障害者でもキャリアアップできる?障害者のキャリア形成やキャリアアップの方法について
更新日:2022年07月05日
今回は障害者のキャリアアップがテーマです。「キャリア」や「キャリアアップ」はよく使う言葉ではありますが、英語の”career”という言葉がそのままカタカタになったものです。一般的には、仕事、職業、経歴などという意味で使われます。また日本では「キャリア組」など、エリート公務員みたいな意味でも使ったりします。キャリアアップというのは、その仕事における技術や能力を高めることによってよりよい職位・地位や給料を得ることと言えます。仕事をするからには誰でもキャリアップは考えると思いますが、黙っていてもキャリアアップできるわけではなく、計画的な自己研鑽や自己投資などが必要です。では、障害者のキャリアアップはどうでしょうか?障害者が従事する仕事についてはどこか単純作業、軽作業が多いイメージですが、実際の障害者のキャリア形成、キャリアアップの現状や方法についてご紹介していきます。
目次
障害者の企業でのキャリアアップの実態
キャリアアップに関心がある率は高い
働くことに対してみなさんはどういう目的、価値観をお持ちでしょうか。障害がある、なし関係なく、なんとなく働いている人、いやいや働いている人、お金を稼ぎたい人、純粋に仕事をしたい人など、様々だと思います。当然、キャリアアップを通してよりよい職位や給料、あるいはより達成感のある仕事をしたいという人もいるのではないでしょうか。しかし、実際のところどれぐらいの障害者の方がキャリアアップについて考えているのか、気になるところだと思います。ゼネラルパートナーズの障がい者総合研究所から400人以上の障害者を対象にアンケート調査した「障がい者のキャリアアップに関する調査 Report」(2016)という調査研究が出ていますので参照してみましょう。
「キャリアアップをすることに関心がありますか?」
「とてもある」と「まあまあある」を合わせてキャリアアップに関心がある障害者の率は80%でした。当然の結果といえばそのとおりで、多くの障害者はキャリアアップに関心があるのです。
障害者の雇用では十分にキャリアアップが実現できていない
では、次に障害者雇用枠で働く障害者の労働の実態を見てみましょう。
「現職または前職での雇用形態を教えてください」
まずは雇用形態ですが、「正社員」は26%、全体の約1/4、「契約社員または嘱託社員」は45%で半数以下、パート、アルバイトが約1/4となっていて、そもそも解答した障害者の約7割がキャリアアップする、しないという話になりにくい正社員以外の雇用形態であることがわかりました。これが日本全体での雇用の現状とどれくらい格差があるのかといいますと、厚生労働省が刊行する「平成29年版 厚生労働白書」を参照してみますと、2016年の雇用形態は正規雇用者率は62.5%、非正規雇用者率は37.5%となっていますので、障害者の雇用形態とはほぼ逆の割合となっています。
「現職または前職での役職を教えてください」
続いて障害者雇用枠で働く障害者の役職についての回答ですが、回答者のうち92%が役職のない、いわゆる一般社員でした。「対象者の年齢にもよるのでは?」という疑問もあるかと思いますが、年齢別に見ても20代100%、30代97%、40代97%、50代で83%が一般社員という結果が出ています。また、障害別では身体障害者の91%、精神障害者では実に98%が一般社員でした。
この統計からわかることは、まず正社員率が回答者全体のうち26%という雇用形態の現実です。業種によってはアルバイトや非正規雇用からの正規雇用もありますが、その時点で最初から正規雇用されるよりキャリアアップには遠回りと言えます。国内全体での統計と大きな差があることから、障害特性から長時間労働の困難な方も多いのですが、正規雇用率の低さはキャリアアップの可能性を大きく阻害していると言えます。
障害者のキャリアアップを阻む問題
体調や障害を考慮すると諦めざるを得ない
上記のように、現状では多くの雇用者である障害者の多くがキャリアアップについて関心があるのにも関わらず、キャリアアップしにくい非正規雇用が多かったり、正規雇用されていても役職についている障害者は1割にも満たないことがわかりました。では、働いている障害者の20%ほどのキャリアアップに関心がない人たちはどういう理由で興味がないのかについての同調査での主な回答は次のとおりでした。
「キャリアアップに関心が「ない」方は、その理由に最も近いものを教えてください」(自由回答)
・あまり無理をしたくないため
・責任が重くなることに不安を感じるため
・仕事よりもプライベートを重視したいため
