発達障害の二次障害とは?その対処や予防法を詳しく解説!
更新日:2022年07月26日
発達障害とは自閉症などの自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(限局性学習症)(LD)などに代表される、先天的な脳機能障害を原因とする障害で、通常、低年齢で発症すると定義されています。発達障害の詳細な原因についてはまだまだ不明な点が多いのですが、日本では1990年代には一般的に知られるようになり、2000年代になって発達障害と診断される児童や成人が年々増えている状況です。2004年には発達障害者支援法も施行され、今までよりも発達障害への理解や支援が格段と進みました。また2016年には障害者差別解消法も施行され、教育や就労など社会参加の場面でも”合理的配慮”を提供することが求められるようになり、一層発達障害者を含む障害者の社会参加がしやすい社会になりつつあります。それだけにひと昔前までは”ちょっと変わった人(子ども)”と認識されていた人たちも発達障害ではないかと見られるようになり、検査を受ける機会が増え、発達障害と診断される人(子ども)が増えるという結果になっています。そんな中、発達障害者の多くが二次障害に苦しんでいるという問題が浮き彫りになっています。この稿では発達障害者が持つ二次障害とはどのようなものなのか、そしてその対処や予防法について解説していきます。
目次
「二次障害」が起こる原因
発達障害を持つ多くの人が抱えているとされる二次障害ですが、二次障害と言っても、実際は病理的な障害もあれば、発達障害に起因する問題行動などの二次的な作用のものまで広く指しています。
二次障害は発達障害の特性や症状が原因となっていますが、そもそも発達障害の出方は人によってさまざまです。二次障害も出る、出ない、どのような二次障害が出るかは一人ひとり違うと言ってよいでしょう。
二次障害で多いものとして知られるのはうつ病などのストレスからくる精神疾患ですが、発達障害者だけではなく、知的障害者や身体障害者でも、障害があることから社会生活をする中で、うつ病にならないまでも、他者との関わりにおいて大きなストレスを抱えることが多いのです。とりわけ、他の障害を併発していない場合、発達障害は一見して障害があるとは見えないため、その特性は他者から見ると、変わった人としか映らないこともよくあります。そのような無理解や誤解から他者との関係がうまくいかず、大きなストレスを持たざるを得ない状況に陥る人が多くいるのです。
自閉スペクトラム症などの発達障害では他者とのコミュニケーションが苦手なのが特徴であり、注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(限局性学習症)(LD)でも、自分では一生懸命やっているつもりなのに出来ない、そのことで学校の先生や職場の上司から注意されたりすると、自己嫌悪に陥ったり、自分に自信が持てなくなり、仕事やそれ以外の人と交わるような社会生活に対してストレスを感じ、それがうつ病などに発展していくのです。
「二次障害」の種類
内在化障害
発達障害における二次障害のうち、主に自分自身に大きく影響する精神症状を内在化障害と言います。内在化障害は多岐に渡りますが、主なものとしては以下のとおりです。
うつ病
気分が落ち込んだ状態が続き、無気力になる、何事も楽しめない、怒りっぽくなるなどの脱人格化、身体面でも体がだるい、動悸がする、食欲不振、不眠などが見られます。このような症状が2週間以上続くとうつ病と診断されます。
うつの方を採用した実績のある企業様も多数いらっしゃいますので、是非求人を見てみてくださいね。
→求人を探してみる。
・適応障害
自分の置かれている環境(状況や出来事)に対して適応できずに不安や抑うつ、学校や職場での無断欠席、暴力的、破壊的行動を起こすなど素行の障害が症状として見られます。不安を感じる状況下では目まいや発汗、吐き気などを伴うことがあります。ストレスの原因が明確であり、その原因が取り除かれると症状は改善します。
・不安障害
不安になることを主症状とする精神疾患で、原因や症状によってパニック障害、恐怖症、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害、物質誘発性不安障害など細かく分類されます。パニック障害では不安から来る突然の発作が起こり、激しい動悸やめまいなどが生じ、一定時間で収まりますが、また発作になるのではという不安を抱え行動に影響を与えます。
