気分障害のある人が仕事をするために知っておきたい!気分障害の特徴と仕事の選び方とは?
更新日:2022年08月02日
気分障害とはひとつの精神的な病気のことではなく、いくつかの精神的な病気をまとめて気分障害と呼びます。この気分障害の種類については本文で述べますが、気分障害を抱えながら社会に出て働くということは時に非常に大きな困難を抱えてしまう場合があります。こうした困難を抱えながら仕事を続けることは非常に難しく、仮に就職できたとしても長期就労に結びつかないケースも少なくありません。このような状況に陥らずに就職した職場で長く定着して働き続けるためには気分障害の特徴を知り、その特徴に合った職場に就職する必要があります。ここでは気分障害とはどのようなものかといったことから、気分障害のある方に向いている職場の特徴などについて詳しく解説していきます。
目次
気分障害とは
気分障害は、感情障害と呼ばれることもあります。
気分障害の症状は、強い抑うつ感を感じたり、逆に高い高揚感を感じることで日常生活を送ることが困難になるというものです。
気分障害になるきっかけとしては、大事な人の死や離婚、失恋など何らかの喪失体験が考えられます。喪失体験により深い悲しみを感じることは普通のことですが、このような体験をきっかけに気分障害になると日常生活に支障をきたすようになります。
気分障害の種類
気分障害とは、3つの精神的な病気のことをいいます。
うつ病、双極性障害、持続性気分障害です。
うつ病
うつ病の代表的な症状は、抑うつ状態の継続や物事への興味、喜びの感情の消失といった症状です。
それ以外にも食欲の減退や増進、不眠や睡眠過多、疲労感の増大、集中力の低下、精神運動の静止や強い焦燥感、死にたいという思いなどの症状があげられます。
基本的には、これらの症状が2週間以上続いた場合に、うつ病と診断されます。また、身体的な不調が現れることもあります。便秘または下痢、頭痛、口の渇き、呼吸困難感、心悸亢進などがあげられます。
うつ病を患っている人の約60%はまず身体的な病気を疑って、内科を受診すると言われています。
慢性疾患を患っている場合にうつ病を併発しやすいとも言われているため、がんや糖尿病、冠動脈疾患の方は注意が必要です。
几帳面でまじめ、かつ真正直、頑張り屋で問題が起こっても周囲に相談することなく自分ひとりで解決しようとするといった性格の人がうつ病になりやすいとも言われています。
うつ病の症状は初めに述べたようなものがほとんどですが、うつ病が重篤化すると妄想を持つようになることもあります。
心悸妄想と言われる、自分が病気であるというもの
貧困妄想と言われる、お金がないというもの
罪業妄想と言われる、なにか犯罪を犯してしまったというもの
等が代表的な物となります。
近年では仮面うつや冬季うつなどうつ病が多様化しており、うつ病の概念が広がり過ぎていると指摘されることがあります。
双極性障害
双極性障害の主な症状は、気分の異常な高揚やイライラ感です。
他にも以下の症状があげられます。
・誇大的になる
・睡眠時間が極端に短くなる
・しゃべり続ける
・いくつもの考えが浮かぶ
・異常に活動的になる
・注意力が散漫になる
・買いあさりを行ったり、損をすることが分かっている投資にお金をつぎ込む
このような症状が4日以上続く軽い躁状態を軽躁病エピソードと呼び、1週間以上このような状態が継続し、入院が必要なほどの状態を躁病エピソードと呼んで区別します。
1日のうちでうつ状態と躁状態が現れることもあり、このような状態を混合性エピソードと言います。
うつ病ではうつ状態のみが出現しますが、双極性障害ではうつ状態に加えて上記の3つのエピソードのうち1つまたは複数見られます。
一般的な双極性障害の場合には、抑うつ状態と躁状態を繰り返します。
双極性障害の場合、患者は躁状態のときには周囲を困らせることはあっても患者自身は快適に感じていることが多いため、患者自らが進んで受診することはまずありません。
過去に躁状態があったかどうかを患者自身に聞いても本人に自覚がないため、家族など患者をよく知っていたり、同居していたりする人の証言により双極性障害であると診断されることがあります。
双極性障害の患者は抑うつ状態と躁状態を繰り返しますが、抑うつ状態の期間のほうが長いため、うつ病と診断されることもあります。
持続性気分障害
持続性気分障害とは、気分が高揚している状態と落ち込んでいる状態が交互にやってきて、気分が安定しない状態が長く続く状態のことを言います。
気分の落ち込みはうつ病に比べて軽いため、単に落ち込みやすい性格であると捉えられてしまうこともあります。
そのため患者は自分が病気であると気付かずに、疲労感や集中力の低下、不眠などの身体上の不調が長い期間にわたって続いても、医療機関を受診することなく我慢してしまうこともあります。
持続性気分障害は大きく分けて気分変調症と気分循環症に分けられます。
気分変調症とは、うつ病と診断されない程度の軽度の抑うつ状態がほぼ1日中、2週間以上続きます。
興味の消失、罪悪感や絶望感にとらわれる、不眠、集中力の衰え、活力や生産性の衰えなどの症状が慢性的に現れます。
気分循環症は、双極性障害と診断されない程度の軽い躁状態とうつ状態が繰り返し不規則に起こります。このような状態が1年から2年以上続きます。
