大人になってから知的障害に?知的障害の特徴や原因など詳しく解説!
更新日:2024年06月14日
知的障害とは、知的機能の発達に遅れや障害が18歳ごろまでにあらわれ、日常生活を送るために特別な援助を必要とする状態をいいます。本記事では知的障害とはどんな障害なのか、その特徴や原因、大人になってから知的障害と診断されるケースについて、またどのような支援制度があるのか詳しく解説していきます。
目次
知的障害とはどのような障害?
「知的障害」の判断基準
「知的障害」とはどういう状態のことをいうのでしょうか。各障害の定義については通常、それぞれに応じた福祉法に記されています。身体障害の定義については身体障害者福祉法、精神障害については精神保健福祉法、発達障害については発達障害者福祉法といった具合ですが、実は知的障害の定義は知的障害者福祉法はもちろん、その他の法律にも具体的な定義がありません。しか知的障害は知能指数(IQ)を測る知能検査によって判断されることは間違いありません。日本の児童相談所、知的障害者更生相談所などの公的機関や医療機関などで使われている検査は田中・ビネー式ⅣやWISC(児童向けウェクスラー式知能検査)Ⅳ・Vが主流です。
その後、厚生労働省が「2005(H17)年度知的障害児(者)の基礎調査結果の概要」(2005)で知的障害の定義については、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」とし、さらに知能検査において、IQがおおむね70までのもの、そして日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準に該当するとしています。
つまり、IQと日常生活能力の兼ね合いによって知的障害の程度は変わることになります。また、発達期(おおむね18歳まで)以降に出現したことが判明した場合は知的障害という診断にはなりません。
例えば、一昔前まで、痴呆症と呼ばれていた認知症ですが(日本では65歳以上の高齢者の約5人に1人の割合で罹病)、こちらも知的機能の低下が見られますが発症年齢の点から知的障害にはならないのです。
知的障害は、知能指数(IQ)と日常生活能力の両面からその程度が定義されます。一般的に認知されている障害には、「身体障害」、「精神障害」、「知的障害」のいわゆる障害の3区分があります。またここに「発達障害」という概念も加わり、その認知度も高くなってきています。令和元年の「障害者白書」では、身体、精神障害者がともに総数が約400万人であるのに対して、知的障害者は1/4の100万人ほどとなっていますが、確実にその数は増加しています。発達障害の認知と相まって、知的障害の認知度も上がり、療育手帳の取得者が増加していることが一つの要因といえます。以前は精神遅滞とも呼称された知的障害ですが、時代の流れとともに、精神遅滞という言葉も、国際的に徐々に使われなくなってきています。
知的障害に併発しやすい疾患
発達障害:社会的コミュニケーションの障害と限定された興味が診断基準となる、自閉症やアスペルガー症候群、小児期崩壊性障害などが自閉症の様々な様相として自閉症スペクトラムに含まれていて、自閉症スペクトラムと診断されている児童の約30%は知的障害があると言われています。
ダウン症:染色体異常による遺伝子疾患で、個人差がありますが、通常、軽度から中度の知的障害を伴います。
重複障害:先天的な知的障害の場合、てんかんや脳性まひなどの脳の器質的障害を合併しているケースや、心疾患などの内部障害を合併しているケースも見られます。
認知症:知的障害者は40代後半から50代にかけて認知症を併発するリスクが高いというデータがあります。
成人病:知的障害がある場合、自発的に食事等の制限や制御が難しいこともあり、偏食が多いことが知られています。そのため、肥満が多く、高脂血症、糖尿病、心筋梗塞等の成人病のリスクが高くなっています。