上位の回答の下二つはどれも障害がない人でも上位に来るもので、障害があってもなくても、仕事やキャリアアップへの考え方は人それぞれだということがわかります。キャリアアップして仕事が忙しくなったりするよりも、慣れた職場、仕事内容で責任もなく、プライベートの時間が充実しているほうがよいという人も周囲にたくさんいるのではないでしょうか。しかし、「あまり無理をしたくないため」という回答は障害者特有の回答です。障害特性などにより、心身への負担が大きいため「無理をしたくない」ということでしょう。正社員になること自体を控えている、または現状では仕方がないと諦めている障害者も多いのではないでしょうか。
「障害者への配慮」が妨げになっている可能性
次に同調査では、対象者に対してキャリアアップをするために必要だと思うことについて優先順位を問うています。
「ご自身の今後のキャリアを考える上で、最も優先順位が高いものはどれですか?」
・仕事の幅が広がること 66%
・仕事の難度が高まること 11%
・昇進・昇格すること 23%
この結果を見ると、過半数の回答が「仕事の幅が広がること」となっていて、「昇進・昇格すること」よりも重視されています。それは多くの障害者が職場で仕事の幅が広がらないような働き方をしていると察することができます。様々な仕事ができることが会社や自分にとってプラスとなるといった記述回答も多く、キャリアアップを考えている障害者にとって仕事内容が障害者向けに単純作業・軽作業に限定されるなどの配慮が妨げになっていると感じているようです。
会社側の意識や制度の改革が必要
障害者への配慮が必要だというから障害者雇用枠で求人を出している、もしくは法律(障害者雇用促進法)の雇用率達成のために雇用枠を創出しているのに、配慮をしたら今度は配慮が妨げになると言われたらどうしたらよいのか?と会社側は困惑しそうです。
キャリアアップを考える障害者もいるのは当然のことと考えなくてはいけません。”配慮”の捉え方の問題なのですが、まず合理的配慮は障害者の権利であって、”特別扱い”ではありません。障害がない人と同等の権利を保障されている人間としてその尊厳が守られるべき存在なのです。基本的には、配慮も一度決めたらそのままでよいはずはなく、定期的に評価・見直しが必要なものと考えるべきです。何事も時間の経過や状況に応じて変えていくということは経営の原則でもあります。
障害者も当然日々の職務を行なう中で、環境や仕事に適応していき、それによりニーズや必要な配慮も変わっていくでしょう。障害がある、という以外は障害がない社員と同じであるという意識、そして必要であれば障害者の雇用や人事に関する社内の制度の改革も考えてみる必要があります。
障害者がキャリア形成・キャリアアップするためにできること
次に一般的なキャリア形成やキャリアアップのためにできることを障害がある場合を加味してご紹介します。
キャリアアップのステップ①キャリアデザイン
キャリアデザインと言えば専門用語っぽくてかっこいい感じがしますが、逆になにか難しいことのように思われてしまいます。しかし実際はキャリアデザインとは自分がどんな仕事をしたいのか、何ができるのか、将来的にはどうなりたいのかなどについて絵を描く(構想する)ことです。学生の就職活動もそうですが、いざ就活をしようとするときに事前にキャリアデザインができていないと業種や職種が絞れないなど、まとまりのない就活となり、最終的に入社した会社も自分の思うものではなかった、なんて結果にもなり得ます。
キャリアデザインといっても難しく考えることはありません。ただし、正確な自己分析・自己覚知ができるに越したことはありませんので、自分の長所・短所、活かせる特技、経験、当然、障害がある場合その障害特性や仕事への影響などを自分がやりたい仕事と照らし合わせてみることから始めてみましょう。自分の現在の状況がその仕事に合わないからといって諦める必要はなく、逆にその仕事をするためには自分はこれからどうしていけばよいかを考えればよいでしょう。早めに意識することによって、例えば、資格が必要であれば資格を取得する、障害があってできないことなどは訓練を受ける、性格的な短所も意識すれば直していけるのです。
キャリアアップに向けたステップ②キャリアプランニング
キャリアプランニングとは、これから働こうとするときに前述のキャリアデザインに従って一つの職業を選定し、今後その一つの職業についておおまかにキャリアアップするためのプラン(行動計画)を文章、図表化することを言います。いつまでにその仕事でどのようになることを目標とするのか考えて書いてみましょう。
