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肢体障害のある方に向いている仕事と利用できる支援やサポート

更新日:2023年09月11日

ケガや病気などが原因で、上肢や下肢、腹筋、背筋、胸筋、足の筋肉を含む胴体の部分の機能の一部や全部に障害がある「肢体障害」の人は、立つ・座る・歩くといった動作や移動、食事、着替え、筆記などの日常生活に困難を抱えています。そのため肢体障害のある人が仕事を探す際には、業務の内容だけでなく通勤やオフィス内での移動、トイレなどさまざまな不安を持つことが多いようです。障害者の雇用の安定を目的として施行された「障害者雇用促進法」では、民間企業や国・地方公共団体に対して、一定数以上の障害者を雇用することを義務付けており、肢体障害のある人も就労の機会が広がってきました。しかし、肢体の障害によって働くことが難しい仕事や、仕事を行う上で働きづらさを感じたり、悩みを抱えてしまうケースも多くあります。この記事では肢体障害についてと、肢体障害の人が仕事で抱える悩み、肢体障害の人が働きやすい環境とおすすめの仕事、支援やサポートが受けられる機関やサービスについて詳しく解説します。

肢体障害とは

「身体障害者福祉法」では、身体障害者を「身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたもの」と定義しています。その身体上の障害には肢体障害が含まれており、次のように説明されています。

 

1.一上肢、一下肢又は体幹の機能の著しい障害で永続するもの。

2.一上肢の親指を指骨間関節以上で欠くもの、または人差し指を含めて一上肢の二指以上

を、それぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの。

3.一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの。

4.両下肢のすべての指を欠くもの。

5.一上肢の親指の機能の著しい障害、または人差し指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で永続するもの。

6.上記の1から5までのほか、その程度が1から5までに掲げる障害の程度以上であると認められる障害。

 

身体障害者手帳の交付主体は、都道府県知事、指定都市の市長、中核市の市長となっています。身体障害者手帳の交付申請は、指定された医師の診断書、意見書、写真を用意して、住んでいる場所の近くにある福祉事務所又は市役所で行います。

 

身体障害者手帳を受け取ると、障害年金の受給ができるだけでなく、障害者雇用枠によって働き方の幅が広がる可能性もあります。

 

参考:厚生労働省「他の主な法律における障害者等の定義

参考:厚生労働省「障害者手帳

 

肢体障害のある方が仕事で抱える悩み

障害がある人は仕事をする上で、さまざまな悩みを抱えることがありますが、その悩みは障害の種類によってそれぞれ異なります。肢体障害のある人も、障害の部位や程度によって悩みはさまざまですが、次のようなことに困っている人が多いようです。

 

体調を調整できない

例えば、脊髄損傷(せきずいそんしょう)や頸髄損傷(けいついそんしょう)が原因で、肢体に障害がある人は、自律神経系の機能が失われるため、血管の拡張や収縮、発汗などによる体温調節を行うことが困難です。そのため暑い夏などでは、水分を摂るなど注意していても熱中症になってしまう可能性があります。

 

また下肢の障害の場合には、足が動かせないことから深部静脈血栓症、いわゆるエコノミー・クラス症候群を生じやすくなります。

 

できる仕事の範囲に限りがある

肢体に障害があってもできる仕事はたくさんありますが、一方で障害がある部分をどうしても使わなければならないような仕事など、業務を行うことが難しい仕事もあります。

 

しかし、残存している能力を使ってできる仕事や、補助具を使うことでできる仕事もあるので、失われた運動機能だけに注目して、できないと判断することがないようにしましょう。

 

車いすを使用している人では自由な移動が制限される

下肢に障害があり車いすを利用している人の場合、部屋や廊下の狭さや段差など場所によっては移動が制限されます。たとえオフィスがバリアフリーに対応していても、通勤ではさまざまなバリアがあります。

 

