障害者雇用における人材の育成とマネジメントのポイント
更新日:2022年11月10日
障害者雇用促進法では、民間企業、国や地方公共団体などに対して一定数以上の障害者を雇用することを義務付けています。厚生労働省の「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者は、18年連続で過去最高を更新しています。また実雇用率も10年連続で過去最高でした。一方で、せっかく採用してもすぐに離職してしまうケースも少なくありません。障害者の定着を図るには、採用後の育成とマネジメントについても取り組むことが必要です。
目次
障害者雇用における人材育成・マネジメントのポイント
障害者雇用促進法で、企業に求められている合理的配慮とは、障害者が能力を発揮するために支障となっている状況を改善や調整することです。採用した障害者が能力を発揮して活躍する人材となるためには、育成とマネジメントが不可欠です。
障害者雇用に限らず社員を育成しマネジメントするには、社員の特徴を把握し、性格や考え方、能力に合った指導を行うのが効果的です。障害者を採用した際には、さらに障害についても把握する必要があります。なぜなら障害の種類や程度によって、できる仕事とできない仕事があるからです。
できる仕事が分かったら、業務の切り出しや創出を行います。障害者雇用の経験が少ない企業では、障害があってもできる簡単な仕事を切り出しがちです。しかし、それでは障害者が能力を発揮して活躍することにはつながりません。障害があっても適切な配慮を行って、特性に応じた業務を切り出せば、責任のある仕事も十分に遂行できます。
障害者雇用の育成とマネジメントで次に大切になるのは、採用した障害者の長所を伸ばすことです。そのためには、教育や教え方の工夫が大切です。
ポイント①障害の種類や症状を知る
障害者とひとことで言っても、種類や症状は人それぞれ違います。障害の特性に合った業務を切り出して、能力を発揮して活躍するために必要な配慮を行うには、採用した障害者の障害の種類や症状などについて知ることが大切です。
障害者雇用促進法で定められた法定雇用率で実雇用率にカウントされるのは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を持っている方です。障害の種類と雇用上の留意点については次の通りです。
身体障害者
身体障害者障害程度同級表で、身体障害者認定となるのは、「視覚障害」「聴覚または平衡機能障害の障害」「音声機能、言語機能または咀嚼機能の障害」「肢体不自由」「心臓機能や腎臓機能などの内部障害」です。
視覚障害
視覚障害は視力、視野、色覚の障害に分かれていて、視力障害と視野障害を併せて持つ人もいます。同じ視力であっても、人によっては見え方が異なるので、実際にどの程度見えるか把握が必要です。
聴覚障害
聴覚障害の人と対面でコミュニケーションをとる方法には、「口話」「手話」「筆談」があり、人によって方法は異なります。
肢体不自由
出入口や通路、トイレ、作業場などの改修が必要な場合があります。職場の施設の現況を本人に伝えて、改修工事などの必要性を把握しておくことが必要です。
内部障害
内部障害は、定期的な通院が必要な場合があります。通院状況など事前に把握しておくことが必要です。
知的障害者
知的障害は、理解力や判断力など知的能力に課題がある障害です。業務においては金銭管理、読み書き、計算などに支障があります。
本人との短時間の面接だけでは、職務遂行能力や意欲、協調性などを把握するのは難しい場合もあります。必要に応じて支援機関や障害者職業能力開発校、特別支援学校の担当者、保護者に同席してもらって、日頃の訓練や学習、生活状況などについて確認します。ただし、他の人が同席する場合でも、できる限り本人から話を聞くよう心がけましょう。
精神障害者
精神障害は、さまざまな精神疾患が原因となって起こります。主な精神疾患には、統合失調症や気分障害、精神作用物質による精神疾患があります。
病気の状態や配慮が必要な事項について、本人がうまく説明できない場合もあります。必要に応じて精神保健福祉士などに同席してもらうと、病気に関する情報を正確に把握できます。ただし、同席者がいる場合でも、できる限り本人から話を聞くよう心がけましょう。