キャリアプランを作成することにはメリットがあります。キャリアプランを作ることで、自分が仕事でキャリアップするために何をいつぐらいにすべきなのかについて自然と考えることができます。例えばその仕事に必要なスキルや資格などもどうしたら獲得・取得できるのか知らなければ当然、調べることになるからです。プランを立てることでどんどんその仕事に対する知識が増えていきます。また、できたプランを目に入りやすいところに掲示したりすることで、常に目標意識をもって仕事に臨めるようになり、少しの問題やトラブルにも忍耐力を持って対応できるといった違いも出てきます。仕事でどうしたらよいかわからなくなった時、楽な方向に行きそうになった時、書いたキャリアプランを見て、再度目標に向かって自分をコントロールできるわけです。キャリアプランニングをするとしないとでは、仕事への意識がだいぶ変わりますので是非、挑戦してみてはいかがでしょうか。
「キャリアカウンセリング」や職場実習を試してみる
キャリアカウンセリングとは、公的な障害者就労支援機関や転職エージェントなどのスタッフが専門的な知識や豊富な経験を持って障害求職者に対して個々に合う職業などについて相談に乗りアドバイスをするサービスです。どうしても今までやったことのない仕事については自分だけで調べていても限界があるものです。自分で作成したキャリアプランを持って行って提示してみてもよいでしょう。仕事に対してそれだけ真剣であることが伝われば、熱心なサポートをしてもらえるでしょう。
また、自分でキャリアプランを立てていなくても、支援サービスの一つとしてキャリアプランニングをすることもあります。専門家である第三者に客観的な意見を聞くことはキャリアアップを視野に入れている場合、非常に有効です。また、支援機関等をとおした就職活動では、職場実習が可能なケースがあります。想像や人に聞いただけではわからないことがわかるのが実習です。実習をすることでその職業やその職場の見えなかったよいところや悪いところが見えます。そうすることによってより一層具体的なキャリアプランを描くことができるようになるのです。
「キャリアパス」のある仕事を探して経験を積む
キャリアパスとはその仕事で給与や役職などを上げるために何をどの程度できれば、または経験すればよいのかを明確にしたものです。そのキャリアアップへの道筋を社員にもわかりやすくすることで、仕事に対するモチベーションを上げることにも寄与します。就職する側の障害者がキャリアアップについていくら真剣に考えていても、せっかく就職してもその会社にキャリアパス制度がないのであれば意味がありません。また同じ条件で同じ仕事するのであれば障害のない社員にはキャリアパスがあり、障害がある社員にはキャリアパスがないということはあってはなりません。どのようなキャリアパスがあるのか?ということは事前に確認しておくべき重要な点と言えます。
具体的なキャリアアップを目指すには支援機関を活用しよう
キャリアアップもそうですが、障害者の就労についてはよほど慣れて自信がある以外は障害者の就労を支援する機関の利用をお勧めします。これらの就労支援の機関では個々にあった職業や職種についてのカウンセリングや就職活動の始め方、活動に必要なスキルの訓練、就職後の様々な相談や会社へのアドバイスなども行なう頼もしい味方です。当然、キャリアアップの悩みなどの相談もできます。前述したキャリアカウンセリングを行なう専門的なスタッフもいて親身に話を聞いてくれますので気軽に利用したいところです。代表的な支援機関として公的な機関では、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所があります。障害者就業・生活支援センターは障害者の日常生活全般および就労についての支援を行う機関です。
また障害者の就労が活発になっている近年、注目されているのは障害者の就職・転職に特化した転職エージェントです。評価の高い転職エージェントは求人の取り扱いだけではなく、障害者の就労へのトータルサポートを行ないます。当然、クライエントである求人募集をしている企業がどんな人材を求めていて、どんな待遇をするのかなどを熟知していますので、その会社でキャリアアップできるのかなどについてもアドバイスできます。無料で利用できる機関ですのでキャリアアップを含めて自分に合う仕事を探す場合は積極的に転職エージェントを利用しましょう。
まとめ
障害者のキャリアアップの現状とキャリアアップを実現するためにお役に立つ情報、知識をご紹介しました。障害者のキャリアアップは現状の障害者雇用枠ではまだまだ厳しい状況であることがわかりました。しかし、障害者雇用が今までになく促進されているのも事実で、労働人口が減る中、人材確保のための雇用競争に勝つには企業のゴールは雇用することから安定した雇用、つまり離職者を減らすことにシフトしていくことは明らかです。障害者のキャリアアップを既定路線とする企業も増えていくことに期待しましょう。
キャリアアップには事前の計画や業界を知るリサーチなども必要となりますので、キャリアデザイン、キャリアプランニングは実際に行うことをお勧めします。そのうえで、キャリアアップを実際に目指したい方は就労の支援機関を最大限に活用するようにしてください。