また、車いすに座ったままでは、手の届く範囲が限られるため、床にあるものを拾い上げたり、高い棚にあるファイルを取り出したりすることが困難です。

 

車いすを使用している人が一番困るのはトイレ

車いすを使用している人が一番困るのがトイレです。オフィスに車いすで入れるトイレがあったとしても、「建物の違う階にある」「トイレの中が狭くて車いすの方向を変えることができない」「手すりの位置が悪くて車いすから便座に移乗できない」「ボタンの位置が高すぎて操作できない」などの使いづらさを感じるケースは良くあります。また通勤が必要な場合、途中に使用できるトイレがなければ、我慢するしかないといった不便さがあります。

 

周囲に引け目を感じる

知的障害者や精神障害者と違って、肢体障害の人は見た目で障害があると判断しやすいため、周囲の人がフォローしやすい反面で、過度な気配りや配慮を負担に感じたり引け目を感じる人もいます。

 

障害のある人が就労するには、上司や同僚などの周りの人が配慮を行う必要がありますが、障害者本人からどの程度の配慮をして欲しいとは、なかなか言い出せないものです。そして、本当にして欲しいことを言えずに、働きづらさを感じてしまうこともあります。

肢体障害のある方が働きやすい環境とは

合理的配慮とは、障害のある人が障害のない他の人と平等に、すべての人権と基本的自由を享有して行使することができるように、必要で適当な変更や調整を行うことです。障害者雇用促進法では、事業者が講ずべき措置に関して指針が示されています。

 

その人の障害の部位や程度、困難に感じていることや周囲の環境によって必要とされる合理的配慮は異なりますが、具体的な例としては次のようなものがあります。自身が働きやすい環境かどうか、または配慮してもらえるかどうか入社の前にしっかりと確認しておくことが重要です。

 

通勤に対する配慮がある

下肢に障害があって車いすを利用する人や、障害によって体力に制限のある人は、電車やバスなどを使った通勤は大きな負担となります。場合によっては、転倒や転落などにより大きな事故やケガにつながる可能性もあります。そのためラッシュ時を避けるための時差出勤や在宅勤務などの配慮が望まれます。

 

自家用車にて通勤する場合にも、会社の入り口に近い場所に駐車場を用意するなどの配慮があるかや、通勤手当についても確認しましょう。

 

時短勤務など勤務時間に関する配慮がある

肢体に障害があることで、障害の無い人と比べると、疲れやすかったり体調を崩しやすいケースがあります。また、定期的に通院が必要な人もいるため、フレックスタイムや時短勤務など勤務時間に対して配慮が必要です。

 

段差の解消やスロープの設置がされている

車いすを利用している人の場合、オフィスの入り口やオフィスの中でも、移動が困難な場合があります。車いすで移動できるように、段差を解消したりスロープを設置するなどの配慮が必要です。

また、内側に開くドアでは車いすにドアが当たって開けることができない場合や、入室の際のセキュリティボタンやエレベーターの開閉ボタンが高い位置にあって届かないケースもあります。

 

デスクや棚、作業台の高さなどに関する配慮がある

スムーズに業務を行うには、デスクや棚、作業台、ロッカーなどの位置や高さが重要です。配置を変更したり、什器を使いやすいものに交換したり配慮があると業務が進めやすいでしょう。

 

気兼ねなく助けを求められる雰囲気がある

先述の通り、肢体障害の人の中には、周囲の人からの過度な気配りや配慮に対して、負担に感じたり引け目を感じる人もいます。しかし、困ったときには気兼ねなく周囲の人に助けを求められる雰囲気があると安心して働くことができます。

 

肢体障害のある方におすすめの仕事

厚生労働省が発表した「平成18年身体障害児・者実態調査結果」によると、身体障害者の就業率は20.4%で、そのうち肢体不自由の人の就業率は19.2%でした。しかし、肢体不自由の人の約6割が高齢者のため、実際には肢体障害のある人はかなり多くが働いています。肢体不自由の人が就業している職業については、事務職が17.4%、専門的・技術的職業が13.3%、サービス職業が12.8%となっています。

