統合失調症と上手につきあうための働き方と環境選びのポイント
更新日:2022年03月31日
統合失調症はおよそ100人に1人が発症する決して珍しくない病気です。統合失調症の症状で幻覚、幻聴、意欲の低下、認知機能の低下に悩まされている人も少なくありません。しかし働くことで社会に参加することは、統合失調症で働きにくさを感じる人にとっても人生の生きがいや喜びに繋がります。症状に合わせた働き方や職場環境を選ぶことで働きやすくなります。本記事では働き方や職場環境を選ぶポイントをお伝えします。
目次
統合失調症の3つの症状
統合失調症には大きく分けて3タイプの症状があります。
■陽性症状
陽性症状は「あるはずのないものが現れる症状」です。例えば実際にはないものをあるように感じる「幻覚」や「幻聴」、さらには誰かが自分の悪口を言っていると考えてしまう「妄想」等の症状が特徴。それらの症状によって誰かに思考を読み取られてしまう、行動を操られてしまうと感じている人もいます。
■陰性症状
陰性症状は「感情表現が乏しくなったり、意欲が低下する症状」です。
例えば喜怒哀楽の表現が乏しくなり「他人に共感することが少なくなる」「何かに取り組む意欲が低下する」等の症状が特徴。
その結果として人とのコミュニケーションをとる機会が減ってしまい社会から少しずつ孤立していってしまう事例も少なくありません。
■認知機能障害
認知機能障害は「判断力・記憶力・理解力などの認知機能が低下する症状」です。
この症状によって自分の情報や思考をまとめることが難しくなります。
この症状によって日常の情報や刺激を取捨選択して必要なことに集中することが困難になります。
統合失調症は、およそ100人に1人が発症する病気です。
これらの症状が発症し悩んでいる人は決して少なくはありません。
統合失調症の人が働きづらさを感じる大きな3つの理由
統合失調症の症状の多くは仕事をするうえで働きづらさを感じてしまう原因になります。
働きづらくなってしまう統合失調症の方が悩む大きな3つの理由は以下の通りです。
1 疲れやすい
統合失調症の方の多くは体力を消耗しやすく疲れから遅刻、早退、欠勤等の勤怠の乱れがでるケースがあります。
思考や情報がまとめづらくなる症状から、普通に生活を送っているだけでも疲れてしまうからです。
統合失調症の人は緊張や不安を感じている人も多く疲れやすい傾向にあります。職場で周囲の人と同じ時間、同じ内容で働いたとしても体力的にも精神的にも辛いと感じる人もいるのではないでしょうか。
しかし職場で1人だけ働く時間や負担を軽くしてほしいと申し出るのも、統合失調症に対する理解がない職場では難しいケースも多いかもしれません。
2 頑張っていてもやる気がないと思われてしまう
統合失調症の「認知機能障害」では判断力・記憶力・理解力が低下してしまいます。
そのせいで仕事でミスが増えたり、覚えるまでに時間がかかってしまうケースも少なくありません。
情報の取捨選択やまとめることが苦手だと、統合失調症の当事者は仕事を頑張っていても周囲から「本当にやる気があるのか」と思われてしまいがち。
例えば常に的確な判断力が求められる接客業だと臨機応変な態度がなかなかできず同僚や上司から「本当にやる気があるのか」「手を抜いているのではないか」等と誤解を招きやすいようです。
そして職場で、なかなか思うような評価を得ることができず働き続けることも難しくなってしまいます。
3 周囲が気になりすぎて仕事に集中できなくなる
統合失調症の「陽性症状」では「幻覚」や「幻聴」さらには「妄想」など、あるはずのないものを感じてしまいます。
それによって周囲の視線や評価が気になったり監視されたり非難されているような感覚になり仕事に集中しづらくなってしまいます。
1「疲れやすい」2「やる気がないと思われやすいこと」「3周囲が気になりすぎて集中できなくなること」の3点が主な統合失調症の働きづらさの原因です。これらの働きづらさの原因は単独ではなく時には複合要因として表面化します。
これらの原因を緩和できる対策を立てることが統合失調症の人が働くポイントにもなります。
統合失調症の人が働きやすい環境と仕事選びのポイント
統合失調症の人が働きづらいと感じてしまう悩みは大きく分けて「疲れやすい」「やる気がないと思われやすいこと」「周囲が気になりすぎて集中できなくなること」の3点でした。