・強迫性障害
不安障害の一つで、強迫観念と強迫行動が主症状です。強迫観念は自分でも無意味、不適切とわかっていても不安で仕方がなくなってしまうような考え、衝動、イメージで、その不安を打ち消すための行動を強迫行動と言います。強迫性障害で多いものとして、トイレなどで何度も手洗いをする、家などで施錠をしたか、コンロの火は消したかの確認を何度も行うなどが挙げられます。
・依存症
特定の物質や行動(プロセス)をとることを自分では制御できず繰り返し行なうことをやめられない状態を依存症といいます。代表的な例として、物質依存症ではアルコール依存症や薬物依存症、プロセス依存症ではパチンコなどのギャンブル、万引きなどの犯罪行為に依存する例も見られます。
・心身症
心的、社会的要因から来る身体的な疾患の発症や悪化を心身症と呼びます。不安や心配事、恐怖などのストレスから胃潰瘍などの消化性潰瘍になる、蕁麻疹(じんましん)、ヘルペス、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患、過敏性腸症候群、気管支喘息など様々です。
・引きこもり
厚生労働省の定義では、引きこもりとは様々な要因から学校や仕事に行くことを避け、家に閉じこもっている状態が6カ月以上続くこととしています。うつ病や統合失調症などの精神疾患から来る症状や発達障害などが要因となっていることもあり得ますが、そのような疾患がなくても社会や他者とのコミュニケーションにおいて強い不安や恐怖などのストレス、家族関係などの問題なども要因となり得ます。
外在化障害
発達障害における二次障害のうち、他者に影響を及ぼすような行動面での問題を外在化障害と呼びます。このような外在化障害には他者への暴力、暴言、反抗などがあり、幼少のころからこのような素行に問題が見られるケースもあります。自分のことを理解してもらえない、怒られることが多いなどの経験が外在化障害につながります。このような外在化障害の中には他者に対する拒絶的、反抗的、挑戦的行動様式が6カ月以上続く反抗挑戦性障害や、さらに他者の基本的人権や社会的規範を侵害する、いわゆる不良行為などと呼ばれる行動のうち、他者や動物のへの攻撃性、所有物の破壊、嘘・窃盗、重大な規則違反のどれかが3つ以上12カ月の間に存在する行為障害が見られることも珍しくはありません。
「二次障害」になった場合の対処法
専門医の診察を受ける
自分だけで、もしくは家族の理解や協力があっても、専門医の指導やアドバイスなしには二次障害への対処は難しいのが現実です。発達障害の診断を受けている場合、定期的に専門医に通院されている事と思います。このような主治医がいる場合、あなたの発達障害の状態や性格なども理解しているため、二次障害への対処法も適切なものを提案してくれるでしょう。発達障害の症状も安定し、生活にも支障がない場合は特定の専門医にかかっていないかもしれません。そのような時は以前通院していた専門医に連絡して相談しましょう。特にそのような専門医がいない時はまずは近くの精神科や心療内科で診察を受けてみましょう。治療方針などが合わないこともありますが、その場合は躊躇なく別の専門医を訪ねてもよいでしょう。セカンドオピニオンを聞くことは今では普通に行われています。よりよい選択のための当然の権利と考えましょう。
焦らず治療に専念する
二次障害になった場合、まずは専門医に相談することが第一ですが、次のステップとしてはその専門医の指示に従い、しっかりと治療に専念することです。どのような傷病でもそうですが、一度治療を受けだしたら医師の指導に従い、言われた通りの通院、生活、服薬をしましょう。特にうつ病などの精神疾患となった場合、寛解の状態になっても経過観察のための通院や服薬は必要なことが多いので、自分の判断で通院や服薬、医師に指導された生活の仕方などを勝手に辞めてしまうのは危険です。精神疾患は短期間では治らない、そして再発のリスクはうつ病で5割以上と非常に高い確率となっています。また2回目、3回目と再発するごとに次の再発リスクはさらに高くなります。