軽い躁状態とうつ状態が短い期間で繰り返されるため、仕事や日常生活に支障を来すこともあり、予期できない気分の変化がしばしば起こるため、気まぐれ、気分屋というように周囲の人に捉えられることもあります。
患者自身は躁状態の場合には気分が良い、うつ状態の場合には気分が悪いといった程度にしか感じていませんが、周囲の人からは突拍子もないことをする人、感情の変化によりトラブルを起こしやすい人と見られていることもあります。
気分障害の治療法にはどのようなものがあるのか
気分障害の治療は、その病気によって治療法が異なります。
ここでは、それぞれの病気の薬物療法と精神療法について解説していきます。
薬物療法
【うつ病】
うつ病の薬物療法では、ベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする抗不安薬、抗うつ剤と向精神薬の3種類が処方されます。
抗不安薬は服用して数十分で効果を実感できることが多いのですが、大量の抗不安薬を長期間服用し続けることには問題があると指摘されることもあります。
一方抗うつ薬は、服用を始めてから効果が出るまでに数週間から数か月かかりますが、うつ病への薬物治療における中心となる薬です。
向精神薬は本来は統合失調症の治療に用いられるものですが、一部の向精神薬は抗うつ薬と併用することで症状の改善が見られることもあります。
【双極性障害】
双極性障害の薬物療法に使用される主な薬は、気分安定剤と抗精神病薬です。
日本では、リチウム、パルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンの使用が可能です。
これらの薬は躁状態を抑える効果に加えて、抑うつ状態を改善させる効果や一度安定した気分を維持する効果があります。
一部の抗精神病薬は上記の気分安定薬と同じような効果が証明されているため。気分安定薬と併用されることもありますが、抗精神病薬のみで使用されることがあります。
【精神療法】
うつ病の精神療法には、認知行動療法と対人関係療法があります。
認知行動療法とは、なにか困りごとが起こったときに物事を悲観的に捉えたり考えたりする心の癖を改善することで、マイナス思考がうつ状態を悪化させる悪循環を断ち切る方法を学び、身につける治療法です。
対人関係療法は、うつ病の原因となった対人関係の問題を解消することで、うつ病に悪影響を与えるストレスを軽減させます。
対人関係が改善されることで、患者が周囲の人から受け入れられやすくなるため回復に向けたサポートを受けやすくなるといったメリットもあります。
【双極性障害】
双極性障害の精神療法としては、うつ病の場合に行う認知行動療法と対人関係療法に加えて起床時間や就寝時間、食事の時間、仕事や他者との接触などの生活リズムに着目し、リズムの乱れを整える社会リズム療法があります。
【持続性気分障害】
持続性気分障害に用いられる精神療法は、うつ病や双極性障害に用いられる精神療法の中から症状に応じたものを用います。
気分障害でも仕事をするために必要な事とは?
気分障害がありながらも仕事をし、社会で活躍したいと考えている方も少なくありません。
そのためには、自分の気分障害をコントロールする必要があります。
気分障害をコントロールするために重要なことを3つ紹介していきます。
職場に理解を求めて職場の環境を調整する
気分障害がありながら会社で働くためには、会社側に自分が気分障害であることを説明し、会社側に合理的配慮を求めることが重要です。
合理的配慮とは、障害のある人が健康な人と平等な社会生活を送るために、教育や就業の現場で行われる特性や困りごとに応じた個別の環境調整のことです。
合理的配慮を受ける場合には、自分の気分障害の特性を会社側に十分に理解してもらい、自分が働きやすい環境を整えるために適した配慮をしてもらうようにしましょう。
同じ気分障害のある人でも、必要とする合理的配慮は人によって異なるため、自分に必要な合理的配慮とはなにかということをしっかりと自覚しておくことが重要です。
セルフケアを大切にする
自分で自分の気分障害をコントロールするためには、セルフケアも重要です。
・睡眠や睡眠や食事の時間などの生活リズムを整える
・どのようなものに自分がストレスを感じるかをきちんと把握する
・適度な運動を行う
・過食や過度のダイエット、飲酒などの食習慣を見直す
上記のように、一口で言えば、生活習慣をより健康的な物にランクアップさせることが症状を改善させる手がかりとなります。
セルフケアを行うことで、気分障害の改善だけではなく、身体的にも健康になることができます。
仕事がつらい場合は休職も視野に入れる
働きたいと思っていても、気分障害の症状が酷い場合には一時休職して治療に専念することも視野に入れておくようにしましょう。
休職したいと思ったら、まずは直属の上司や人事担当に相談し、休職制度について確認することをおすすめします。
休職制度について確認し、休職期間や休職中の過ごし方などについて主治医へ相談しましょう。
休職中には傷病手当金が支給されるため、急に生活に困窮するといった心配はありません。
休職している間に「リワーク」と呼ばれるプログラムを利用することができます。
この「リワーク」とは復職支援のプログラムで、休職期間中に気分障害の症状に改善が見られたものの、まだ復職には自信がないといった場合に利用するものです。
リワークは、就労移行支援事業所や精神科のデイケアで受けることができます。
気分障害のある人が仕事を続けるためのコツとは?
