障害者雇用促進法とは?法律の目的や内容、具体的な措置、違反した際のペナルティ
更新日:2023年09月28日
現在の日本において、障害のある人の職業生活の自立と障害者雇用は大きな課題です。障害者の雇用に関しては、国は「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」を定めています。本記事では障害者雇用促進法の内容や具体的措置などについて詳しく解説します。
目次
障害者雇用促進法とは
「障害者雇用促進法」は、障害者の職業の安定を図ることを目的とした法律で、1960(昭和35)年に施行された「身体障害者雇用促進法」が基になっています。
1987(昭和62)年に、法律の対象となる障害者が拡大されたため、法律の名前が「身体障害者雇用」から「障害者雇用」に改称されました。その後、幾度かの法改正が行われていますが、直近では2019(令和元)年に改正され公布されています。
「障害者雇用促進法」の対象となる障害者の範囲は次の通りです。
身体障害者
身体障害者障害程度等級表の1級〜6級の障害がある人、または7級の障害を2つ以上重複している人。
このうち、1級または2級の障害がある人と3級の障害を2つ以上重複している人は重度身体障害者として、障害者雇用率や障害者雇用納付金の算定などの際に、1人を2人として計算します。
身体障害者であることの確認は、原則として「身体障害者手帳」の交付を受けているかで行います。
知的障害者
知的障害者判定機関(児童相談所や知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医または障害者職業センター)によって知的障害があると判定された人。
このうち知的障害者判定機関によって知的障害の程度が重いと判断された人は、重度知的障害者として、障害者雇用率や障害者雇用納付金の算定などの際に、1人を2人として計算します。
知的障害者であることの確認は、原則として都道府県知事が発行する療育手帳または知的障害者判定機関の判定書で行います。
精神障害者
精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人、または統合失調症、そううつ病、てんかんにかかっている人で、症状が安定していて就労可能な人。
なお、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人を雇用している時には、障害者雇用率に算定できます。
精神障害者であることの確認は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているかどうかの他、医師の診断書や意見書などによって行います。
発達障害者
発達障害者は、雇用義務の対象に含まれず、障害者雇用率の算定することもできません。しかし、他の障害が認定されて、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳の交付を受けた人は障害者雇用率に算定されます。
障害者雇用促進法における具体的な取り組み
障害者雇用促進法に定められた主な措置としては、事業主に対して「雇用義務制度」「差別禁止と合理的配慮の提供義務」「障害者職業生活相談員の専任」「障害者雇用に関する届け出」、障害者本人に対する措置には「職業リハビリテーションの実施」があります。
①雇用義務制度
②差別禁止と合理的配慮の提供義務
③障害者職業生活相談員の専任
④障害者雇用に関する届け出
⑤職業リハビリテーションの実施
雇用義務制度について
障害者雇用促進法で事業主に対する措置として定められている雇用義務制度は、「障害者雇用率制度」と「給付金・調整金制度」から構成されています。
障害者雇用率制度
障害者雇用率制度は、民間企業、国および地方公共団体、都道府県の教育委員会などの事業主に対して、常用労働者数に占める障害者の雇用割合を「法定雇用率」として定めて達成義務を課す制度です。雇用率は次の計算式で算出されます。
障害者雇用率=(対象となる障害者の常用労働者の数+失業している対象障害者の数)÷(常用労働者数+失業者数)
現在、法定雇用率は民間企業が2.3%、国や地方公共団体が2.6%、都道府県等の教育委員会が2.5%です。従業員を43.5人以上雇用している民間企業の事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。
また、2022年の障害者雇用促進法の改正により、今後2024年4月から民間企業の法定雇用率は2.5%、2026年7月からは2.7%に引き上げられることが決定しています。それに伴い、対象事業主の人数も引き下げられます。
法定雇用率の算定対象となる障害者の範囲は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を所有している人です。短時間労働者は、原則1人を0.5人としてカウント、重度身体障害者と重度知的障害者は、1人を2人としてカウントします。
障害者雇用納付金制度
障害者雇用給付金制度は、法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収して、法定雇用率を達成している企業に調整金や報奨金を支給する制度です。障害者の雇用に伴う企業の経済的負担を調整することを目的にしています。
法定雇用率未達成の常用雇用者100人超の企業から、不足分1人当たり月額5万円を徴収(常用雇用者100人未満の中小企業からは徴収しない)。法定雇用率を達成した企業へは、調整金として超過1人当たり月額2万9 千円が支給されます。
また、常用雇用者100以下の企業で、障害者を4%または6人のいずれか多い人数を超えて雇用した企業には、超過1人当たり月額2万3千円の報奨金が支給されます。
法定雇用率未達成の場合には、企業名が公表されることも
法定雇用率が未達成の企業は、上記のように納付金が徴収され、ハローワークから「障害者の雇入れに関する計画」の作成と提出が命令されることがあります。
「障害者雇入れ計画」の作成命令が発出される基準は、次のいずれかに該当する場合です。
①実雇用率が全国平均の実雇用率未満で、かつ不足数が5人以上の場合
②不足数が10人以上の場合
③雇用義務人数が3人から4人の企業で雇用障害者数が0人の場合
「障害者雇入れ計画」の作成命令が発出されると、発出後の1月1日から2年間の障害者雇入れ計画を作成します。計画に基づく障害者雇用が進まない場合には、9か月間の特別指導となり、それでも改善されなければ企業名が公表されます。
職業リハビリテーションの実施について
障害者雇用促進法に定められている具体的な措置の中で、障害者本人に対するものに職業リハビリテーションの実施があります。職業リハビリテーションでは、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターといった地域の就労支援機関によって障害者の職業生活の自立の支援が行われます。
ハローワーク
全国に544カ所設置されている公共職業安定所(ハローワーク)では、障害者の態様や特性、希望に応じた職業紹介、職業相談、職業指導、求人開拓などを行っています。
ハローワークには、障害者一人ひとりの障害や特性に応じた就労支援をするために、障害のある人のために障害への理解、障害者を雇用する上で必要な配慮、職業リハビリテーションに関する専門知識を持った「障害者専門支援員」や「職業相談員」などが配置されています。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、公共職業安定所(ハローワーク)と密接な連携をして、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスを提供している施設です。全国の各都道府県に設置されていて、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営しています。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とは、障害のある人の職業生活の自立を図るために、障害のある人の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な支援を行う施設です。令和4年4月現在では、全国338カ所に設置されています。
差別禁止と合理的配慮の義務
障害者雇用促進法では、「雇用分野での障害者差別の禁止」と「合理的配慮の提供義務」が定められています。
雇用分野での障害者差別の禁止
募集や採用、賃金、配置、昇進など雇用に関する全ての局面で、障害者であることを理由に排除したり、障害者に対して不利な条件をつけたり、障害のない人を優先することは、障害を理由とする差別に該当するため禁止されています。
雇用分野での合理的配慮の提供義務
合理的配慮とは、「募集時と採用時には障害のある人とない人との均等な機会を確保する」、「採用後は、障害のある人とない人の均等な待遇の確保、または障害のある人が能力を発揮する支障となっている事情を改善する」ことを言います。
なお、「雇用分野での障害者差別の禁止」と「合理的配慮の提供義務」の対象となる事業主の範囲は、規模や業種に関わらず全ての事業主です。対象となる障害者は、障害者手帳を持っている人に限らず、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害のため長期にわたって職業生活に制限を受けている人、または職業生活を営むことが著しく困難な人が対象です。