認知症の方の日常生活の工夫や家族のサポート、仕事について
更新日:2024年05月24日
認知症とは、脳の病気や障害によって、認知機能が低下して日常生活に支障が出てくる状況を指します。高齢化社会が急速に進んでいる日本では、認知症の方も増えています。65歳以上の高齢者では7人に1人が認知症とされ、認知症の前段階と考えられる軽度認知障害の人も加えると4人に1人の割合となります。また、65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」と呼んでいて、認知症は老若問わず誰でもかかりうる病気といえます。
目次
認知症の症状と日常生活に現れる特徴
認知症には、脳が障害を受けた原因や部分によっていくつかの種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症の原因として、最も多いのがアルツハイマー型認知症で、全体の70%近くを占めています。β(ベータ)アミロイドというたんぱく質が脳の神経細胞に長い期間かけてたまって、それが神経細胞を破壊して脳が萎縮することで発症すると考えられています。β(ベータ)アミロイドがたまる原因については、加齢や遺伝が影響するとされていますが、はっきりしたことは分かっていません。
アルツハイマー型認知症の初期は、物忘れのような記憶障害から始まることが多く、失語や失認、失行などが目立つこともあります。症状が進行すると徘徊や失禁、性格の変化などが現われて、日常生活を送るのが難しくなりサポートが必要となります。
血管性認知症
アルツハイマー型認知症に次いで多く、認知症全体の約20%を占めているのが「血管性認知症」です。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、血液の流れが阻害され、脳の一部が壊死することで発症します。
症状は、脳血管が障害を起こした部位によって異なります。具体的には、歩行障害や手足の麻痺、排尿障害、言葉が出にくい、意欲低下、不眠などの症状があげられます。
レビー小体型認知症
レビー小体という特殊なたんぱく質が脳にたまることで、脳細胞が破壊されて発症します。手足の震えや歩行障害などによって、転倒しやすくなるので注意が必要です。また幻視やうつ症状、睡眠中の異常行動なども見られます。
前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉が委縮して起こる認知症です。50〜60歳代に発症しやすく、多くは10年以上かけてゆっくりと症状が進行していきます。性格が極端に変わる、万引きや悪ふざけなどの社会的な行動ができない、柔軟な思考ができない、身だしなみに無頓着になるなど衛生面の管理ができないなどの症状が現われます。
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認知症の症状に応じた日常生活の工夫や家族のサポート
最近は、早期に認知症と診断されて、進行を抑制する薬を使用することによって、すぐにサポートや介護が必要になることはありません。初期のうちは、ちょっとした工夫をすることで、認知症になっても自立した日常生活を送ることができます。
物忘れへの対応
・メガネやスケジュール帳など、よく使うものは決まった場所に置くようにしましょう。
・外出する時には、鍵やお財布、携帯電話など必要なものを1つの箱や袋に入れておいたり、持ち物リストを作って見やすい場所に貼っておくと忘れにくくなります。
・小物や洋服などが入っている引き出しには入っているものを書いたラベルを貼ります。
・家族の連絡先や大切な予定などは、メモに書いて見やすい場所に貼っておきましょう。
身体機能や認知機能が低下してきたら
認知症は進行する病気です。身体機能や認知機能がさらに低下してきたら、危険防止のために家族や周囲の方は、次のことに注意しましょう。
・外出する時には、名前や連絡先がわかるものを身につけてもらうようにしましょう。
・帰り道が分からなくなって困った時などに助けてもらえるよう、近所の方には事情を説明しておくとよいでしょう。
・転倒やつまずくことで、怪我をすると寝たきりになることもあります。転倒防止のため家の中のつまずきやすい場所は、段差を無くすなどバリアフリーにしましょう。
暴力や暴言・興奮・拒否などへの接し方
認知症の方は、その症状からくるもどかしさや不安、恐怖などさまざまな要因によって暴言や暴力といった行動につながってしまうことがあります。これらの認知症の方の激しい言動を理解するには、次の3つのポイントが大切です。
・本人の記憶になければ、認知症の方にとっては事実ではありません。事実とは異なっていたとしても本人の記憶から消えているので、周囲の人が説明しても納得しません。事実を認めさせようとすると激しい言動を誘発します。
