身体障害者の雇用状況は?仕事の探し方や合理的配慮について解説
更新日:2024年08月25日
障害者雇用促進法では、事業者が常用労働者に対する障害者の雇用割合を定めていて、これを法定雇用率といいます。法定雇用率は、令和3年3月1日に引き上げられて、民間企業は2.3%、国や地方公共団体などは2.6%と引き上げられました。障害の有無に関係なく、希望や能力に応じて、誰もが働くことで社会参加ができる「共生社会」の実現には、まだまだですが、障害者の雇用は年々増えています。今回は障害の中でも、身体障害のある方が多く就労している仕事や雇用形態、就職のために利用できるサービスについて解説します。
目次
身体障害の方がよく就く仕事・雇用形態
厚生労働省が調査・公表している「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の数は642,178.0人で、そのうち身体障害者は360,157.5人でした。
雇用されている企業の産業別では、製造業が最も多く163,068.0人で、以下医療・福祉の97,951.5人、卸売業・小売業の95,588.5人、サービス業79,915.0人と続いています。製造業の中では、その他機械、電気機械、食料品・たばこ、化学工業の順で多くなっています。
また、同じく厚生労働省が公表した「令和5年度障害者雇用実態調査結果」によると、雇用形態は無期契約の正社員が53.2%、有期契約の正社員が6.1%、無期契約の正社員以外が 15.6%、有期契約の正社員以外が24.6%となっていて、半数以上が正社員として雇用されていました。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)が最も多く75.1%、次いで 20 時間以上30 時間未満が15.6%となっていました。平均賃金は、身体障害者平均が月額23 万5千円で、うち通常(30時間以上)では26 万8千円です。
参考:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」
参考:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果」
身体障害の種類
身体障害とは、先天的または後天的な理由により、身体機能の一部に障害がある状態をいいます。
身体障害者福祉法では、
上記5つの種類に分けられています。
法律では、障害の種類ごとに障害の程度を7等級に区分していて、一番障害が重い1級から6級までが身体障害者手帳の交付対象となっています。なお、7級は2つ以上の障害が重複している場合に交付対象となります。
視覚障害
視覚障害とは、視力や視野に障害があって、生活する上で支障がある状態をいいます。眼鏡などで矯正しても一定以上の視力が出なかったり、視野が狭いことで人や物にぶつかるなどの状態です。
視覚障害の見え方には、医学的に光を感じない状態の「全盲」と、矯正しても一定レベル以上の視力の回復が期待できない「弱視(ロービジョン)」とがあります。
身体障害者手帳(視覚障害)の交付対象となるのは、「両眼の視力の和が0.01以下」の1級から、「一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので両眼の視力の和が0.2を超えるもの」の6級までです。
日本全国で身体障害者手帳(視覚障害)を交付された人は約32万人です。
聴覚または平衡機能の障害
聴覚障害は、音声情報を脳に送るための部位(外耳、中耳、内耳、聴神経)のいずれかの障害が原因で、音が聞こえないか、あるいは聞こえにくい状態をいいます。
障害の部位によって、伝音難聴と感音難聴、両方がある混合難聴に分けられます。外耳から内耳までに障害がある場合を伝音難聴と言い音が小さく聞こえます。聴神経に障害がある場合を感音難聴と言って、音が小さく歪んで聞こえ、はっきりと聞き取りにくくなります。
平衡機能障害とは、姿勢を調節する機能の障害で、四肢や体幹に異常がないにも関わらず起立や歩行が不自由な状態をいいます。
身体障害者手帳(聴覚または平衡機能の障害)の交付対象となるのは、聴覚障害が「両耳の聴力レベルがそれぞれ100㏈以上のもの(両耳全ろう)」の2級から、「両耳の聴力レベルが70㏈以上、一側耳の聴力レベルが90㏈以上、他側耳の聴力レベルが50㏈以上」の6級までです。
平衡機能障害には3級の「平衡機能の極めて著しい障害」と5級の「平衡機能の著しい障害」のみが設定されています。
音声・言語・そしゃく機能の障害
音声・言語機能の障害は、「音声機能または言語機能の喪失」の3級と、「音声機能または言語機能の著しい障害」の4級が身体障害者手帳の交付対象です。3級の音声機能または言語機能の喪失は、音声を全く発することができないか、発声できても言語機能を喪失している状態です。