ポイント②障害特性に合わせた業務の切り出し
一般雇用の場合には、担当する業務や配属部署を前提に、その業務を遂行できる能力を持った人材を採用するのが一般的です。障害者雇用においても、業務にマッチした人材を採用するのが望ましい雇用の形です。
しかし、障害者雇用では法定雇用率を達成するために、業務とのマッチングより必要な人数の採用が優先されるケースが少なくありません。そのため、「雇用した障害者が能力を発揮できる業務を任せられない」「どんな業務を担当してもらったらいいかわからない」などの課題が発生して、早期離職や休職につながるケースがあります。
雇用した障害者の定着率を向上させるには、障害の種類や特性、程度に合わせた業務を切り出したり創出することが必要です。例えば、大勢の人と接することが必要な業務は、対人ストレスがあるため精神障害の方に任せるのは好ましくありません。一方で身体障害や内部障害の方は、周囲の配慮があれば障害の無い人と同じ業務を行うことができる場合があります。
配属する部署の業務を洗い出して、障害者それぞれに適した仕事を切り出しましょう。業務の切り出しを行う際には、障害者に任せられる仕事として考えるのではなく、その部署で行われている全ての業務を洗い出してみましょう。例え、採用した障害者ができない仕事であっても、全ての業務を把握できると部署内の無駄がわかり業務の効率化が図れます。
すべての業務を洗い出して、障害者に任せられる業務の切り出しができたら、業務をタスクまで細分化します。細分化することで障害者が取り組みやすい業務を見つけることができます。
業務を切り出す際には、具体的な作業内容、作業時間、優先度など細かな条件も確認しておくことも必要です。コミュニケーションが必要な場合や計算力が必要な場合など、障害の特性に合わせて業務がマッチしているかどうか判断しましょう。
業務を切り出した後は、まずは障害者がその業務に慣れることを優先しましょう。障害者に限らず、誰しも最初から完璧に業務をこなせるわけではありません。障害者の場合には、一般的な人よりも業務を覚えるのに時間がかかることがあります。業務に慣れるまでは、周囲の社員のサポートが必要です。
ポイント③育成・マネジメントの工夫
採用した障害者が能力を発揮して活躍できるようになるには、育成やマネジメントの仕方にも工夫が必要となります。障害者の方に任せられると切り出した業務でも、これまで担当していた社員と同じ方法では、障害者が仕事をするのが難しい場合があります。前章で紹介した通り、切り出した業務をタスクまでさらに細分化することで、業務の一部を障害者に任せることができる可能性があります。
業務の切り出しができたからといって、それだけで障害者が能力を発揮できる環境が整ったわけではありません。障害者が活躍し職場に定着するためにも、育成やマネジメントの方法も工夫してみましょう。
障害のある社員と一緒に働くには、次のポイントを意識する必要があります。
・話すだけでなく、文字やイラストなどを使って理解しやすいように伝える
・報告を待つのではなく、周囲の社員が積極的に確認してサポートする
・定期的に面談やカウンセリングを行う。
話すだけでなく、文字やイラストなどを使って理解しやすいように伝える
障害のある社員に指示や情報を伝える際には、口頭だけでなくメモやメールなどでも伝えることを意識しましょう。口頭だけの伝達では、正しく伝わらずミスコミュニケーションになってしまう可能性があります。障害者にも伝わりやすく、理解しやすいコミュニケーションを心がけることが大切です。
報告を待つのではなく、周囲の社員が積極的に確認してサポートする
一般の社員の場合には、業務の進行状況やわからない点など自分から伝えてくるのが基本的なビジネススキルとされています。しかし障害者の中には、自分から意見を伝えることが苦手な人もいます。周囲の社員が寄り添ってサポートすることが必要となります。
定期的に面談やカウンセリングを行う
障害者の育成・マネジメントをするためには、業務の進捗状況の確認とサポートが必要です。切り出した業務が障害者に適した内容なのかを確認するためにも、定期的に面談やカウンセリングを行って、本人がどう感じているのかを聞くようにしましょう。障害者の意見を聞く機会を作ることで、体調の変化や業務のストレスを確認することができます。