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自閉症スペクトラム障害(ASD)の方が自立するための工夫とは?

更新日:2023年04月20日

障害のある方にとっての自立とは、なんでも自分でできることではありません。基本的な生活習慣を身につけ、基本的な収入を得ることです。そして何より大切なのは、困った時に相談できることです。 ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)など発達障害の方の、自立した生活を支援するためのさまざまな福祉サービスや支援機関があります。それらの支援を上手く活用することも大切ですが、一方で自分自身で工夫することも必要です。 本記事ではASDのある方が自立を目指すために必要なことや、日常生活や仕事での工夫、困ったときの相談先や支援機関などについて詳しく紹介します。
 

障害者にとっての「自立」とは

一般的な意味での「自立」とは、「他の援助や支配なしに自分の力だけで物事を行う」ことを指します。

 

一方で障害者分野では、厚生労働省の所管する社会保障審議会福祉部会が示した「自己決定に基づいて主体的な生活を営むこと、障害を持っていてもその能力を活用して社会活動に参加することの意味」として用いられています。

 

このように障害者や障害児が自立した生活が営めるように、必要な福祉サービスの給付や支援を定めた法律が平成18年に施行された「障害者自立支援法」です。「障害者自立支援法」は改正するかたちで「障害者総合支援法」となり平成25年に施行されました。

 

「障害者総合支援法」と「障害者自立支援法」の大きな違いは、「障害者総合支援法」には基本理念が明記されたことです。障害者総合支援法の基本理念は、要約すると次の通りです。

 

・全ての国民が障害の有無に関わらず個人として尊重される

・障害によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合える共生社会を実現する

・障害者・障害児が可能な限り身近な場所で必要な支援を受けられる

・社会参加の機会が確保される

・どこで誰と生活するかの選択の機会が確保され、他の人々との共生が妨げられない

・障害者・障害児が社会生活をする上での障壁となる事物や制度などの除去

 

参考:厚生労働省 社会保障審議会福祉部会「自立の概念等について」

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/dl/s0420-6b2.pdf

 

参考:法令検索e-GOV「障害者総合支援法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000123

 

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方が自立を目指すために

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方が自立を目指すためには、次の2つについて確認しておきましょう。

 

自分の障害の特性や症状を理解する

ASDの方は、生まれつき持っている特性があります。この特性は長所にも短所にもなります。自立を目指すには、まずASDの特性や症状について、正しく理解することが大切です。

 

ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性例

ASDの方は、コミュニケーションが苦手な傾向があります。そのため大人の場合には仕事上で必要なやりとりや、職場の人間関係などさまざま面で難しさを感じることがあります。

・相手の立場になって考えることが苦手

・言葉のニュアンスや表情から状況を読み取ることができない

・社交辞令や冗談が通じない

・一つの物事に興味や事柄に関心が限定されてこだわりが強い

 

困ったときの相談先や支援先を決める

上記のような特性から、ASDの方は、日常生活や仕事において困難やトラブルが発生することがあります。その結果として、職場などで孤立してしまうことが多く、それが原因でうつ病や対人恐怖症などの二次的な症状が発生することがあります。

 

日常生活や仕事で困ったことがある場合に、相談できる場所や支援を受けられる機関などを確認して決めておきましょう。各種相談センターや支援機関については、後ほど紹介します。

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方が自立を目指すときの工夫やポイント【日常生活編】

ASDの方は特有の特性のため、日常生活においても生きづらさを感じてストレスとなることがあります。ストレスを軽減するためには、次のような工夫をしてみるといいでしょう。

 

スケジュールなどの情報は「見える化」する

ASDの方は、「いつ」「どこで」「なにを」「どのように」するのか見通しが立たないと不安を感じる傾向にあります。

 

その日のスケジュールや内容を、スケジュールボードなどに記載して管理してみましょう。情報を文字やイラスト、色分けなどを使って見える化することで、混乱を防いで落ち着いて日常生活や仕事に取り組めるようになります。

 

持ち物の「場所」はあらかじめ決めておく

ASDの方は、視覚認識や空間認識、強いこだわりなどによって片付けが苦手な場合があります。このような問題に対しては、次のような工夫をしてみましょう。

 

・持ち物や大事なものなど、しまう場所を決めておく

・保管場所の一覧表を作って、目につくところに貼っておく

・物を増やさないように、定期的に整理する

・使ったら元の場所に戻す習慣をつける

・書類やメモはデータ化して保存する

 

騒がしい場所を避ける

ASDの方の中には、聴覚が過敏なことから騒がしい場所が苦手な人がいます。音の刺激が強く不安を感じる場合には、静かな場所に移動しましょう。また、耳栓やイヤーマフの着用も効果が期待できます。

 

ご近所づきあいは適度な距離を保つ

日常生活においては、ご近所づきあいや町内会など、人と接しなければならない機会は決して珍しくありません。ASDの方は、対人コミュニケーションが苦手です。「お構いなしに一方的に話してしまう」「冗談や皮肉、たとえ話が通じない」「曖昧や適当な表現ができない」などのことが起こり、相手に不快な思いをさせてしまうことがあります。

 

ASDの特性に理解のある方は多くはありません。ご近所づきあいは、天気など無難な話をしたり、気持ち良い挨拶を心がけるなどして、適度な距離を保つようにしましょう。

 