知的障害の特徴
知的障害の程度別の分類
1970年に当時の文部省が知的障害(当時は精神薄弱)の程度についてIQ75以下と記していて、詳細には以下のように区分しています。知的障害者福祉法(旧精神薄弱者福祉法)には知的障害についての定義がなく、永らくこれが日本における程度の区分の基準になっていたと考えられます。
軽度:50~75
中度:20ないし、25~50
重度:25ないし、20以下
しかし、先に述べた「2005(H17)年度知的障害児(者)の基礎調査結果の概要」(H19)では、知的障害の程度については知能検査に基づくIQレベルと日常生活能力を要素として軽度知的障害、中度知的障害、重度知的障害、最重度知的障害に区分される以下の表を基準としており、地方自治体でもおおむね、これを基準としているようです。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
例えば、IQが~20だったとしても、日常生活能力が”d”判定だった場合、最重度ではなく、重度と判定されます。日常生活能力は”a”が一番低く、”d”が一番高くなります。ちなみに日常生活能力判定表というものがあり、自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等などについてどれだけできるかを点数化し、身体障害などが重複する場合はそれを勘案し最終的な程度が決まります。
知的障害の程度別の特徴
軽度:多くの軽度の知的障害者は小学校もしくはそれ以上のレベルの学習については適切な支援があれば達成することができます。ほとんどの場合、生活面における決定などについて最低限の支援があれば地域社会において自立した生活をすることができます。金銭面、食事、買い物などについても指示や注意が必要な場合もあります。
中度:中度の知的障害者では日常のコミュニケーションに問題はありませんが、複雑なものは制限を受けます。通常、社交的な表現や場の雰囲気を読んだり、社会的な場面での判断や意思決定については支援が必要です。日常生活の身の回りのことは更なる指示や支援よって可能となります。雇用面では、自力で仕事を遂行する場合、概念的な理解や社交術などがあまり必要がない職務内容なら可能です。自立生活も例えばグループホームのような適切な支援がある場合は可能となります。
重度:コミュニケーション能力は最低限度となります。身の回りのことについては日常的に支援が必要です。多くの重度の知的障害者では安全面において監督指導が必要となり、通常、介助・介護付きの住居での生活が必要です。
最重度:日常生活において全面的に介助・介護が必要となります。24時間の介護支援体制が必要です。コミュニケーション能力はかなりの制限を受けます。身体面や知覚においても制限があることが多いようです。
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知的障害の原因
病理的要因:ダウン症などの染色体異常や自閉症など先天的な病気、周産期の事故、出生後の高熱などの病気や事故が原因となる場合
生理的要因:特に要因はなく、普通に妊娠、出産を経るがたまたま知能指数が低く生まれてしまうケースで、ほとんどは軽~中程度の知的障害となっている。大多数の人の知的障害の原因がこの生理的要因といわれています。
環境要因:虐待など保護者等の育て方、人との交流が極端に少なく、刺激を受けることが少ないなどの育った環境に起因するケースです。
知的障害は遺伝するの?
詳細についてはまだまだ研究の余地があると言えますが、知的障害の遺伝についてはないとは言えません。ただし、遺伝で知的障害になるケースは遺伝子の突然変異を原因とする知的障害よりもはるかに少ないと言えます。親が高齢になると遺伝子が突然変異する可能性が高いという研究結果も出ています。
大人の知的障害、診断するきっかけとは?
