ASDの方の一人暮らしのコツやライフハックについて
更新日:2023年04月13日
ASD(自閉スペクトラム症)は、発達障害の一種で、人口の約1%に影響を与えるとされています。アスペルガー症候群などはかつて別の障害とされていましたが、DSM-5の発表以降、ASDという呼び名で一括りになりました。さて、ASDの人が1人暮らしできるでしょうか。進学や就職を機に1人暮らしを検討する人も多いでしょう。今回は、ASDを持つ方が1人暮らしをする際の注意点やライフハックを紹介します。
目次
ASD(自閉スペクトラム症)の特性や症状
特定の物や場所に強い興味やこだわりが強い
ASDの特徴としてよく知られているのが、「こだわり」の強さです。何ごとも本人の納得する決まった順序で行わないと、物事が進められなかったり、場合によってはパニックになることもあります。順序の中には例えば手をたたくなど、自身の動作などが含まれることもよくあります。学校や会社への道順も同じ道を通らないと気が済みません。
部屋の家具や置物、雑貨などの置いてある位置が気になったり、人によってまちまちですが、おもちゃやペットボトルなど気に入ったものをずっと持ちながら行動するなどもよく見受けられます。また、同じ行動や動作を何回も繰り返す常同行動も特徴といえます。
このようにこだわりが強く、常同行動が特徴としてあるため、予定外の出来事や、小さな変化に苦痛を感じます。物の配置や、やる順序が違うと、普段やり慣れている行動でもすんなりとできなくなってしまいます。
対人関係が苦手
もう一つよく知られているASDの特徴として、他者とのコミュニケーションが苦手です。具体的には、以下のような特徴があります。
・他人と目を合わせることが苦手
・相手や状況に自分の行動をあわせることが苦手
・皮肉やたとえ話を理解できない
感覚過敏・感覚鈍麻がある
先に述べた二つほどは一般的に知られていませんが、ある特定の感覚について、過敏性や鈍麻があります。
・特定の色や照明、明るさが苦手
・大きな音や特定の音に過剰に反応したりパニックになる
・痛みや熱さ・冷たさに対して無関心
・食事で刺激物を摂りすぎる
他の障害や精神疾患を合併しているケースもある
ASDは他の障害や疾患を合併していることがあります。
・LDやADHDなど他の発達障害
・知的障害(特にダウン症に合併する確率は1~2割)
・ASDがあることによって抱えるストレスから発症する二次障害としての精神疾患
ASDのある方は一人暮らしできる?
ASDがあっても一人暮らしは可能
のちほど紹介するライフハックなど特性や症状に合わせて工夫をしたり、家族や周囲の助けや障害者の地域生活を支援する機関などを活用することで一人暮らしは可能といえます。ただし、他の障害や疾患を合併している場合は無理をしないようにします。
一人暮らしをする前にやっておくこと
・自身の障害や症状について理解し、自己理解を深める
・家事に慣れておく(一通り家事をすることでどのぐらいの体力や時間が必要かわかるようになる)
・必要な生活費の把握・貯金をしておく
・何かあったときや、困りごとができたときの相談先・対処法を決めておく
一人暮らしをする際に必要なこと
物件探し
物件については、大事な条件は何なのか、予めしっかり考えておく必要があり、障害がない人でも理想の物件を探すのは難しいものです。家族など信頼できる人に同行してもらう、親身になって相談に乗ってくれる業者を選ぶなどはもちろん大切ですが、ASDがある場合、音や色、質感など何が気になるのか、実際に物件や周囲の環境を見てみないとわからないことがあります。
生活に必要なものや家具を購入
こだわりが強い分、家具や小物などは実際に自分で選んで購入するのがよいでしょう。ただし、買い物では目移りしやすく時間がかかってしまう、不必要なものまで買ってしまうなど難しいこともありますので、やはりこちらも誰かに同行してもらうのがおすすめです。