 

肢体障害と言っても障害の部位や程度は、人それぞれ違うので、どのような仕事が向いているとは一概に言えません。しかし、次のような仕事は肢体に障害があっても業務が可能な場合が多い職種です。

 

事務職

下肢に障害のある人は、歩くことなく自分のデスクで仕事ができる事務職は働きやすい職種と言えます。また、上肢に障害があっても、業務が可能なケースがあります。

 

エンジニア

事務職同様にエンジニアも、座ったままで業務を行うことが多いため、下肢に障害があっても業務が行える職種です。また上肢の障害であっても、片手が自由に動くケースでは、作業速度は遅くなってもキーボード入力はできます。今後は音声入力などを活用して、上肢に障害があっても、エンジニアとしての業務が可能になると予想されます。

 

デザイナー

デザイナーも座ったままでの作業が多いため、下肢に障害があっても業務が可能な職種です。また、イラストをメインに描くデザイナーの場合には、上肢に障害があってもペンタブを使って作業もできます。

 

コールセンター

コールセンターの業務には、お客様からかかってきた電話に対応する「インバウンド」と、お客様に積極的に電話をかけて、商品やサービスを売り込む「アウトバウンド」の2種類があります。どちらも座ったままで業務ができるため、肢体障害があっても業務が可能なケースが多い職種です。

 

在宅でできる仕事

通勤が困難な肢体障害の人にとっては、在宅でできる仕事は向いていると言えます。在宅であれば、通勤やオフィス内の移動、トイレなどの設備などを気にすることなく勤務することができます。新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって、リモートワークや在宅勤務を進める企業が増えているので、今後は肢体障害の方におすすめの働き方となるでしょう。

 

肢体障害のある方に、おすすめの仕事を紹介しましたが、事故や病気などが原因で肢体障害となった中途障害者の中には、リハビリ等を努力した結果障害となる前の仕事に復帰する人もいます。本人も周囲も、障害があるからこの仕事は難しいではなく、障害のない部位や障害とは関係のない能力を使って活躍できる仕事を見つけることが大切です。

 

参考:厚生労働省「平成18年身体障害児・者実態調査結果

 

→在宅勤務の配慮がある求人を探してみる

 

肢体障害のある方が利用できる就職・就労支援

肢体障害のある人が仕事を探す際には、障害者の就労を支援している機関やサービスを利用すると、働きやすい企業を見つけやすくなります。利用できる機関やサービスと特徴をご紹介します。

 

ハローワーク

ハローワークは正式な名称は、「公共職業安定所」で略して「職安」と言われることが多い機関です。国(厚生労働省)によって運営される職業紹介所で、全国47都道府県に544か所に設置されています。求職情報の提供の他、雇用保険の手続きや各種助成金の事務手続きなどさまざまな業務を行っています。

 

ハローワークには、障害について専門知識を持っている職員や相談員が在籍していて、仕事に関する情報の提供や、就職に関する相談に対応してくれます。国の機関であるため無料で利用することができます。ハローワークは、地域の福祉機関などと連携していて、生活支援が必要な場合には、障害者就業・生活支援センターなどへ紹介してくれます。

 

「トライアル雇用制度」を利用するには、求職者と企業の双方がハローワークに登録していて、ハローワークの紹介によって雇用されることが条件となっています。トライアル雇用制度とは、一定期間(原則3か月)の試用期間を設けて、企業が採用したいと判断した場合に正規雇用する制度で、企業には期間中助成金が支払われます。トライアル雇用制度は、障害者も利用することができ、企業は試用期間にどのような配慮が必要であるか把握することができ、障害者は実際に業務が可能であるか判断することができるといった双方にメリットがあります。

 