・認知症の方が思ったことは、本人にとっては絶対的な事実です。認知症になると、自分のものを他人に盗られたと思い込む、食事をしたのにまだ食べていないと思い込むなど、認知症の方にとっては事実として受け取られます。周囲の人が否定すると激しい反発が起こります。まずは受け止めて別の話題に切り替えてみましょう。
・認知症が進行してもプライドはあります。自分の子どもや若い介護職の人から怒られたり、頭ごなしに否定されたりすると、プライドを傷つけられたと感じて怒り出すことがあります。丁寧な接し方を心がけましょう。
認知症の人の仕事について
65歳以下で認知症を発症した場合には「若年性認知症」と言われます。若年性認知症は、現役で仕事をしている方が多いので、職を失うと経済的に困ることがあります。では、認知症になってしまうと仕事をすることはできないのでしょうか。
現在の仕事を続ける場合
認知症の症状や進行具合は人それぞれ違いますが、急激に症状が進むケースは稀です。そのため、これまで出来ていたことが認知症の診断を受けたからといって、すぐにできなくなることはありません。
いったん会社を退職してしまうと、再就職が難しい場合が多いので、できれば現在の職場で働き続けることを考えましょう。
症状に応じて、職務内容の変更や配置転換などにより、現在の仕事を続けることは可能です。職場の上司や同僚に自身の状況を伝えて、理解とサポートをお願いしましょう。ハローワークなどの支援機関では、若年性認知症の方の就労に伴って助成金の支給や相談窓口の設置など、会社側に対する支援サービスを用意しています。
新たに仕事を探す場合
勤労意欲があり、作業能力がある程度維持できていても、認知症になると新しい環境への適応や新しい人間関係の構築、新しいことを覚えるのが難しいため、本人の負担が大きく一般雇用で仕事に就くのは難しい状況です。
そのため、障害者手帳を取得して障害者雇用枠での就職を目指すことが必要です。
また、若年性認知症の方の就労先としては、就労継続支援事業所のA型とB型もあります。就労継続支援は一般企業などで働くことが難しい方に、働く場の提供や働く知識・能力の向上のための訓練を行うサービスです。
このうち就労継続支援A型は、利用者が事業所と雇用契約を結んだ上で、継続的に働きながら一般就労を目指します。雇用契約を結ぶため、最低賃金以上の給料が支払われます。一方で就労継続支援B型は、利用者と事業者の間に雇用契約はありません。工賃というかたちで賃金が支払われます。
困ったときの相談先
認知症によって仕事や日常生活に困った際には、次のような施設や機関に相談できます。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、高齢者の健康面や生活全般に関する相談を受け付けている総合相談窓口です。市区町村にそれぞれ設置されていて、高齢者や高齢者の家族が利用できます。
認知症疾患医療センター
認知症疾患医療センターは、認知症の医療相談や診察を行う専門の医療機関です。かかりつけ医や介護施設、福祉施設、地域包括支援センターなどと連携して、認知症患者とその家族を支援します。
若年性認知症支援センター
若年性認知症支援センターは、専門の若年性認知症支援コーディネーターが本人や家族からの相談に対してワンストップで対応する機関です。医療機関や社会保障、サービス受給、就労支援など、さまざまな相談ができます。
ハローワーク
ハローワークを中心に地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、医療機関、福祉機関などと連携して、就職から職場定着まで一貫した支援を行います。認知症と診断されて仕事面で困ったら、まずはハローワークに相談してみましょう。
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障害者の就職支援サービスを利用
認知症で日常生活に支障をきたす場合には、「精神障害者保健福祉手帳」の申請ができます。また、血管性認知症やレビー小体型認知症など、身体の症状がある場合には「身体障害者手帳」に該当する場合もあります。障害者手帳を取得すると、障害者雇用の枠での就職が目指せたり、就労継続支援事業所の利用が可能になります。
「atGP(アットジーピー)」は、障害者の求人転職情報・雇用支援サービスです。自分で障害者雇用枠の求人を探すのをはじめ、障害者の就職・転職のプロがサポートする「atGPエージェント」、障害別のトレーニングで働き続ける力が身に着く「atGPジョブトレ」などで、障害のある方の就職・転職をトータルでサポートしています。