住所の変更など必要書類を役所に提出
実家から出て一人暮らしをする場合、同市町村内なら転居届、他の市町村への転出・転入ならそれぞれの市町村に転出、転入届を提出する必要があります。また、国民年金保険、国民健康保険、マイナンバーカードの住所変更も届け出る必要があります。これらの届けは委任状や身元確認書類があれば代理人が行うことができます。
日常生活を一人で行う
料理、掃除、洗濯、水道光熱費の支払いや、服薬管理などを一人で行うことが必要になります。ASDがない人でも滞りやすいものですが、ASDがある場合、ついつい色んなことに気を取られてしまいがちです。
ASDのある方が一人暮らしで注意すること
「ながら作業」はしない
ASDはこだわりという特性から、一つのことに集中する傾向があるため、火をつけっぱなしで他のことに集中してしまい事故につながるケースなどがよく起こります。家事や作業をする際は「ながら作業」はせず、一つ一つ行うようにしましょう。
どうしても他のことに気を取られてしまう場合は、注意を喚起する貼り紙をする、気になるものを目に触れないようにする、気になる音がするものを遠ざけておく、耳せんをするなど工夫をしてなるべく意識をそらさないようにします。
環境変化に伴う疲労に注意
どれだけ準備をしていても新生活が始まると様々な想定外なことが起きるため、知らず知らずのうちに環境変化による疲労がたまりやすくなります。
最初は無理のない範囲で生活をし、定期的に休んだり、たまに実家に戻ったり、家族や友人に訪ねて来てもらうようにするとよいでしょう。
家族や友人などとコミュニケーションをとる
一人暮らしになると精神的に不安定になりやすいため、家族、パートナーや友人などとのコミュニケーションにより心の安定を保つことが大切です。実際に会うのが無理なら電話やメールなどでもよいでしょう。
金銭管理はしっかりと行う
ASDの方は興味のあるものには支出を惜しまないこともあるため、お金を浪費しすぎないように自身で金銭管理をしっかりと行うことが必要です。
食費や水道光熱費などの生活の必要経費とは別に、自由に使っていいお金の限度額を決めておくようにしましょう。
自己判断で服薬を中止しない
一人暮らしになって気をつけるべきことは誰にも注意されないため行動に歯止めが効かなくなることです。特に定期的な服薬は面倒で効果もわかりにくいことから勝手に止めてしまうケースがよくあります。医師から服薬の指示が出ている場合には、必ず服薬を継続するようにしてください。
ご近所付き合いも大切に
近所の方に会ったら挨拶を忘れずにするようにしましょう。存在を覚えてもらうことで、何かあった時に声をかけてくれたり、助けてくれる親切な人もいます。
最近では、特にアパートなどの集合住宅では町内や住民の会合などはほとんどなく、人づきあいは最低限で済みますが、ゴミ出しのルールなど、地域で決められているルールはきっちり守るようにしないと近隣とのトラブルに発展して、せっかくの一人暮らしが続けられなくなってしまいます。
ASDの方向けライフハック
スケジュールなどの情報は「見える化」しよう
ASDがあると、気になることが多かったり、一つのことに集中してしまい、日課や家事をこなすことが難しい傾向にあります。朝の準備や1日のスケジュールは、ボードなどに貼り付けておき、完了したら裏返すなど工夫をすると次にやることが分かりやすくなったり、スケジュールが立てやすくなります。
時間の感覚をつけるために、タイマーを使って自分の行動にどれぐらい時間がかかるのか把握したり、残り時間はどのぐらいなのかを常に見て意識することで遅刻を回避をすることが可能です。
公共料金の支払日やゴミ出しの日は忘れがちなため、視界に入る場所にカレンダーを設置し、常に確認できるようにしておくとよいでしょう。スマホのカレンダー機能であれば一定の時間前に設定すればアラームや画面表示で知らせてくれます。各種料金は口座からの引き落としにしておけば払い忘れがありません。
