発達障害の方の仕事選び!強みを活かす方法と支援制度のご紹介
更新日:2024年05月13日
発達障害のある方が仕事をする上での課題となる出来事には障害特性が影響しています。障害特性により、仕事の遂行の妨げになる行動や思考パターンが発生しているのです。しかし一口に発達障害と言っても様々なものがあり、その障害特性も違い、また個人で出方も違います。発達障害があるとはいえ、仕事をするからには自分の障害と向き合い、自己分析をし、課題を明確にし対策を考える必要があります。今回は発達障害からADHDとASDを代表に課題と対策を整理していきます。
目次
発達障害とは?
まず最初に発達障害の概念についておさらいしたいと思います。
2004年に施行された「発達障害者支援法」を見ますと、第2条において発達障害の定義がなされています。
以下第2条を抜粋しますと、『この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。』となっており、この定義は世界保健機構(WHO)のICD10(国際疾病分類第10版)に基づいたものです。
また広汎性発達障害(PDD)とは上記の自閉症、アスペルガー症候群に、レット症候群、小児期崩壊性障害、その他の特定不能の広汎性発達障害の総称で、ややこしいことにアメリカ精神医学会のDSM-5(精神病の診断と統計マニュアル第5版)では広汎性発達障害という言葉はなくなり、自閉症スペクトラム障害に置き換えられており、広汎性発達障害と自閉症スペクトラム障害は同義になります。
注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、トゥレット症候群、吃音症は”広汎性”でない発達障害ということになります。
このように発達障害には多種多様なものが含まれ、その症状にも多様性があります。
最近では発達障害のわかりやすい説明として”発達の凸凹”というような説明もあり、程度の軽重はありますが、実は誰しもが発達障害の特性を持っているという話も聞きます。
これら発達障害の相談及び診断は児童の場合は小児神経科、児童精神科など、または児童相談所、成人の場合は発達障害外来のある病院で受けることができます。診断が下りれば対応した福祉サービス等の対象となります。
発達障害の特性には自身で対策を身に付けることも大切
上記のような雇用制度の改変を上手に利用するには、発達障害の特性には、自身で対策を身に付けることも重要です。
発達障害の特性の中には、適切な対策を身に付けることで、就業時の問題を軽減できるものもたくさんあります。
ぜひご自身の充実した労働、ひいては幸せな生活のためにも、様々な対策を試してみてください。
以下では、代表的な発達障害であるADHDとASDについて、その特性と対策を列挙します。
ADHD・ASDの仕事上での特徴
ADHDとASDの方は、障害の特性上、仕事をするうえで下記の傾向が見られます。
ADHD
・集中しづらくミスが出る傾向もあれば、集中し過ぎてしまい休憩を取らずに体力以上に活動してしまうこともある
・発言や行動を思いついたら、周囲の状況を考える前に実行してしまい、周囲に誤解を与えてしまう
など、不注意・多動性・衝動性の障害を抱えるため、性格的に雑でミスが多い、落ち着きがないと思われがちです。
ASD
・空気を読む、雰囲気を感じることが苦手
・建前や冗談が通じず、言葉どおりに受け取ってしまう
・曖昧な表現や、相手の感情など目に見えない物を察することが苦手
など、社会性・コミュニケーション力や想像力に障害を抱えるため、仕事に対し協力的でない、真面目にやってないと思われがちです。
ADHDもASDも生まれつき脳機能の発達の偏りがある障害です。障害によってさまざまな生きづらさを感じる一方で、個性や得意なことももちろんあります。自己理解を通して強みと弱みを知ることで、自分の特性が活かせる職場や環境を見つけやすくなります。
ADHDの代表的な特性と仕事をする際の困りごと
ADHDは注意欠陥多動性障害を略したものです。
主に、多動性・不注意・衝動性という3つの傾向が指摘されています。
なかには感覚過敏や、傷つきやすさ、など見た目からは分かりづらい、特性で苦しんでいる方も多く、理解を得づらい傾向があります。
ミスが多い
ADHDの不注意に付随する特性です。
ミスの出方は人によります。「文章を読み飛ばしてしまう」、「文字入力の際に、打ち間違えがなくならない」、「何回チェックしてもミスに気付けない」などです。自身の努力では、どうにもならないことが多いです。