気分障害のある人が職場に長期定着して働き続けるためには、いくつかのコツがあります。
そのコツとは一体どのようなものなのでしょうか。
ここでは気分障害のある人が、長く一つの職場で働き続けるための5つのコツについて詳しく解説していきます。
自分の障害の特性を受け入れる
気分障害とは、うつ病、双極性障害、持続性気分障害という精神的な病気を総称したものです。
これらの精神的な病気の特徴は「気分の波が健康な人より激しい」といったもので、この特徴により時には仕事や日常生活に支障を来してしまうこともあります。
これは気分障害のある人自身が悪いのではなく、気分障害という「障害」が持つ特性だということをしっかりと理解し、自分自身を責めないようにしましょう。
気分が安定しないのは気分障害のせいなので、なぜ自分の気分が安定しないのかを考えてもしかたがありません。
それよりも、安定しない気分を安定させるためには、どのような方法で対処すれば良いのか、何が気分を不安定にするのかということをしっかりと知っておくことのほうが重要です。
気分障害の特徴を把握し、どのようにすれば気分の波を元に戻せるのかという具体的な方法を探り、知っておくことで仕事や日常生活に対する支障を最小限に抑えることができます。
困りごとがあったら日ごろから職場に相談する
気分障害という障害の特徴として、気分が安定しないことから仕事のパフォーマンスも安定しにくく、時には仕事に穴を空けてしまうこともあるでしょう。
もともと気分障害は、几帳面でまじめな性格の人がなりやすい病気です。
このような人が自分の障害によるパフォーマンスの低さから仕事に穴を空けてしまった場合、さらに気分が落ち込むことが予想されます。
日ごろから自分の気分障害という障害に関して会社側に相談しておき、パフォーマンスが低下して仕事の負担が重くのしかかってきたときに周囲の人にフォローしてもらえるようにしておくことをおすすめします。
仕事のスケジュールに余裕を持たせる
気分障害という障害は、いつどのようなタイミングで気分の変調があるか予想できるものではありません。仕事のスケジュールに余裕を持たせておくことが、仕事に穴を空けないために重要になってきます。
気分の激しい落ち込みや高揚時に仕事を休んだり、作業スピードを緩めたりすることができるようになるからです。
仕事のスケジュールに余裕を持たせておくことで、心にも余裕ができ、激しい気分の落ち込みや高揚を避ける効果も期待できます。
残業はできるだけ避ける
気分障害という障害の特性として、気分の波と勤務時間や仕事量が同調することも珍しくありません。仕事で全力を出し切って疲れ切ってしまうとそれと連動して気分に影響を与えることがあります。
特に双極性障害の人は、繁忙期などに残業を続けることがきっかけで躁状態になってしまうこともあります。
どの程度の仕事量であれば気気分に影響なく働くことができるかという点をしっかりと把握し、余裕を持った仕事量を上司や会社側に考慮してもらうようにしましょう。
定期的な休みを入れる
仕事を長く続けるうえで、定期的に休みを入れるということも気分障害のある人にとって非常に重要な事です。
体調がすぐれないときのためになるべく多く有給休暇を残しておくという気分障害のある人も多く、このことが精神的な余裕につながることもあります。
会社側で決められた公休以外に全く有休を使わなかったり、少々体調が悪くても無理をして出勤したりするのは気分障害のある人にとってあまり良い方法であるとは言えません。
気分の極端な変調を起こさずなるべく一定に保つためにも、体調が悪くなりそうな前兆を感じたらすぐに有休を使うようにすると良いでしょう。
体調に少しでも異変を感じた時点で定期的に休みを入れることで、短い期間で体調を回復させることができ、結果として少ない有給休暇の利用で体調を一定に保つことができます。
気分障害のある人に向いている仕事って何?