4級の音声機能または言語機能の著しい障害は、音声または言語機能の障害が原因で、音声や言語だけで意思を疎通することが困難な状態です。
そしゃく機能障害は、「そしゃく機能の喪失」の3級と、「そしゃく機能の著しい障害」の4級が身体障害者手帳の交付対象です。3級のそしゃく機能の喪失は、経管栄養以外に方法のないそしゃく・嚥下機能の障害を指します。
4級のそしゃく機能の著しい障害は、著しいそしゃく機能や嚥下機能の障害、咬合異常によるそしゃく機能の著しい障害をいいます。
肢体不自由
肢体不自由とは、病気やケガなどにより、四肢(上肢・下肢)・体幹(腹筋や背筋、胸筋、足の筋肉を含む胴の部分)の機能の一部または全部に障害があるために、日常生活での動作が困難になった状態をいいます。
身体障害者手帳の交付となる等級は、上肢・下肢・体幹・乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害(上肢機能・移動機能)で、それぞれ定められています。
内部障害
内部障害とは、体の内部の障害により日常生活や社会生活に支障がある状態をいいます。障害の部位や原因によって、心臓機能、腎臓機能、呼吸器機能、ぼうこう・直腸機能、小腸機能、肝機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能の障害の7つがあります。
内部障害の等級は、1級・3級・4級があり、肝機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害の場合には2級もあります。
身体障害の方の仕事における悩みと合理的配慮
障害のあることを開示したオープン就労であっても、事業所の障害に対する理解や情報の共有が不十分なケースがあり、身体障害のある人のなかには、働きづらさや悩みを感じている人が多くいます。
2016年に施行された「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」では、行政機関や企業などの事業者に対して「①障害を理由とする不当な差別的取り扱い禁止」と「②合理的配慮の提供義務」を課しています。
雇用における合理的配慮については、「改正障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」により義務付けられています。
どのようなシーンで、どのような配慮が必要かについては、障害の特性や悩みの内容によって異なるため、障害当事者とよく話し合いながら、配慮の内容や方法を決めていくことが大切です。合理的配慮の具体例(ほんの一例にすぎませんが)については次の通りです。
視覚障害者の合理的配慮の具体例
拡大文字、音声ソフトなどを活用して業務が遂行できるようにするなど。
移動の支障となる物を通路に置かない。
机の配置や打合せ場所を工夫するなど職場内での移動の負担を軽減するなど。
聴覚・平衡機能障害の合理的配慮の具体例
業務指示・連絡に、筆談やメール等を利用するなど。
音声機能、言語機能・そしゃく機能障害の合理的配慮の具体例
メールやチャットを利用する、筆談やコミュニケーションボードを利用するなど。
肢体不自由の合理的配慮の具体例
スロープ、手すり等を設置する、机の高さを調節するなど作業を可能にする工夫を行うなど。
内部障害の場合の合理的配慮の具体例
出退勤時刻や休暇、休憩に関し通院や体調に配慮するなど。
身体障害のある人の働き方
身体に障害を抱える人が就労する際には、職種や仕事内容、収入だけでなく、どのような働き方をするのかも重要な要素となります。身体障害の方の働き方としては、障害のない人と同じ働き方をする方法(一般就労)と、福祉サービスを利用しながら働く方法(福祉的就労)とがあります。
一般就労
一般就労とは、労働基準法に基づいて労働契約を交わし、企業や公的機関などで働く一般的な就労形態です。そして身体障害のある方が、一般就労する場合には障害があることを事業主に伝えて就職する「オープン就労」と、障害があることを伝えずに働く「クローズ就労」の2つの働き方があります。
オープン就労のメリットは、障害の特性について事業主に知ってもらったうえで働くことができるので、職場の人たちの障害に対する理解や配慮が得られやすいことです。
勤務形態や業務内容など障害に合わせて考慮してもらったり、通院が必要な場合には休暇が取りやすいといったメリットもあります。
一方でデメリットとしては、障害者雇用枠での求人数が少なく、職種の選択肢が限定される。給与水準が比較的低いことがあげられます。
クローズ就労のメリットは、オープン就労と比較すると求人数や求人職種が多く給与水準が比較的高いことです。