持ち物の「場所」はあらかじめ決めておく
何かに気を取られると、大事なものを忘れたり、失くしがちです。持ち物や大事なものをどこに置くかのルールをあらかじめ決めておくと、なくしものを減らすことができます。
「鍵・財布・ティッシュ・ハンカチ・携帯」など、セットにしてまとめておくのもおすすめです。
また、使ったものは決めた場所にしまう意識を向けることが大切です。毎日使うもの、大事なものはまとめて入れておく、引き出しや棚にはなにを入れる場所なのか張り紙や目印のシールなどを貼っておくのもよいでしょう。
自分の毎日を記録する
1日の中で自分がやったことや、どう感じたか、成功したこと、失敗したことなど自分の毎日を記録しておくと自分の行動や思考のパターンが見えてきて、どんなときに成功・失敗しやすいかがわかります。記録を振り返ることで、「こういったときに失敗しやすい」がわかると対策が立てやすいです。
家事は毎日やることか、週末にやることかを分ける
例えば料理や洗濯は毎日やると決めて、掃除は週末に行うなどあらかじめ決めておくようにします。食事に関しても、毎日自炊が大変であれば週末は外食にするなど決めておくとよいでしょう。
洗濯一つにしても、「洗濯をする」だけでなく、「洗濯物を洗う」「洗濯物をたたむ」「洗濯物をしまう」など段階で分けてどこまでやるかを決めておくと、全く手をつけられない状態を回避できます。
障害者虐待防止センター
市町村が設置する、障害者虐待に関する通報や相談に応じる窓口です。障害者の人権侵害行為なども相談できます。
困ったときの相談先・支援機関
【生活に関する相談先】
発達障害者支援センター
発達障害者(児)とその家族に対して障害に関する様々な相談に応じ関係機関と連携し、必要な支援をおこないます。具体的には発達や福祉サービス利用の相談、就労支援などをおこないます。
障害者就業・生活支援センター
障害者雇用促進法に規定される障害者の就業と生活両面での相談支援を実施する機関です。生活面では、日常生活・地域生活に関する助言、関係機関との連絡調整をおこないます。
日常生活自立支援事業
障害者の権利擁護に関わる支援をおこないます。主な内容としては福祉サービスの利用に関する相談、金銭管理、通帳・印鑑の預かり、郵便物の管理などです。
【仕事に関する相談先】
障害者就業・生活支援センター
障害者雇用促進法に規定される障害者の就業と生活両面での相談支援を実施する機関です。就業面では、就業に関する相談支援、関係機関との連絡調整をおこないます。
地域障害者職業センター
障害者の就労に関わる相談や支援(専門的職業リハビリテーション)をおこなう機関です。具体的には職業評価、職業指導、職業準備訓練及び職場適応援助などを提供します。
ハローワーク
就労を希望する日本国民(障害者を含む)に求人を紹介したり、その他の就労に必要な情報や知識、訓練を提供するなどして、その就労を支援します。障害者には、障害者雇用枠の求人を紹介します。
就労移行支援事業所
通常の事業所に雇用されることを希望していてかつ、可能と見込まれる障害者に対して、就労に必要な知識やスキルの訓練、就職活動の支援や就職後のフォローなどをおこないます。
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まとめ
2000年代になって、ASDをふくむ発達障害に対する一般的な認知は各段に高くなってきました。また、発達障害者支援法(2004年)の成立や、発達障害者も障害者手帳を取得できるようになるなど、国の支援政策も進んでいます。環境としては、ASDを持つ人の一人暮らしは以前よりも整ってきていると言えます。自立した生活というのは、だれもが憧れ、挑戦したいものです。それには社会的支援をうまく利用することは当然のことながら、自分自身をどう理解し、助けるかも重要です。今回ご紹介したライフハックをうまく利用して一人暮らしを実現する一助にしてみてください。