精神障害者が仕事を継続させるのが難しいと言われる原因と解決法
更新日:2023年09月11日
障害者は、身体障害、知的障害、精神障害の3つに区分されています。各障害区分における障害者数の推計によると、身体障害者は436万人、知的障害者は108万2千人、精神障害者は392万4千人で、人口千人当たりでは精神障害者は31人の計算です。精神障害者の数は平成8年には約217万人だったので増加傾向にあります。特に「うつ病」や「双極性障害」といった「気分障害」の患者数が増えていて、その原因は長引く不況の影響による労働環境の悪化や、生活不安などによるストレス増加と考えられています。一方、厚生労働省の調査した結果では、平成30年度の精神障害のある人の就職件数は 48,040 件と前年度に比べて 6.6%増えており、精神障害を持つ人の社会進出が進んできています。しかし、就職しても3か月で約3割、1年ではおよそ半分に人が離職しており、身体障害や知的障害を持つ人と比較して、精神障害を持つ人は職場定着率が低い状況になっています。では精神障害者が仕事を継続させるには、どのような点に気をつけたらよいのでしょうか。
目次
精神障害の症状の種類
精神障害者の就労について考えるとき、まずは精神障害の種類とその特性について理解することが大切です。
統合失調症
統合失調症の発症の原因はよくわかっていませんが、100人に1人程度がかかる比較的一般的な病気です。思考や行動、感情などをまとめる脳の「統合」する力が落ちたために、「幻覚」や「妄想」が表れることが知られています。病気の初期には、妄想や幻覚などの「陽性症状」が多く見られ、以降は意欲の低下や無気力になるなどうつ病のような「陰性症状」が続きます。
うつ病
うつ病は、憂うつな気分や気持ちが落ち込むといった抑うつ状態が、長い期間続くのが代表的な症状です。日本では100人に3~7人という割合でうつ病を経験しています。精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由で脳の機能障害が起きている状態だと言われています。脳がうまく機能しないため、ものの見方が否定的になって自分がダメな人間だと思い込んでしまいます。そのため通常なら乗り越えられるようなストレスも、つらく感じるという悪循環が起きます。
双極性障害
双極性障害は、うつ状態とその対極にある躁状態も表れ、これらを数か月おきに繰り返す病気で、うつ病と双極性障害と合わせて気分障害と呼ばれます。躁状態が強い時は「双極Ⅰ型障害」、軽い躁状態だけが起きる場合には「双極Ⅱ型障害」と分類されます。躁状態になると、眠らなくても活発に活動したり、多弁になったりとエネルギッシュになります。また、衝動的に高価な買い物をするなども見られます。躁状態の時には気分が良いため、本人には病気の自覚がありません。そのため治療を受けずに病気を悪化させることがあるので注意が必要です。
パニック障害
パニック障害は、理由もなく突然に動悸やめまい、発汗、窒息感、強い不安、手足の震えといった発作を起こします。パニック発作が繰り返されるうちに、発作に襲われることに対する予期不安や、発作が生じた場所に対する広場恐怖を感じるようになって、生活に支障をきたすようになってしまいます。さらに治療が不十分で病気が進行してしまうとうつ病やうつ状態になる可能性もあります。
強迫性障害
強迫性障害とは、強い「不安」や「こだわり」によって同じ行動を繰り返して、日常に支障が出る病気です。本人の意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行動をしないではいられないことを強迫行為といいます。生活において機能障害をもたらす10大疾患の1つで、50人から100人に1人がかかる病気と言われています。
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精神障害者が仕事を続けるのが難しいと言われる原因
厚生労働省が発表した「平成30年度 障害者の職業紹介状況等」によると、精神障害者の新規求職申込件数は101,333 件で、前年度に比べ 8.1%の増となっています。また就職件数は 48,040 件( 6.6%増)で、精神障害のある人の社会進出が進んでいます。しかし、就職して3か月で約3割、1年ではおよそ半分に人が離職しており、身体障害や知的障害のある人と比較して職場定着率が低い状況になっています。精神障害者が仕事を続けるのが難しいと言われる原因には、次のようなことが考えられます。