デメリットとしては障害への配慮が受けられないことで、特に内部障害など外見で障害がわからない場合には、勤務形態や業務内容などが障害の影響で難しくても職場の支援が全く受けられない可能性があります。
福祉的就労(就労継続支援)
福祉的就労とは、就労継続支援事業所などで福祉サービスを利用しながら働くことです。障害によって一般就労が難しい場合に選択できる働き方です。
就労継続支援事業所には、「就労継続支援A型事業所」と「就労継続支援B型事業所」の2種類があります。
A型事業所は、利用者が事業所と雇用契約を結んで最低賃金以上の給与が支払われます。
B型事業所は、障害の程度や年齢などの理由で、雇用契約を結んで働くことが難しい人に、働く場所を提供する福祉サービスで、体調に合わせて週に1時間だけでも働くことができる事業所もあります。
報酬は生産物に対する工賃で支払われます。それぞれの違いについては次の通りです。
身体障害者の方が仕事を探すときのポイント
身体障害の方が仕事を探す時、次のポイントを押さておくと、働きやすい環境が整いやすくなります。
職務配置に配慮があるか
身体障害のある方は障害の程度や症状により、できる仕事の範囲や特性は人それぞれです。はたらく人の障害の程度や種類に応じて職務配置を行うことは、個々の持つ能力の発揮や長期就労につながります。
職場環境に配慮があるか
身体障害のある方が仕事をするにあたって、身体的な支障を感じることなく業務をこなすには、基礎的環境整備の充実は欠かせません。職場環境に配慮があるか、確認しておきましょう。
通勤に配慮があるか
身体障害があると、通勤に困難を感じるケースが多いです。そのため、時差出勤や送迎の手段の確保など、通勤を容易にする措置を行うことも大切です。通勤の配慮についても事前に確認しておきましょう。
身体障害のある人が利用できる就職・就労支援
身体障害のある人が、就職や転職で仕事を探す際には、障害者の就職活動を支援する専門機関を利用すると、自分に合った仕事を見つけやすくなります。障害者の就職を支援する機関には公的なものや民間の運営するものなどいろいろとあります。それぞれの特徴は次の通りです。
ハローワーク
ハローワークは、厚生労働省が所管する公的な職業紹介サービスです。正式な名称は公共職業安定所といいます。公的機関のため、すべて無料でサービスを利用することができます。ハローワークでは、障害者雇用を中心に扱う障害者窓口が設置されていて、専門の職員や相談員が配置されています。求人の申し込みから、就職後の困りごとや悩みの相談など、一貫して職業紹介や就業指導などを行っていて、求人に関しては障害者の求人だけでなく、一般の求人も紹介してくれます。相談の際には、障害者手帳や医師の診断書や意見書(ハローワークの書式)が必要なこともあります。手元にある場合は必ず持参するようにしましょう。
障害者職業センター
障害者職業センターは、障害のある人に対して専門的な職業リハビリテーションサービスや、事業主に対して障害者の雇用管理に関する相談・援助する施設です。地域の関係機関に対する助言・援助をおこなっています。全国47の都道府県に、最低1か所ずつ設置されていて、独立行政法人「高齢・障害者・求職者雇用支援機構」が運営しています。支援内容は、センター内での作業支援や職業準備講習カリキュラムなどです。
センター内での作業支援では、早期の就職を目指すために、センター内に設置された模擬的な就労場面で、短期間の作業体験を通じて作業適性や職場環境への適応力などを把握することで作業遂行力の向上を図っています。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活における自立と安定を図ることを目的として全国336カ所に設置されています。名称が長いため、就業と生活の間にある「・」から「なかぽつ」と呼ばれています(地域によっては「就ぽつ」、「なかぽつセンター」と呼ばれることもあります)。雇用や保健、福祉、教育などの関係機関と連携して、就業面と生活面の両方で一体的な支援を障害のある人に対して行います。
「職業支援」では、2~7名配置されている就業支援担当員が、支援を必要とする障害のある人に対して就労面での支援を行います。支援は主に就業に関する相談支援と、雇用管理について事業主へのアドバイスです。「生活支援」では生活支援担当者が、障害者が仕事をしながら安心して生活を送れるように、規則正しい生活を身につけるなどといった、日常生活における自己管理や健康に関するアドバイスを行います。
障害者専用転職サービス
民間企業が運営する転職情報サイトや転職エージェントのなかには、障害のある人の転職に特化したサービスもあります。利用者はハローワークや障害者職業センターなどと同様に、無料で利用することができます。障害のある方が対象の求人が多くあるため、まずは登録してみましょう。