例えばうつ病ですが、症状が重症化すれば学校や職場を長期に欠席せざるを得ない状況になります。しばらく医師の指示の通りに治療、静養すれば、服薬の効果や学校や職場というストレスの場から解放されることもあって症状も気持ちも軽くなります。そこで「もう大丈夫」と思って今までの学校や職場に復帰したり、新しい学校に入学、または転職します。ところが「同じ失敗はしない」、「今度こそ頑張る」と張り切り過ぎて再発し、場合によっては1カ月も持たない、数カ月で学校や職場に行けなくなって結局また退学、退職をするというケースはよくあります。学校や職場に復帰したり、再就職する際は必ず医師に相談し、その指示に従うようにしましょう。身近にいる家族や友達、学校の先生や職場の上司に相談することもあると思いますが、それらの人たちは専門家ではないため、自分の価値観でついつい「もうちょっと頑張って」、「この状況を乗り切らないと」などと言ってしまう人がいますが、返って本人にプレッシャーを与えてしまう結果になってしまいます。
「二次障害」を引き起こさないための予防法
適度に休む
発達障害があるとどうしても他者との関係の中で自分のできない部分を指摘されることが多いため、ストレスを感じます。また無意識に作業に集中してしまう特性もあり、仕事に対して過度に真面目に取り組んでしまい、またストレスを溜めてしまうこともありがちです。発達障害を持つ人が二次障害にならないためには適度に、または計画的にストレスから解放される時間を作る必要があります。注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害を持っていると物事の整理や計画的な行動が難しいので、この休むということに関しても家族や職場の人がアドバイスする役割をしてくれると効果的です。職場での休憩時間をきっちりと守る、また一人で気を休めることができる空間や場所を見つけておくことも大切です。最近は有給休暇も取りやすくなりましたので、まとめて有給休暇を取ることがないのであれば、月1,2回など定期的に取るようにすれば過度なストレスへの安全装置として働くでしょう。
生活リズムを整える
多くのうつ病などの精神疾患者では生活のリズムが乱れているという事実があります。逆にしっかりとして生活リズムを整えることで精神疾患などの二次障害を防ぐことができるのです。自閉スペクトラム症では一つのことに過度に集中する、注意欠如・多動症(ADHD)では計画的にものごとを実行することが難しいなどの特性で夜も安定した睡眠を取りにくいことが多いのです。健康のためには生活リズムの管理が大切なのですが、発達障害がない人でも精神疾患になる人の多くは生活リズムの乱れが見られます。その入口は睡眠であると言っても過言ではありません。心配事や不安があるにせよ、特性から寝ることを忘れてゲームなどで遊んでしまうにしても、適度な睡眠が取れなければ疲労は蓄積していきます。それが仕事や勉強だったとしても心身の健康の面では褒められたものではありません。夜、寝ない、または適切な睡眠時間が摂れなければ、当然翌日、学校や職場で眠くなり、実際に授業中、デスクワーク時に寝てしまう、もしくは立ち仕事や頭を使う仕事でも効率は落ちてしまいます。注意力が散漫になり、失敗や事故に繋がったり、上司や同僚の指示や助言が頭に入らなかったりといいことがありません。それどころか反応が鈍くなったり、不機嫌な表情や対応になってしまい反感を買うこともあります。また夜遅く寝ることで寝坊して無断での遅刻や欠席になることも増えます。そこから職場に連絡するのに不自然な言い訳を考えたり、そもそも職場に行くのが億劫になっていきます。そして睡眠時間が不規則になれば当然、食事の摂取にも影響を与えます。時間ギリギリに起きれば朝食抜きになりますし、それに慣れてしまえば朝食を食べなくなってしまい、栄養面でもバランスを崩していきます。身体面の健康は当然、心の健康にも影響を与えていくのです。
自己肯定感を高める
