賃金」を導入して、雇用形態による不平等を解消することが大切です。
テレワークや在宅勤務の導入
新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって、テレワークを導入する企業が増えています。テレワークによる在宅勤務は、企業にとって机やイスなどの備品の準備、照明や空調の費用などオフィスコストの削減や、ワークライフバランスの実現による従業員の意欲低下や離職の防止、人材確保などメリットがあります。
障害者にとっても通勤や移動による身体的、精神的な負担が軽減されるメリットがあります。また、働く選択肢が増えることで、就業機会や能力を発揮する機会が増えることにつながります。
障害者雇用を促進するためのポイント
障害者雇用を促進するには、働き方改革を進めるだけでなく、次のポイントについても意識することが大切です。
社内の受け入れ体制、理解の促進
社内の受け入れ体制や障害者雇用に対する理解の促進がないまま、障害者を雇用するとさまざまな問題や課題が発生し、職場に定着できず早期離職になってしまう可能性があります。特に、これまで障害者と一緒に働いた経験がない現場の社員からは、拒否反応が出ることがあるので、障害者雇用の必要性について社内の啓発を進めることが必要となります。
社内の受け入れ体制を整えるには、従業員向けの研修会や勉強会などを実施して、障害者を雇用する義務や意義、配属の目的、障害者に対する配慮の必要性などに対する理解を深めることが重要です。
業務の切り出し・マニュアル化
前述の通り、障害者を雇用する場合、障害の種類や程度、特性に合った業務を切り出したり創出して用意する必要があります。業務の切り出しの手順としては、次の手順で行います。
①配属する部署を選定する
②配属先の部署の業務を洗い出す
③業務を見える化、マニュアル化する
「社内の受け入れ体制、理解の促進」や「業務の切り出し・マニュアル化」について、どう進めたらよいのか不安な時には、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活センターなど公的な支援機関や、障害者雇用を支援している民間サービスを活用するのもおすすめです。