ただし「ミスは努力不足」と捉えられる場合も多く、周囲からの誤解を受けやすい特性でもあります。
気が散りやすい
ADHDの不注意・衝動性に関連する特性です。
周囲の音・匂い・視覚情報など、様々な刺激に反応してしまい、作業に集中できないということが起こります。
この特性も人によって出方は様々で、「音だけが気になる」、「目の前を通られると集中できなくなる」、「人がいると集中できない」など個々でその集中できない要因が違ってます。
作業を順序立てて行うことが苦手
ADHDの衝動性に関連する特性です。
自身の興味や、周囲の刺激に影響されて、目の前の作業をこなすことに盲目的に集中してしまいます。
結果的に、様々な作業が中途半端になってしまい、成果を十分に得られず困ってしまうということになりかねません。
また中には、作業を系統だてて考えることが苦手な方もいらっしゃいます。
不用意な発言・行動をしてしまう
ADHDの衝動性に関連する特性です。
衝動的に発言・行動をしてしまい、周囲を傷つけたり、誤解を招いたりすることがあります。
ADHDの代表的な特性への対策
ミスが多い → チェックリストを活用する
ミスの傾向は、絞られてくる場合が多いです。
ご自身の作業内容や傾向から、ミスが発生しやすいポイントを洗い出し、チェックリストにしてみましょう。
そしてミスの確認をする際に、そのチェックリストに沿って、見ていくとミスに気付ける割合が高くなるはずです。
気が散りやすい → 耳栓・ブラインド等で刺激を制限する
気が散りやすいことの原因は、周囲の刺激にある場合が多いです。
そこで刺激を減らすことで、気が散る場面を減らすことが出来ます。音声情報で気が散りやすい方は耳栓を、視覚情報で気が散りやすい方は机を囲うブラインドなどを使用してみて下さい。
刺激を制限することで、気が散る頻度が減るはずです。
作業を順序立てて行うことが苦手 → タスクリストを作り、目に見えるところに置く
衝動的に作業に飛びついてしまうことが原因の特性です。
そこで衝動的に作業を始めても、本来の作業に戻れるよう、目に見える場所にタスク(やること)リストを置いてみてください。
自然と、タスクリストが目に付くようになるはずです。
またタスクリストを作成すること自体が「作業を系統だてて考えることが苦手」という特性への対策になるはずです。
不用意な発言・行動をしてしまう →第三者の指摘と自覚が必要
ADHDの「空気が読めない」とも言われる部分で人との関わりの中で一番重要で対策が必要な特性です。
これは心理学で言う行動療法というセラピー、簡単に言えば訓練が必要です。
出来れば第三者や知人、適当な相手がいなければ家族でも構いませんので「今の発言や行動の何がどういけなかったのか」、「相手がどう思うのか」を親身に指摘してくれる存在が必要です。
それを繰り返すことにより、自分の突発的な「不用意な発言・行動」を自覚しコントールできるようになるでしょう。
できれば就職前から取り組めるのがベターです。
ADHDの方が活躍している仕事の例
ADHDの方は先述の通り、多動性・不注意・衝動性などの特性がありますが、下記のような強みになりえる特性も持っています。
・行動力があり、判断のスピードが速い
・枠に捉われず発想できる
・興味のあることはとことん追求する
これらの強みを活かすには、興味関心があることに没頭できる仕事や想像力を生かせる仕事、及び専門的な知識・技術を必要とする仕事が向いていると思われます。
・企画職 ・営業職 ・販売職 ・サービス職 ・研究者 ・エンジニアやプログラマー ・クリエイター・クリエイティブ職 など |
一方で、マルチタスクやミスのない完璧な作業が求められるような仕事は向いていません。
仕事選びの際には参考にしてみてください。
ASDの代表的な特性と仕事をする際の困りごと
ASDはアスペルガー症候群や、診断基準によっては自閉症スペクトラムとも言われます。
概ねは、「社会性(人間関係)の苦手さ」「コミュニケーション(会話等)の苦手さ」「想像力(予想・イメージ)の苦手さ」と3つの大枠で理解される点が共通しています。
指示の意図をくみ取れない
社会性・コミュニケーションの苦手さが影響した特性です。
上長や同僚からの指示の、意図・目的・背景をくみ取ることが出来ず、ミスや間違いにつながります。
指示の言外の情報を掴めないことが原因であることが多いです。
例えば、会社内では暗黙のルールになっていることを把握できていないことや、相手の表情等から感情を読めないことなどが影響します。
また中には、言葉を独特の理解をしていることが影響しているケースもあります。