発達障害を持つ人がストレスを感じやすい理由の一つに自己肯定感が低いことが挙げられます。自己肯定感は人が自分に自信をもって意見を言ったり、人と交わるなど主体的に行動するための原動力となります。この自己肯定感は生まれてからまず母親を中心に幼少期に形成される愛着を基盤としています。母親、次いでは身近な家族からしっかりと愛情を受けて育てられることで(乳幼児の欲求を満たし行くことで)自己肯定感も育まれます。発達障害を持つ子どもの場合、家族はその特性を理解し受け入れていく必要がありますが、しかし社会が学校など家族以上に広がった時は、他者からの受け入れがなかなかうまくいかないことがあります。そもそも家庭内で自己肯定感を持てなかった場合もあれば、社会に出てから自己肯定感が低くなる場合もあります。そうなると非常に自分に自信が持てず、自分を責めるようになるため、消極的になり、周囲には理解できないぐらいのストレスを感じるようになります。自己肯定感を育てるには幼少のころからの周囲の理解が不可欠ですが、大人になった場合でも、周囲からの理解と受け入れを感じることができれば自己肯定感は高めることができます。専門医で心理療法やトレーニングを受けることでも自己肯定感を高めることができます。
二次障害について相談できる機関
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは発達障害者支援法に位置づけられる発達障害児・者への総合的な支援を行うための機関です。必置ではなく任意設置ではありますが、各都道府県、各政令指定都市に1カ所以上は設置されている状況です。主な支援内容としては、①発達障害児(者)及びその家族等に対する相談支援、②発達障害児(者)及びその家族等に対する発達支援、③発達障害児(者)に対する就労支援、④関係施設及び関係機関等に対する普及啓発及び研修を実施することがあります。発達障害児・者への特化した専門機関ですので、二次障害についても十分な知識と支援体制を持っています。無料で相談できる公的機関なので気軽に相談してみましょう。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは精神保健福祉及び精神障害者福祉に関する法律に位置づけられる精神障害者の相談支援機関です。都道府県と政令指定都市において必置の機関となっています。主な業務内容としては精神障害者に対する総合的な相談業務、精神障害者保健福祉手帳の等級判定、障害者総合支援法上の精神障害者に関する部分の支給認定の事務などがあります。相談業務においては発達障害の二次障害についても適切なアドバイスや支援を行い、必要であれば他の支援機関などを紹介してもらえます。
障害者就業・生活支援センター
障害者の就業や生活面など社会生活全般に関しての総合的な相談支援を行なう公的機関で全国に300カ所以上と地域に根付いた支援を行うための公的機関です。障害者の就業と生活両面での支援を行いますが、生活面の支援では、生活習慣の形成、健康管理、金銭管理等の日常生活の自己管理に関する助言をすることが挙げられていますので、発達障害者の二次障害についても適切な支援をしてもらうことができます。
就労移行支援・就労継続支援事業所
一般の事業所での就労を目的としていて条件に合う場合、就労に向けた様々な支援サービスを行う就労移行支援事業所でも発達障害者の二次障害についてもアドバイスや支援をしてくれます。同様に、就労継続支援事業所に通所する場合もその利用者に二次障害があれば必要なアドバイスや支援も行ないます。
まとめ
発達障害を持つ人、子どもの本当の生きにくさ、困り感というものは自分自身の障害というよりはその障害に対する社会の受け入れ、反応だと言えます。そう意味では日本社会は障害者を含めた少数派には生きにくい社会と言えます。ただ、経済発展のみに特化していた時代よりは国際社会の中で、共通した人権観というものも、国連の各種の権利条約などを受け入れながら、少しずつではありますが成熟しつつあります。その現状の中で、発達障害の二次障害に対して当事者がどのように対処、予防できるのか、どのような支援機関があるかご紹介させていただきました。簡単にまとめますと以下のとおりです。
・二次障害には内在化障害と外在化障害がある
・発達障害を持つ人はその特性からストレスにさらされやすく、二次障害になりやすい
・二次障害になった場合は自己判断をせず専門医を受診する
・特にうつ病などの精神疾患は治療に専念し、途中で治療をやめない
・二次障害の予防には生活リズムを整え、自己肯定感を高めるトレーニングなどを行う
・発達障害者支援センターなど二次障害の相談支援ができる機関や事業所がある
発達障害がある方はその二次障害の存在や対処、予防法を知っていただき、少しでも社会での生きにくさを軽減してもらえたらと願っています。