気分障害のある人に向いている仕事の特徴には、以下のようなものがあります。
自分のペースで進めることができる仕事
自分のペースで進めることができる仕事は、業務量や作業時間を体調に合わせて自分で決めることができるため、気分障害のある人に向いています。
勤務形態が柔軟な働き方ができる仕事
勤務形態が柔軟な働き方ができる仕事も、気分障害のある人に向いている働き方です。
そのため、フレックス制や裁量労働制などの制度がある会社であれば、気分障害のある人にとって働きやすい職場である可能性が非常に高いと言えるでしょう。
対人折衝が少ないバックオフィスの仕事
対人折衝が少ないバックオフィスの仕事は、他の仕事に比べて人と関わる頻度が低くなります。そのため、人間関係に煩わされる可能性も低くなります。
ストレスが溜まると体調不良を引き起こしやすいため、このような対人折衝の少ない仕事で人間関係のストレスを減らすことで、気分障害のある人も体調を崩すことなく働き続けることができる可能性が非常に高くなります。
気分障害のある人が仕事探しをする際におすすめの方法
気分障害のある人が仕事を探す場合には、どのような方法を用いればよいのでしょうか。
ここでは、気分障害のある人が仕事探しをする際に用いるべきおすすめの方法を紹介していきます。
就労支援機関を利用する
就労支援機関とは、障害者の一般就労の機会を広げ、障害者が安心して働き続けることができるよう、就労面と生活面の支援を一体的に行うことを目的としている支援機関です。
障害を公表してオープン就労にすべきか、非公表にしてクローズ就労にすべきかといった点や、障害者手帳を取得して障害者枠での就労をすべきかなどの悩み事について相談することができ、就職活動の手助けもしてくれます。
就労支援機関の中でも就労移行支援事業所では、精神面のケアから仕事に必要なスキル修得のサポート、就職先の斡旋まで一貫して障害者の就労の支援を行ってくれます。
気分障害のある人は、このような就労支援機関を利用することで自分の障害にあった会社に就職できる可能性が非常に高くなります。
勤務形態が柔軟な職場を探す
裁量労働制やフレックス制を導入している会社を選ぶと、長期就労に結びつきやすいでしょう。
しかし職種によっては、このような制度を採用している会社を探すことが難しいケースもあります。
体調に合わせて勤務時間の調整が行える時短労働制度や、ひどく体調を崩した際に退職することなく長期の休暇を取ることができる休職制度がある会社であれば、気分障害のある人でも働きやすい会社である可能性が高いといえます。
繁閑の差が少ない仕事を探す
気分障害のある人は残業が続くと気分障害の症状が悪化したり、再発したりする可能性が高くなります。
残業以外にも転勤や出張の多い会社も、同様の理由で気分障害のある人には向いていません。
仕事を探す際には、繁閑の差が少ない仕事を探すようにしましょう。
気分障害のある人が利用できる支援制度にはどのようなものがある?
気分障害のある人は、公的な支援制度を受けることができます。
このような支援制度には、次のようなものがあります。
自立支援医療
自立支援医療とは、精神科に通院やデイケアへの通所により治療を行う際の自己負担額の軽減を行うことができる制度です。
気分障害をはじめとした精神疾患の治療は長期にわたることが多く、それに伴い医療費も長期にわたってかさむことになります。
このような患者の経済的な負担を軽減するために存在するのがこの自立支援医療で、この制度を利用すると一般的な健康保険を利用した際の3割負担ではなく、1割負担で治療を受けることができます。
しかし、この制度は入院時には利用できないため注意しましょう。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は障害がある人に交付される障害者手帳の一種で、精神疾患がある人が取得することができるものです。
精神障害者保険福祉手帳は精神保険福祉法という法律により定められた制度で、症状や日常生活を送る上での支障の程度に応じて1級から3級の障害等級に分けられています。
精神障害者保健福祉手帳が交付される目的は、精神障害のある人が自立した生活や社会参加を行うことができるよう、さまざまな支援を行うことにあります。
支援の内容には、税金の優遇や公共料金の割引などがあります。
障害年金
障害年金は病気やケガなどにより生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の人も含めて受け取ることができる年金で、もちろん気分障害などの精神障害の人も受け取ることができます。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、精神障害の場合はその障害で初めて医師の診療を受けた時に国民年金に加入していた場合には障害基礎年金を、厚生年金に加入していた場合には障害厚生年金をそれぞれ受け取ることができます。
障害年金を受け取る場合には、年金の納付状況や障害の種類や程度による等級などにより受け取る金額が異なり、給付条件を満たしていない場合には受け取ることができないため、この点に注意しておきましょう。