障害のある従業員への人事評価の進め方と導入する際の注意点
更新日:2024年09月20日
人事評価とは、従業員の実績や能力を評価することです。人事評価は、給与や賞与などの報酬や昇格・昇進などに反映される他、従業員の育成計画や人員配置の材料にもなります。近年、企業による障害者雇用は進んでいますが、人事評価制度は従来のものをそのまま適用しているケースが多いようです。その結果として、障害者が適切に評価されているのかが問題となっています。本記事では障害者雇用における人事評価制度について解説します。
目次
障害者の人事評価に対する現状
厚生労働省が公表した「平成25年度障害者雇用実態調査結果 」によると、身体障害者と精神障害者の「前職の離職理由」の上位は、次のようになっています。
◇身体障害者
・賃金、労働条件に不満(32.0%)
・職場の雰囲気・人間関係(29.4%)
・仕事の内容があわない(24.8%)
・会社の配慮が不十分(20.5%)
◇精神障害者
・職場の雰囲気・人間関係(33.8%)
・賃金、労働条件に不満(29.7%)
・疲れやすく体力、意欲が続かなかった (28.4%)
・仕事の内容があわない(24.8%)
また、「職場における改善等が必要な事項」の回答は次の通りです。
◇身体障害者
・能力に応じた評価、昇進・昇格(28.0%)
・調子の悪いときに休みを取りやすくする(19.6%)
・コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置(18.0%)
・能力が発揮できる仕事への配置(17.5%)
◇精神障害者
・能力に応じた評価、昇進・昇格(31.2%)
・調子の悪いときに休みを取りやすくする(23.1%)
・コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置(20.4%)
・能力が発揮できる仕事への配置(18.8%)
このような結果から、障害者が賃金や能力に応じた評価に対して、不満を持っていることがわかります。自身への評価に不満を持っている状態では、モチベーションや生産性の低下とともに、定着率の低下の可能性があります。
障害者のための評価制度を準備する
前章で紹介した調査結果の通り、企業で働く障害者は、能力に応じた評価や昇進・昇格について改善が必要と感じています。障害者のための評価制度を整備することで、雇用の拡大や職場定着、生産性の向上などが期待できます。
民間企業には、障害者雇用促進法に基づいて、法定雇用率(従業員に占める障害者の割合)以上に障害者を雇用する義務が定められています。令和5年現在の法定雇用率は2.3%でしたが、令和6年4月に2.5%に引き上げられ、令和8年7月には2.7%と今後も段階的に引き上げられると予想されています。
障害者を雇用し定着させるために、人事評価制度を整備、見直しすることは、企業にとって必要かつ重要な課題といえるでしょう。
障害者の職務能力と希望する働き方を配慮する
障害者の人事評価制度を設計するにあたっては、職務能力と本人が希望する働き方に配慮する必要があります。
障害者雇用では、高い職務能力や意欲を持っているのに簡単な業務しか割り当てられなかったり、反対に配慮を受けながら自分のペースで働きたいと思っているのに職務能力以上の業務が与えられるケースがあります。このようなミスマッチを防ぐためには、企業が従業員の職務能力と希望する働き方を、適切に把握する必要があります。
基本的に、職務能力が高く意欲があるというのであれば、障害があっても特別扱いする必要はありません。一方で、障害によって遂行することが困難な業務がある場合には、その部分については配慮することが必要です。
障害を持っている従業員を3グループに分けて評価
障害の種類や程度によって、必要な配慮は人それぞれ異なります。そのため、一人ひとりに合わせて人事評価制度を設計するのは非常に困難です。職務能力と希望する働き方にあわせて3グループに分けて考えると良いでしょう。
Aグループ:職務能力も働く意欲も高い
業務を遂行する上で、障害の支障がほとんどなく、かつ職務能力や働く意欲も高い方は、特別扱いする必要は無いといえます。このような人は、障害者雇用枠ではなく、一般枠の求人に応募して入社しているケースもあります。
特別扱いすると障害の無い他の社員が不公平感を感じる可能性があります。また、特別扱いしない方が、障害者本人にとってもモチベーションが上がるはずです。ただし、環境整備や一定の配慮は必要です。
Aグループには、業績や能力、仕事に対する姿勢を評価して、キャリアアップが目指せる人事評価制度が望ましいといえます。
Bグループ:一定の配慮が必要だが生産能力は高い
Bグループは、働く意欲が高いグループと自分のペースで働きたいグループの中間にあたります。Bグループの人材は、障害の種類や程度に応じた配慮が必要としながらも、業務の成果やスピードが重視され、企業の生産性に貢献することが可能です。
業績や能力、仕事に対する姿勢を評価しつつも、キャリアアップより長く安定して働けることを目的にした人事評価制度にすると良いでしょう。
Cグループ:障害により多くの制約があり、配慮が重視される
Cグループは、障害によって遂行できる業務に大きな制限があって、配慮が重視される人のグループです。このグループは、職務能力の向上や業務成果の向上、キャリアアップより、周囲に配慮されながら安定して働くことを希望しています。業務に取り組む姿勢や勤怠などを評価基準の中心にすると良いでしょう。
障害者のための評価制度を導入する際の注意点
障害のある社員を対象とした人事評価制度を新たに導入する際には、次の点に注意しましょう。
わかりやすい評価基準にする
評価基準は、わかりやすいことが大切です。評価基準がわかりにくいと、従業員は何を目標にしたらよいのか判断できない状態になります。また、人事評価の結果は従業員にフィードバックしましょう。フィードバックする際には、なぜそのような評価になったのかを、客観性と根拠を持って伝えることが重要です。
公平性を保つ
評価のレベルが評価する人の主観によって異なり、評価結果に個人差が出てしまう可能性が考えられます。評価結果が公平でなければ、従業員が企業に対して不信感や不満を持ちます。評価結果に個人差が出ないようにするには、評価する人同士で評価基準のすり合わせてしてガイドラインを作成することが必要です。
また1人で評価すると、評価された従業員は偏った評価だと思うことがあります。複数の人で評価すれば、より公平に評価できるはずです。
定期的に見直す
事業の拡大や変更によって、企業の目指す姿や目標は変わっていくはずです。人事評価制度も、それに合わせて定期的に見直す必要があるでしょう。特に従業員から不満や疑問が出た時には、どこに問題があるのか詳しく調査して、評価制度を変更する必要があります。