精神障害の影響で、体調を崩しやすいリスクがある
統合失調症の陰性症状では、「疲れやすく集中力が保つことができない」「人づきあいを避けて引きこもりがちなる」などが見られます。またうつ病でも、「何事にもやる気が出ない」「疲れやすい」「考えが働かない」などの症状があります。このように、精神障害の症状としてストレスなど精神的な不安を抱えやすいことがあげられ、そのために体調を崩して仕事を続けるのが、難しくなることがあります。
精神障害の特性理解は、当事者でないと難しい
身体的に病気と違って、メンタルな病気や障害は、周囲から理解されず本人の努力不足や責任感の欠如など、誤解を受け非難されやすい傾向にあります。また責任感が強い人では努力を続けた結果、さらに症状を悪化させてしまうこともあります。精神障害者が仕事を続けていくために、精神障害の特性を理解することは、当事者本人でないと難しいという前提にたって周囲がサポートしていく必要があります。
周囲に辛さを表現することが難しい・職場での理解者が少ない
精神障害は、障害が目には見えないため、症状を具体的に表現することが難しい病気です。そのため精神障害の当事者は、周囲に自分の特性や症状を理解してもらうための説明にプレッシャーを感じることがあります。そのプレッシャーも心に負担をかけるため、症状を悪化させてしますことがあります。
体調悪化が進まないと、周囲には気付かれにくい
精神障害により心の中でストレスや不安、動揺が高まっていたとしても、周囲の人が気づかないケースがほとんどです。精神障害の影響で体調を崩して、顔色が悪くなる、手足が震えるなどの症状が表れて、ようやく周囲は気づくことができます。このような状態までなると、対処が遅くなり症状を悪化させてしまう可能性もあります。
「クローズ」で仕事をする場合、常に障害を隠す負担を抱える
「クローズ」とは、企業に自身の障害を公開せずに、障害のない人たちと同じ条件で働く雇用スタイルです。日本では、まだ企業側の精神障害に対する理解が低いため、働いている状態で精神障害と診断された場合、会社に報告すると働きづらくなると不安に感じて、隠して働く人もいます。また新規に就職する人も、障害をオープンにするよりクローズで就職活動を行った方が、障害者求人より業種や職種が豊富にあることから、クローズで就職活動を行うケースがあります。
どちらの場合も、会社や周囲に対して障害を隠さなければならないという精神的な負担や、隠していることがばれるのではないかという不安を常に抱えて仕事をしなければならないため、かえって症状を悪化させる可能性があります。またクローズにすることで、通院や服薬のタイミングが難しくなったり、勤務形態や業務内容などで周囲からの配慮を得られないといったデメリットもあります。そのため職場への定着できる可能性が低くなることが考えられます。
企業の精神障害に対する理解不足と雇用意欲の低さ
厚生労働省が発表した「平成25年度障害者雇用実態調査」で企業に対して、今後の障害者の雇用方針について質問した結果では、身体障害者の今後の雇用方針で「積極的に雇用したい」が22.7%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が24.7%、知的障害者を「積極的に雇用したい」が6.7%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が17.7%であったが、精神障害者は「積極的に雇用したい」が4.2%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が13.8%と低く、企業の精神障害者への理解が進んでいないことがわかります。また、「雇用したくない」という回答は、身体障害者が12.5%、知的障害者が22.5%、精神障害者が25.3%となりました。
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参考:厚生労働省「平成30年度 障害者の職業紹介状況等」
参考:厚生労働省「障害者雇用の現状等」
参考:厚生労働省職業安定局「平成25年度障害者雇用実態調査結果」