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、ハローワークと連携して障害者に対して専門的な職業リハビリテーションを行っている施設で、全国47都道府県に設置されています。障害者一人ひとりに対して就職の希望を把握した上で、職業能力などを評価して、就職して職場に定着するために必要な体験や講習、訓練を行います。

また、障害のある人が職場に適応できるように、企業にジョブコーチを派遣して障害の特性に応じた専門的な援助も実施します。

 

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害者の身近な地域で、就業面と生活面の一体的な相談業務と支援業務を行う施設で、全国に334か所あります。

 

就労面の支援では、就職支援担当者によって就職に向けた職業準備訓練や職場実習のあっせんなどの就職準備支援や、就職活動の支援、職場定着に向けた支援、障害者それぞれの障害特性を踏まえた企業に対する助言、関係機関との連絡調整などを行います。

 

生活面の支援では、生活支援担当者が日常生活や地域生活に関する助言、生活習慣の形成、健康管理、金銭管理など日常生活関する助言、住居や年金、余暇活動など地域生活、生活設計に関する助言などを関係機関との連絡調整しながら行います。

 

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、障害のある人の一般企業への就職をサポートする通所型の福祉サービスです。就業に必要なビジネスマナーや職業訓練、職場見学や実習などの他、求職活動のサポートなども受けられます。

 

事業所は、全国に約3,300か所あり、約34,000人が利用しています。利用ができるのは原則として2年間で、必要と認められた場合に限り、最大1年間の更新ができます。

 

障害がある方向けのエージェントサービス

就職エージェント・転職エージェントは、民間企業が運営する人材紹介サービスです。コンサルタントやキャリアアドバイザーが、サービスを申し込んだ求職者の希望を聞いて、条件にあった求人を紹介してくれます。就職エージェント・転職エージェントには、幅広い業界や職種を取り扱う「総合型」と、特定の業界や職種のみの求人を扱う「特化型」とがあり、中には障害者の就職や転職に特化したエージェントサービスもあります。

 

採用が決まると企業から手数料を受け取るため、求職者は無料で利用することができます。求人の紹介だけでなく、就職に関する相談やサポートも受けられます。

→atGPエージェントで相談してみる

 

atGPエージェント

自分にある能力でできる仕事を探しましょう 

肢体障害の原因は、先天性のものや事故によって手足が損傷したり、脳や脊髄などの神経に損傷よる受傷、関節の変形などさまざまです。また、障害の部位や程度も人それぞれ違います。病気や事故により中途障害を負った人の中には、努力を重ねて障害を抱える前の職場に復帰して活躍している人もいます。

 

今回、記事の中で肢体障害のある人におすすめの仕事をご紹介しましたが、大切なことは本人も周囲も「障害があるからできない」と判断することなく、自分にある機能や障害に関係ない能力を最大限に活かすことです。

 

新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって、リモートワークや在籍勤務に切り替える企業が増えるなど、働き方自体の従来から大きく変わってきています。ハローワークや地域障害者職業センターなどの支援機関やサービスを利用しながら、自分に合った仕事を見つけてください。
在宅勤務の配慮がある企業も多数いらっしゃいます。

→在宅勤務の配慮がある求人を探してみる

 

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ライター:atGPLABO編集部(監修:戸田重央)

障害者専門の人材紹介として15年以上の経験とノウハウを活かし、障害者の雇用、就労をテーマとした情報発信活動を推進しています。 【監修者:戸田 重央プロフィール】 株式会社ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所所長。 企業の障害者雇用コンサルタント業務に携わった後、2015年より聴覚障害専門の就労移行支援事業所「いそひと」を開所、初代施設長に。 2018年より障がい者総合研究所所長に就任。新しい障害者雇用・就労の在り方について実践的な研究や情報発信に努めている。 その知見が認められ、国会の参考人招致、新聞へのコメント、最近ではNHKでオリパラ調査で取材を受ける。 聴覚障害関連で雑誌への寄稿、講演会への登壇も多数。

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