知的障害のある人のコミュニケーション~困りごととうまくすすめるためのポイントを解説~
更新日:2022年11月16日
知的障害のある方は自分で他の人とのコミュニケーションが苦手と思っている方も多いと思います。知的障害の度合いはIQ(知能指数)で測られ、コミュニケーション能力を含む日常生活に必要な思考力や行動力などが重度になるほど制限されていきます。また、知的障害のある人と同僚や雇用者として関わる人にとっても、そのコミュニケーションの仕方を理解するのは難しいことがありますので、その特徴や対応の仕方を知っておくことは重要だと考えます。今回は知的障害のある人とそれに関わる職場の担当者や同僚となる方にも知っていただきたい知的障害のある方のコミュニケーションの特徴などについて説明します。
目次
知的障害とは
まず、知的障害とはどのような障害でしょうか。厚生労働省では知的障害を以下のように定義しています。
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の支援を必要とする状態にあるもの」
具体的には以下の(a)(b)いずれにも該当するものを知的障害としています。
「知的機能の障害」について
標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。
「日常生活能力」について
日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準(別記1)の a, b, c, d のいずれかに該当するもの。
詳細につきましては、厚生労働省の以下のリンクをご確認ください
知的障害の症状や併発しやすい疾患
知的障害の程度は軽度・中等度・重度・最重度の4段階に分けられますが、この4段階の区分は前述したウェクスラーやビネー式の知能検査によって得た知能水準(IQ)と、どれだけ自立して日常生活ができるかを示す日常生活能力水準の兼ね合いによって判断されます。
例えば、知能水準が”Ⅰ”でも、生活能力水準が”d”の場合、知的障害の程度は最重度にはならず、重度となります。
知的障害があると併発しやすい疾患には、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害や、ダウン症、てんかんや脳性まひ、認知症、成人病などが挙げられます。また、他者との関わりがうまくいかないことが多くあると、うつ病などの精神疾患を併発する例も多く見られます。
知的障害と発達障害の違いについてですが、知的障害は知的機能の発達水準が全体的に低いために社会性に困難が生じるものですが、一方で発達障害は、多くのケースでコミュニケーション能力や行動面、学習能力などある特定の分野に関して困難が生じるものです。
知的障害のある方がコミュニケーションでよくある困りごと
知的障害がある方は、知的障害がコミュニケーションにも大きな影響をもたらします。ここでは、知的障害のある方のコミュニケーション面での主な困りごとをご紹介したいと思います。
相手の言葉が理解できない
他者とのコミュニケーションにおいては、まず相手の言葉が理解できないことがあります。本人がいくら真面目に真剣に聞いていても一度では理解できず、何度か同じ説明を聞いてようやく理解できる場合もあります。 難しい言葉だけでなく、早口や同時にいくつものことを言われたり、長い説明なども理解が難しくなります。
うまく伝えることが苦手
自分からの発信では、 知っている言葉が少ないため、思っていることがうまく伝えられない、文章がうまくまとめられないということがあります。さらに知的障害が重度になるほど、同じ言葉を繰り返す傾向が強く、相手に何度も同じことを伝えたり、相手が答えているにもかかわらず、同じ質問を繰り返すこともあり、相手が困ってしまう場合もあります。
状況に応じた行動をすることが難しい
行動面では、いくつかのことを同時に行うことが難しかったり、常同行動といって、知的障害者や、発達障害者特有の同じ行動パターンを取る人も割合多く、いつもと違うことが起きると混乱してしまうということがみられます。仕事の面でも同じ作業をすることは得意ですが、ハプニングが起きたときに臨機応変な行動をすることが難しい傾向にあります。
これらの困りごとは知的障害の程度、経験や訓練によって一律ではありませんが、重度になるほどこれらの傾向は強くなるといってよいでしょう。知的障害のある方とかかわる側の場合は、決して先入観を持たず、一人一人に個性があることを理解して、受け入れる気持ちを持って、わかりやすく、根気よくコミュニケーションを取ることが重要です。
コミュニケーションをうまく進めるためのポイント
自分の弱みや強みを把握すること
知的障害のある方がコミュニケーションをうまく進めるためには、自身の障害理解を含め、自分自身の弱み・強みを把握することは、相手に自分のことを伝えるときにも有効です。
いわゆる自己覚知というものですが、自己覚知は障害がある人のみではなく、一般的にも他者とかかわる場面、特に就職活動をする際にも、自分の長所・短所を知り、どのような仕事が向いているかを理解したり、どんな場面、状況で自分の短所が出て、それにどのように対処するのかを把握できる手段です。
ただし、自分の弱みや強みは自分自身だけで正確に把握することは難しいので、客観的に見て意見をくれる第三者の協力が必要です。家族や友人でもかまいませんが、就職が視野に入っている場合は、障害者の就労を支援する機関(ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなど)や施設(就労継続支援事業所、就労移行支援事業所など)を利用すると適切なアドバイスを受けられるだけでなく、弱みへの対処するためのトレーニングなどを実施してくれます。
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理解できない時は焦らない
相手の話が理解できないときは焦らずに、相手に確認しながら進めることが重要です。障害のあるなしは関係なく、人と話している時になんとなく話の腰を折ることが嫌だったり、わかっているフリをしてしまうことがありますが、就職活動や実際に働く場面ではタブーです。それよりも、理解できない時は「理解できませんでした」「もう一度ゆっくりお願いします」など素直に聞き直す方があとあと困りません。
自分だけではなく相手の協力が必要になりますが、イラストや写真など視覚的な情報を交えながらコミュニケーションをとることは大変有効です。これは知的障害のある方は視覚的情報が理解しやすい傾向があるためで、実際に知的障害や発達障害がある方が利用する障害者施設や、就労する事業所では広く活用されています。この方法が有効なことを事前に周囲にも伝えておくことで、相互のコミュニケーションを円滑に進めることができます。
周りにSOSを出す
職場などで周囲とのコミュニケーションが上手くいかない場合、一人で悩んでも解決はできません。同僚とのコミュニケーションがうまくいかないために馴染めず、退職してしまうことも多くあります。コミュニケーションだけではありませんが、困ったことがある場合、周囲にSOSを出して助けを求められることも重要なスキルといってもよいでしょう。
曖昧な表現が苦手なことを伝える
言葉だけでのコミュニケーションを取る場合、知的障害のある方は「これ」「あれ」など曖昧な表現が苦手です。これも事前に相手に伝えておくことでコミュニケーションはスムーズになります。逆に、対応する側としては日本語によくある主語の省略をしないように心掛けるとよいでしょう。
まとめ
知的障害のある方のコミュニケーション能力は知的障害の程度が重いほど低くなってしまいます。それによって、理解できない分できることが制限されるのです。コミュニケーションを円滑にするためには、知的障害のある本人の自己努力として、自分の弱みや強みを的確に理解する自己覚知が有効です。それとともに、それを解決する手段として何ができるのかを明確にしておくことも重要です。
知的障害のある方のコミュニケーションを円滑にするためにできることは、まず自分のコミュニケーション能力のどこが弱いのかを把握して、自己努力で補えることは何か、自分だけでは難しい場合は障害者の就労支援サービス等を利用しスキルを身につけるようにします。また相手側にコミュニケーションを円滑にするための手段(視覚的な情報の活用、言葉の明確化、複数の指示を出さないなど)を相手に事前に伝えるようにし、それでも困ったときはちゃんと質問したり、自分からSOSを出すことを心掛けましょう。