「仕事が続かない」悩みの解消法
これまで精神障害がある人が、仕事を続けるのが難しいと言われる原因を見てきました。仕事が続かないと悩んでいる精神障害者は、どのような解決法があるのかをポイントで紹介します。
治療・予防方法を確認する
精神障害の人にとって健康管理はとても重要です。病院で医師によく相談して、服薬などの治療方法、薬の副作用への対処法、具合が悪くならないためにどんな予防をすればよいのかなどを確認しましょう。調子が良いからと言って、自己判断で通院や服薬を中断すると、治療が進まないばかりか症状が悪化することもあります。特に「双極性障害」で躁状態の時には、エネルギッシュに活動できるため周囲はもちろん、本人も症状に気づかないことがあります。必ず医師の指示に従って受診と服薬を行うようにしましょう。
リフレッシュ方法を用意する
精神障害者が仕事を続けるには、疲れないような工夫をすることも大切です。また疲れてしまった時には、リフレッシュする方法を用意することが大切です。精神障害の症状が出ていながら責任感で、無理して仕事を続けると体調を崩して日常生活にも支障をきたすことがあります。
さらに無理を続けると仕事に集中することができなくなり、最終的には仕事に行くことが嫌になり離職にいたることもあります。そのような結果になる前に、早めに判断して仕事を休むことも大切です。しかし、特に責任感の強い人は休んでも、つい仕事のことが気になるもの。「自分が休んだ後の職場は大丈夫か」や「担当業務の引継ぎは大丈夫か」など仕事のことを気にすると回復が遅くなるばかりか、悪化の原因ともなります。休む時には仕事のことを考えないようにして、ゆっくり過ごすようにしましょう。
ナビゲーションブックを作り、周囲に伝える工夫をする
「ナビゲーションブック」とは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターが推奨する「自らの特徴やセールスポイント」「障害特性」「職業上の課題」「企業への配慮事項」などをまとめたツールで、自身の障害特性や症状を企業に伝えることを助ける働きが期待できます。
精神障害の人が就労を続けるには、周囲の人に自分の障害特性や症状を知ってもらうことが大切です。障害者雇用枠で就職する場合には、職場で障害特性に対する合理的な配慮が行われることが前提ですが、上司を含め周囲の人すべては精神障害の障害特性について、理解しているとは限りません。また上司が替わる、自分の所属する部署が異動になる、といったこともあります。そのような時にも、ナビゲーションブックを作っておけば、理解を深め配慮してもらえる可能性が高くなります。
「クローズ」にトライする場合は、綿密な準備を行う
厚生労働省職業安定局「平成25年度障害者雇用実態調査結果」によると、職場において障害に配慮した支援を受けていると回答した障害者は45.9%でした。一方、支援を受けていない人の中には「障害について周囲に知られたくないため」と回答した人が7.3%いました。
精神障害を抱えて就労する際には、障害について企業に開示して就職する「オープン」就労の方が、職場でさまざまな配慮を受けられるため、働きやすい傾向にありますが、それでもクローズで働きたいという人もいるようです。クローズで就職を目指す場合には、職場からのサポートや配慮が受けられないため、自分で健康管理をしっかりと行う必要があります。そのため、医療機関や専門機関・支援機関などに相談して、綿密に準備することが必要となります。
まとめ
精神疾患は、誰でもかかる可能性がある病気です。会社で働く場合には、仕事がうまく行かなかったり、上司や同僚との人間関係などでストレスを感じるものです。大抵の場合には「次は失敗しないようにやろう」「次はうまく振舞おう」などと気持ちを立て直すことができますが、心の働きがうまくいかずに悩みが続くと精神障害になる可能性があります。
精神障害を持ちながら仕事を続けるには、職場や周囲の人の精神障害の障害特性に対する理解と配慮が必要です。周囲の人に障害について知られたくないとクローズで働くことを選択する人もいますが、できればナビゲーションブックなどを活用して上司や同僚に理解してもらうようにすると配慮を得られ働きやすくなります。クローズで働く場合には、医師や専門家などとも相談して、しっかりと健康管理や治療や服薬などで症状の安定を図ってください。