軽度の場合は症状に気がつかない
IQ51~70の軽度知的障害のレベルでは軽度がゆえに中~最重度よりも問題となる点があります。軽度の知的障害の場合、人とのコミュニケーションや日常生活のスキルなどについても、周囲の人もあからさまに異常に感じないので、医師に診てもらうところまで行かないケースが多いのです。そうやって学校や社会面などで少し難しい部分があっても親や周囲の人間のサポートでうまくやれてそのまま大人になっていることも少なくありません。
大人になってからうつ病などの2次障害がきっかけになることも
そのような状態で今まで大きく引っかかることもなく過ごしてきた診断を受けていない軽度知的障害者も、ある日にわかに知的障害が見つかってしまうことがあります。それは軽度知的障害があるゆえに、人とのコミュニケーションや社会生活、学習や仕事に困難を感じたりすることが多く、そこからうつ病などの精神疾患を患ってしまい、受診することで知的障害があることが発覚することが、多くあります。そこからそのまま障害のない人として社会生活をするのか、療育手帳を取得し、知的障害者としてできるだけの制度やサービスを利用していくのか、メリットとデメリットを考えながら決断するきっかけにもなります。
知的障害のある人向けの支援制度や機関
療育手帳制度
療育手帳は一定の基準を条件に知的障害児・者に交付される手帳で、障害者総合支援法下のサービスの利用や障害者雇用枠での労働が可能であったり、税制上の減免、公共交通機関における割引などを受けるのに必要となります。交付は各都道府県及び政令指定都市の単位で行われます。また同じ地方自治体でも、児童の場合は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所が知能検査および療育手帳交付の可否について判定します。ただし、取得についての最終的な判断は当事者及びその家族にありますので、実際、軽度であったりする場合、個人や家庭の事情で取得しないケースもあるようです。
療育手帳については厚生労働省ではガイドラインを設けており、それによるとIQ35以下で日常生活に介助がいる、または異食、興奮などの問題行動がある場合、そしてIQ50以下でも身体障害などを重複する場合もA区分、それ以外をB区分とするとありますが、実際の各自治体での区分はA1、A2、B1、B2など細分化されていたり、そもそもAでもBでもなく、数字だったり、区分の仕方も療育手帳取得の条件も少しずつ違うということは覚えておきたいところです。
知的障害者更生相談所
知的障害者更生相談所は都道府県と政令指定都市に設置義務がある療育手帳の判定や、進路、日常生活などについて知的障害者の相談を受けアドバイスを行なう行政機関です。児童相談所との業務の分担は基本的に対象者が児童(18歳未満)であれば児童相談所、18歳以上の成人であれば知的障害者更生相談所を利用することになります。
障害者総合支援法に基づく支援
障害者総合支援法は2013年に障害者自立支援法に代わり開始された障害保健福祉施策の中心となる制度です。この制度では身体・精神・知的・発達の各障害と難病患者が対象となり、対象者は一部のサービスを除き、程度区分認定を受け、サービス等利用計画案に基づいてサービスが提供され、サービス利用料も原則1割の利用者負担を除いた分が自立支援給付(公費負担)として支給されます。自立支援給付には介護給付、訓練等給付費、相談支援、地域生活支援事業など、障害児・者が社会生活を行なう上で必要となる支援サービスが豊富に揃っています。
成年後見制度
成年後見制度は認知症、精神障害、知的障害などで売買契約や財産の管理などの法的行為の判断が適切にできないような成年に対して、後見人等が選任され、その売買等の決定について代理権が与えられます。また本人が法律行為を行う場合は同意するしないを判断できます。この制度を利用している状態で後見人等の同意なしで本人が行なった法的行為は取り消すことができます。成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
法定後見制度:該当者に対して制度の適用が本人や家族、市町村長などから申し立てがあって、認められた場合、その判断力の程度に応じて後見人、保佐人、補助人などを家庭裁判所が選任します。これらの後見人等は状況に応じて家族であったり、法や福祉の専門家が選任されます。
任意後見制度:あらかじめ本人が選んだ任意後見人が、本人の判断力が低下した後に代理で契約などの法律行為ができるように任意後見契約を結んでおくものです。任意後見人が正しく後見人として活動しているかについては任意後見監督人が監督します。