これらの悩みを解決できるような職場環境と仕事選びをすることで統合失調症の人の働きづらさも和らぎます。
■ 小さなステップで成功体験を積み重ねる
「認知機能障害」では判断力・記憶力・理解力が低下します。そして必要な情報の取捨選択が難しくなってしまいます。いきなり新しい仕事をまとめて引き受け、一度にこなすのは難しいのではないでしょうか。そこで小さなステップで少しずつ出来ることを増やしていける仕事をおすすめします。
例えばコツコツと取り組める入力業務やファイリング等の事務サポート、軽作業等です。小さなステップで少しずつ出来ることを増やしていけば職場の人からも頑張っている姿が伝わりやすくなります。
また少しずつ仕事を覚えれば、一度に入ってくる情報量も少なくて済みます。疲れやすさも軽減されるのではないでしょうか。
■ 短時間勤務も視野にいれる
疲れやすいことで悩んでいる統合失調症の人は体力に合わせて短時間勤務を視野にいれることもおすすめです。
無理に長時間働くことで体や心の調子が悪くなります。自分にとって無理のない時間だけ働く方がかえって短時間勤務でも長期間働ける機会につながるのではないでしょうか。
■ 仕事の習熟度と体調に合わせた仕事をする
判断力・記憶力・理解力が総合的に求められる難しい仕事もあります。
統合失調症の症状が軽い時は対応できる仕事も、体調が悪い時や症状が強くでている時には難しくなることがあります。
また仕事の習熟度によっても慣れた仕事はできても、慣れない仕事はうまくいかないこともありますよね。自分の状況に応じて仕事の負荷を調整しましょう。
■ 幻聴や妄想等の陽性症状がでる予兆を把握しておく
幻聴や妄想等の陽性症状は自分では気づきにくい症状です。
あらかじめ、陽性症状になりやすい状態を明確にしておきましょう。
例えば睡眠時間が減ってきた、薬を飲み忘れた、疲労感が強い、思考がまとまりづらい、不安や焦りを感じる時、等の陽性症状がでやすくなる条件を周囲の人に共有します。
そして、陽性症状がでた場合、服薬調整をしたり主治医の判断を仰ぐといった対応方法を決めておくと良いでしょう。
■ 質問や相談できる相手を職場の中で1人はあらかじめ決めておく
不安や焦り、緊張、恐怖等の感情を職場内で共有できるように、質問や相談できる相手を1人は予め決めておいてもらいましょう。
特定の担当者がいれば話しやすくなります。
■ 障害者就職も検討する
障害者就職ならば統合失調症の症状に配慮してくれた職場環境で働ける可能性も高まります。
■ 支援機関への相談
自分自身や職場の人同士の関係性の中で配慮してもらえれば良いのですが、それが難しい場合は支援機関への相談も検討してみましょう。
例えば全国保健所長会や精神保健福祉センター、統合失調症の家族会等で相談に乗ってもらうことで解決策が見つかるかもしれません。
■ 就労移行支援事業所
「就労移行支援事業所」は、一般企業などへの就労を目指す障害のある人に対して、働くために必要な知識と能力を高め、求職から就職までをサポートする施設です。具体的には、次のような支援を行います。
・就職に必要な知識と能力を身につけるための職業訓練
・履歴書など応募書類の添削や模擬面接など就職活動のサポート
・就職に関する支援や相談
・求職活動に関するサポート
・本人の適性に沿った就職先探しのアドバイス
・企業での職場実習などの機会を提供
・就職後に職場定着するための支援
就労移行支援は、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつで、原則24ヶ月(2年)利用できます。
まとめ
統合失調症は人によって症状の現れ方も重さも変わってきます。
しかし「疲れやすい」「頑張ってもやる気がないと思われてしまう」「周囲が気になりすぎて集中できなくなる」という3つの統合失調症の人が仕事で悩む原因を和らげることもできます。
例えば小さなステップで出来る仕事、短時間勤務も視野にいれる、仕事の習熟度や体調に合わせた仕事をする、幻聴や妄想等の陽性症状がでる予兆を把握しておく、質問や相談できる相手を職場の中で1人はあらかじめ決めておく、障害者就職や支援機関への相談もしておく等の対策をとることで統合失調症の人も働きやすくなります。
働くことで社会に参加することは、統合失調症で働きにくさを感じる人にとっても人生の生きがいや喜びに繋がります。
だからこそ働きやすい職種や環境を選べるようにしましょう。