障害者トライアル雇用とは?助成金やメリット・デメリットを解説
更新日:2024年11月22日
少子高齢化が進む近年、事業を支える人材を確保することは難しくなってきています。障害者の雇用に興味はあるけど実際、労働能力の面でも、他の労働者との相互理解の面でも今一つ踏み込めないという企業側と始めての職種、職場でいきなりの本採用は不安という障害を持つ方、その双方の不安を解消できるのが障害者トライアル雇用制度です。今回は障害者トライアル雇用制度の概要やメリット、デメリットなどをご紹介していきます。
目次
障害者トライアル雇用制度とは
障害者トライアル雇用制度はハローワークまたは民間の職業紹介事業者に紹介を受けた就職が困難とされる障害者を一定期間、本採用を前提として試験的に雇用する制度です。これにより就職を希望する障害者を原則3か月から最大6か月間試行雇用することで、その業務や職場への適性や能力を見極め、障害者側からすると仕事や職場に慣れて、安定した状態で本採用後の継続雇用のきっかけとしていただくことを目的とした制度です。
こちらの制度には障害者ではない一般向けのトライアル雇用もあり、区別するため、一般向けを一般トライアルコース、障害者向けのものを障害者トライアルコースと呼んでいます。
実際、高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によりますと、障害者トライアル雇用から継続雇用につながった人は86.1%(H28年)と高く、障害者トライアル雇用を利用した人とそうでない人の就職後の同じ職場での1年後の継続率をみると、障害者トライアル雇用を利用した人で約80%、そうでない人で約60%と、明確に差が出ています。
「障害者トライアル雇用」の対象者
次のいずれかの要件を満たし、障害者トライアル雇用を希望した方が対象となります。
① 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
|
上記の対象者を見てわかるように、この制度では①のようにどんな職業が自分に合っているか挑戦的に模索するような求職、②短期間での離職・転職を繰り返すケース、③長期に渡って離職が続いていて本人も諦めていたり、行き詰っているようなケース、そしてそもそも重度の障害や精神障害などの雇用につながりにくいケースなどを想定した制度なのです。
※④に該当される方は①~③の要件は制度利用の条件となりません
助成金の支給額(平成30年助成内容拡充 対応版)
対象となる障害者1人当たり、月額最大4万円(最長3か月間)が支給されます。障害者トライアル雇用求人を事前にハローワーク等に提出し、これらの紹介によって、対象者を原則3か月の有期雇用で雇い入れ、一定の要件を満たした場合、助成金を受けることができます。
2018年(H30年)の助成内容拡充によって、精神障害者を初めて雇用する場合、助成金は月額最大8万円(最長3か月間)と倍額になりました。ただし、助成金の支給対象期間は3か月となります。特に今回の助成拡充の対象が精神障害者であることは、身体障害者と並んで精神障害者数が多く、その割に、精神障害者に対する不理解のために雇用・継続雇用が難しいことを窺わせます。
障害者トライアル雇用制度の企業側のメリット
この障害者トライアル雇用制度を利用する企業側のメリットとしては、その労働者の適性を確認した上で継続雇用へ移行することができ、障害者雇用への不安を解消することができます。実際に間近でその障害者の作業の様子や人への対応が見られるというのは実習やインターンと同じ効果が期待できます。
このような本採用前の一定期間のトライアルは公的な制度がなくても企業側としては障害を持たない人の採用の場合でもしたいくらいですので、この制度の存在は非常に有り難いと言えるでしょう。いくら面接やその他の採用試験をしても、実際に就職してみないと見えない部分があり、後でトラブルになるといったことは障害者雇用に限らずよくあることだと思われます。なお、この制度の利用に当たっては、一定の条件下で助成金を受けることができます。
精神障害や発達障害のある方で、週20時間以上の勤務が難しい場合は、 週10~20時間から始め、最大12か月間かけて、トライアル雇用期間中に20時間以上の就業を目指す障害者短時間トライアル雇用制度もあります。
障害者トライアル雇用コースの求職者側から見たメリットは?