お店での買い物が苦手ならネット通販を利用する

対人関係が苦手なASDの方の中には、お店で買い物する際の店員さんとのやりとりが難しいと感じるケースがあります。また、強いこだわりのため、お店独自のルールに苦手意識を持つ人もいます。そのような場合には、インターネット通販を利用するのも日常生活における工夫のひとつです。

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方が自立を目指すときの工夫やポイント【仕事編】

ASDの方は、仕事をする上で困難を感じることもありますが、特性をうまくカバーするような工夫をすることで、活躍することも可能です。

 

仕事は具体的に指示してもらう

ASDの方は、「適当に」や「もう少し」「臨機応変に」「適宜」など、仕事でよく使われる幅がある表現を判断したり対応することが苦手です。「何時何分までに」や「資料を20部コピーして会議室に持ってきて」など、具体的に指示してもらえるように上司にお願いしましょう。

 

指示が理解できない時には、自分の判断や思い込みで業務を進めずに、確認を取ることが大切です。

 

口頭ではなく文書やメモで伝えてもらう

ASDの人は、聴覚からの情報処理が苦手なため、指示が聞き取れなかったり、聞き間違えたり、理解できない場合があります。口頭の指示よりも、文字や図、絵、写真などの視覚情報の方が、理解しやすいため、メモやメールなどで伝えてもらうようにお願いしてみましょう。

 

自分でできる工夫としては、「細かなことでも必ずメモを取る」「図やイラスト、フローチャートなどを使ったマニュアルを作る」などをすると良いでしょう。

 

やるべき仕事をすべて書き出す

ASDの方は、状況に合わせて仕事の段取りを組み立てたり、優先順位を決めることが得意ではありません。また、こだわりから自分の好きな仕事だけに集中してしまうこともあります。

 

このようなことに対する工夫としては、「やるべきことをすべて書き出したTODOリストを作って、仕事の順番をつける」「TODOリストを見えるところに貼る」などがあげられます。仕事の優先順位がつけられない時は、上司や周りの人につけてもらいましょう。

 

「報・連・相」のタイミングや内容、相手を決める

仕事をする上で報告、連絡、相談が上手くできないとトラブルになる可能性があります。ASDの方は対人コミュニケーションが苦手なため、報告、連絡、相談には次のような工夫が必要です。

 

■報告や連絡するタイミング

・「報・連・相」で相手に話しかけるタイミングがわからない場合には、「今、よろしいでしょうか」と確認する。

・上司と相談して、定期的に報告や連絡するタイミングを決めておく

 

■報告や連絡する内容

・何をどのように報告や連絡するのか、具体的に決めておく

・報告や連絡する前に、伝える内容を書き出して整理する

 

■相談する相手

・業務の内容によって、相談する相手をあらかじめ決めておく

 

ASDの特性は多様で、日常生活や仕事での困りごとも人それぞれです。しかし、自分の特性や苦手なことがわかれば、工夫することで困難を減らすことができます。

困ったときの相談先・支援機関

ASDの特性によって日常生活や仕事でつまずいたり、困難な状況になるなど、ストレス状態が続くと、「うつ病」や「パニック障害」「引きこもり」「対人恐怖症」など二次的な症状が発生することもあります。困った時には一人で抱え込まずに、専門の相談窓口や支援機関に相談しましょう。
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発達障害者支援センター

「発達障害者支援センター」は、ASDやADHD(注意欠如多動症)などの発達障害のある方とその家族が豊かな地域生活を送れるような支援を総合的に行う専門機関です。保健や医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携してさまざまな相談に応じていますが、センターによって詳しい事業内容は異なるので、地域のセンターに問い合わせしてみましょう。

 

地域障害者職業センター

「地域障害者職業センター」は、障害のある方に専門的な職業リハビリテーションを提供する施設で、全国47都道府県に設置されています。実施している支援には、職業評価・職業準備支援・職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業などがあります。

 

ハローワーク

「ハローワーク(公共職業安定所)」には、障害について専門的な知識を持つ職員や相談員がいて、障害のある方の就職活動の支援を行っています。障害者手帳も持っていない人も相談できます。

 

障害者就業・生活支援センター

「障害者就業・生活支援センター」は、ハローワークや地域障害者職業センターなどの関連機関と連携しながら、障害のある方の就業面と生活面を一体的に支援しています。

 

atGPについて

ASDのある方の仕事に関する相談先としては、他に就労移行支援事業所もあります。就労移行支援事業所とは、一般企業への就職を目指す障害者に対して、就職に必要なスキルや知識を身につけるためのサポートを行う通所型のサービスです。

 

就労移行支援サービスの「atGPショブトレ」は、発達障害コース・うつ病コース・統合失調症コース・聴覚障害コース・難病コースの5つの障害に特化したコース制で、自分の障害とうまく付き合いながら働き続けるためのスキルが身につきます。

 

まとめ

ASDのある方が自立を目指すために必要なことや、日常生活や仕事での工夫、困ったときの相談先や支援機関などについて解説しました。

 

ASDのある方が、自立を目指すためには、ASDの症状や特性を理解して、特性をカバーするような工夫をすることが大切です。ただし、日常生活や仕事でつまずいたり困った時には一人で抱え込まずに、専門の相談窓口や支援機関に相談するようにしましょう。

ライター:shigotolabo2

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