障害者虐待防止センター・人権相談所
障害者虐待防止センターは2012(H26)に施行された「障害者虐待防止法」に基づく障害者の虐待等の通報・相談に関する窓口で、各市町村に設置されています。
人権相談所は法務局(支局)に設置されている法務局の職員や人権擁護委員による窓口、電話、インターネットなどの方法であらゆる人権侵害などの相談に乗ってくれる機関です。
障害年金
障害年金は身体・精神・知的障害などがあり、その障害の状態や日常生活にどの程度の支障があるか、および国民年金や厚生年金への加入状況等が勘案され、等級や支給額が決定されます。身体障害や精神障害、その他の傷病の場合、その障害にかかる初診日が年金加入中である必要がありますが、知的障害の場合、”発達期までに現れている”という前提がありますので初診日が問われることはありません。障害基礎年金と障害厚生年金の等級と支給額は以下のとおりです。
障害基礎年金:対象は国民年金加入者。1級は約97万円、2級は78万円、3級支給なし。
障害厚生年金:対象は厚生年金加入者。等級は1~3級まで。等級と定められた平均標準報酬月額と厚生年金の加入期間によって算出されます。国民年金の第2号被保険者でもあるため、受給条件を満たしていれば、障害基礎年金も同時に受給できます。
生活保護
生活保護は困窮する国民に対して、国が生活保護法という法律の下に行なう公的扶助です。非保護世帯はH29年で約160万世帯、そのうち障害者を含む世帯は約1/4に達しています。どうしても今、受給している給付金や年金等でも生活が困窮し、財産を処分するなどできることをした上で、誰の助けも望めないような状況に陥った場合など、いわゆる”最後の手段”が生活保護になります。最低限度の生活は保障されますが、さまざまな条件がありますので詳細はまず福祉事務所に問い合わせる必要があります。
特別障害者手当
「特別児童扶養手当等の支給に関する法律」(1964)において支給される3種類の手当(特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当)のうちの一つです。特別障害者手当は精神または身体に重度の障害がある20歳以上の在宅で常時特別な介護を必要とする者が対象となっています。支給額は2020年4月より月額27350円、本人及び配偶者、扶養義務者の所得制限があります。
障害がある方向けのエージェントサービス
就職または転職エージェントサービスは非常に多くありますが、その中には障害者の就職や転職に特化したエージェントサービスがあります。
このような障害がある方向けのエージェントサービスに登録すると、専任のアドバイザーが求職者に付いて就職の準備から就職後の職場定着支援までを行ってくれます。
提供されるサービスは、求職者のスキルや要望に合った企業の紹介、面接対策や履歴書など必要書類の添削といった就職支援、内定後の勤務開始日時や給与面での企業側との交渉、就職後に生じた困りごとの相談などです。
障害がある方向けのエージェントサービスは、採用を検討している企業が人材に求めるスキルや経験、人物像などを詳しく把握しているため、転職・就職希望者と企業側の希望が合致したマッチングを行ってくれるという点が大きなメリットであるといえます。
本サイトを運営しているatGPは、障害者に特化した転職支援のための人材紹介サービスを運営しています。「自分に合う仕事がわからない」「どのようにして仕事を探すかわからない」といった小さな悩み事から、転職の際のアドバイスまで、障害者専門のカウンセラーにご気軽に相談できます。
まとめ
知的障害は身体障害、精神障害とならぶ障害の3区分として認知されている障害です。日本でも昔は精神薄弱と呼んだり、欧米でも精神遅滞という呼び方がありましたが、最近では「知的障害」という言葉に一本化されつつあります。
その知的障害の判定はおよそIQ70以下で、その程度(軽~最重度)は知能検査と実際の日常生活がどの程度自立してできるかなどの要素により総合的に判断されます。療育手帳の交付の判断は自治体によって少しずつ基準が違うことも指摘されています。
また、知的障害は一般的に18歳未満の発達期に生じますが、軽度の場合、社会生活はそれほど困難なくできるために、医師の診断を受ける機会がなく大人になってしまうケースもあり、別の疾患が理由で受診し発覚するということもあります。
このように大人になって知的障害と診断されるケースもありますが、この記事を通して知的障害そのものへの正しい知識と、知的障害児・者への支援制度やサービスがあることを理解していただき、適切にそれら利用していただければ幸いです。