応募する障害者からすれば、とかく仕事が自分にできる内容なのかということはもちろん、その職場の同僚たちに自分に合った仕事内容か、働き続けやすい職場か、などを見極めてから就職できるため、 安定して、長く働き続けられる傾向があります。
また、就職前に、企業との間でお互いの理解を深めることができるため、 仕事に就くに当たっての不安を解消することができます。明日からいきなり新しい職場、新しい仕事となるよりは、職場への通勤や同僚の顔も知っているというのは仕事を継続する上で非常に重要なことです。
特に同じ状況を保持し新しい環境を好まない傾向にある自閉症などの障害を持つ人にはひと際このトライアルは有効と言えます。当然ながら、障害者への就労支援はこの制度だけでなく、総合的に行なわれるものですので、就職活動開始から、トライアル雇用中も、その後の継続雇用中も地域障害者職業センター(ジョブコーチ支援)、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などのサポートをトータルに受けられるので安心して働くことに集中できます。
「自分一人で障害者採用の就職・転職活動をするのが不安・・」
そんな方は、障害者専門の転職エージェントに一度相談してみることをおすすめします。
障害者トライアル雇用制度の企業側のデメリット
障害者トライアル雇用コースの求職者側から見たデメリット
障害者トライアル雇用の流れについて(企業側)
企業側が障害者トライアル雇用求人を申し込みたい場合、ハローワークに対して申し込みます。その求人に対して希望者がいた場合、企業側に紹介され選考面接となります。企業側と求職者が合意すれば障害者トライアル雇用が開始されます。
次に企業側はトライアル雇用実施計画書を作成します。実施計画書はトライアル雇用が開始されてから2週間以内にその雇用の対象者を紹介したハローワークに対して提出することになります。この実施計画はトライアル雇用を受けている対象者を継続雇用につなげるためのトライアル中の措置や継続雇用のための条件などを書いたもので、雇用契約書など労働条件が確認できる書類を添付する必要があります。
最後にトライアル雇用期間が終了したら、継続雇用に移行するかどうか判断し、継続しない場合は雇用期間満了となります。
障害者トライアル雇用の流れについて(求職者側)
まず障害者トライアル雇用求人はハローワーク、または民間の職業紹介事業者のどちらでも紹介してもらえます。ハローワークやこれらの事業所で障害者トライアル雇用求人の紹介を希望する場合は自らその旨を職員に告げてください。こちらから希望しない場合でも、話し合う中で適切だと判断されれば向こうからトライアル雇用の求人を提案されることもありえます。
次に求人の内容と障害者トライアル雇用制度について説明を受け、希望する意思がある場合、障害者トライアル雇用対象者確認票を記入し、ご自身がこの制度の対象となるかを確認します。
最後に「障害者トライアル雇用求人」に応募し、面接を受けます。採用の選考は書類選考ではなく面接であることが義務付けられています。採用が決まったら、約3~6か月間の有期雇用契約を締結します。トライアル雇用期間終了後、企業側と求職者の合意により、改めて継続雇用契約を締結します。もちろん、求職者側がトライアル雇用の結果に満足がいかなければ断ってもよいのです。
「自分一人で障害者採用の就職・転職活動をするのが不安・・」
そんな方は、障害者専門の転職エージェントに一度相談してみることをおすすめします。
障害者短時間トライアル雇用コースもある
障害者トライアル雇用コースとは別に、短時間であれば働ける障害者のためには、「障害者短時間トライアル雇用」を活用する手もあります。
こちらの障害者短時間トライアル雇用コースは精神障害者や発達障害者のみを対象としていて、初めは週20時間以上の就業時間での勤務が難しい方を雇用する場合、週10~20時間の勤務から開始し、職場への適応や体調に応じ、試行雇用期間中に週20時間以上を目指す「障害者短時間トライアル雇用」があり、制度の利用に当たっては助成金が支給されます。平成30年4月から、この助成金支給額も月額最大4万円(最長12か月間)に拡充されてます。「短時間雇用トライアル」の対象になるのは精神障害者と発達障害者のみという点に注意してください。
余談:
障害者を対象とした障害者トライアル雇用とは別にハローワークで扱う求人には 「トライアル雇用制度」(一般トライアルコース)というものもありますので、障害者トライアル雇用の問い合わせや相談には十分に注意が必要です。ここでは詳しく取り上げませんが、対象者が違いますので参考までにご紹介しておきます。
① 紹介日の前日から過去2年以内に、2回 以上離職や転職を繰り返している人
② 紹介日の前日時点で、離職している期間 が1年を超えている人
③ 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介 日の前日時点で、安定した職業に就いて いない期間が1年を超えている人
④ 紹介日時点で、ニートやフリーター等で 45歳未満の人
⑤ 紹介日時点で、就職の援助を行うに当 たって、特別な配慮を要する人 生活保護受給者、母子家庭の母等、 父子家庭の父、日雇労働者、季節労 働者、中国残留邦人等永住帰国者、 ホームレス、住居喪失不安定就労者、 生活困窮者)
企業にも求職者にもメリットがある障害者トライアル雇用制度
労働人口の減少により、一般成人男性以外の雇用促進は国が推進するところです。どの業界でも終身雇用の時代は去り、被雇用者の離職、退職に対する意識も変わってきています。そんな中、福祉関係の雇用はその施設での実習やアルバイト経験者に声を掛け採用する形態が多いようです。それはその方が雇用する側も就職する側も”お互いに知っている”という安心感があるからです。
また就職試験時に半日から数日の実習を課す事業所もあるなど、とにかく現在の求人採用は採用試験、面接だけでは見えない部分も多く相互に不安が大きいのです。そんな状況の中、公的な制度によって相互に不安を解消できる機会を設けられるとなればこれを活用しない手はないでしょう。
障害者トライアル雇用制度を含むメリットのある障害者雇用促進制度をうまく利用して、企業側は会社を支える人材を確保し、求職者である障害者は理解のある職場で楽しく継続できる仕事を見つけることにつなげていきたいところです。