見通しを持つことが苦手
想像力の苦手さが影響した特性です。
作業・業務の先を想像することが出来ず、見通しを持つことが難しくなります。
結果的に、同じミスを繰り返してしまうことや、不必要な作業に時間を掛けてしまう、納期を守れないことなどが発生します。
過集中になりやすい
ASDに限らない特性ですが、集中しすぎて自身や周囲の状況に気付けなくなる、ということが発生します。
会社では、作業に没頭して、休憩とることを忘れる。結果的に体調に悪影響を及ぼすことにつながることがあります。
あるいは、「周囲から話しかけられても気が付かない」、「挨拶を返すことが出来ない」といった場合もあります。
周囲からは「無視された」と受け取られることがあり、人間関係に悪影響を及ぼす場合があります。
ASDの代表的な特性への対策
指示の意図をくみ取れない → 指示の復唱確認をする
指示の意図をくみ取れないという特性を変えることは出来ません。
そこで正しく理解できるまで、確認することが有効になります。
特に、指示を受けた段階で、自分なりに指示の内容を繰り返すことが効果的です。
指示を繰り返すことで、自ずと勘違いしている部分が明らかになり、相手に修正してもらえるようになります。
見通しを持つことが苦手 → 見通しを持てるよう質問する
見通しを持つことが特性的に難しい場合は、周囲の力を借りましょう。
指示をくれた上司や、業務の経験がある先輩などに、「この業務の先は、どうなりますか?」「全体像は、どうなっていますか?」などと質問をすることで、業務の見通しが、見えてくる場合が多いです。
過集中になりやすい → タイマーで休憩時間を設定する
過集中は、自身で気づくことが難しいかもしれません。
そこで手のひらサイズのタイマーを活用し、休憩が必要な時間を知らせることが効果的です。
この手段を使うと、休憩を忘れることが少なくなり、疲れが溜まりすぎることが少なくなるはずです。
ASDの方が活躍している仕事の例
ASDの方は先述の通り、社会性・コミュニケーション・想像力の苦手さなどの特性がありますが、下記のような強みになりえる特性も持っています。
・集中力が高い、持続できる
・論理的な思考が得意
・几帳面さを備えている
・視覚情報に強い
これらの強みを活かすには、コミュニケーションが少なく、こだわりの強さを活かせる仕事や論理的思考と視覚情報が重要な仕事が向いていると思われます。
・アート、創作 ・ICT・機械系などの技術系専門職 ・研究職 ・データ入力 ・経理、財務 ・校正者 ・繰り返し作業 ・工場ライン作業 ・清掃 など |
一方で、人との密なコミュニケーションや臨機応変な対応が必要となる仕事やチームでの作業が必要となる仕事などが向いていません。
仕事選びの際には参考にしてみてください。
自分でも対処法を見つけられる対処ツールのご紹介
ここまで発達障害の特性と、対策を紹介してきました。
しかし実際にご自身の特性や対策に気付くことが難しい場合があると思います。
そんな時は、「特性リスト」などを活用してみることがおススメです。
「特性リスト」
出典:障がい者のライフスタイルメディア MEDIA116 『障がい理解に渡したい!就転職のお役立ちツール・発達障がいの「特性リスト」を使ってみよう」』
こちらは「特性」、「対処」、「配慮」の三つの項目から出来ている「特性リスト」です。
「特性」は自分の理解している障害特性を記入します。
何も発達障害に限る必要はなく、重複障害がある場合はそれも含めて記入しましょう。
自分の特性を見つめ直す機会にもなります。
「対処」は自分なりのその特性に対する対処法を記入します。
「配慮」は採用する企業側にどのような配慮をして欲しいのかを記入します。
この「特性リスト」は履歴書や職務経歴書と同じように必要書類と同封、または持参すればよいでしょう。
自分の特性をよく理解していることと、就職活動に意欲的であることを同時に企業側に伝える素晴らしいツールです。
発達障害の支援を受けるには
さらに発達障害について、より詳しく話を聞いてみたい、あるいは支援を受けたいという方もいらっしゃるかと思います。
代表的な支援機関を列挙します。
地域によって名称や事業内容に違いがありますので、詳細は各地域の役所や各センター、事業所へ直接問い合わせてください。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは都道府県、指定都市が設置運営、もしくは社会福祉法人などに委託運営する、発達障害児(者)への総合的な支援をするため本人や保護者に対する相談と指導を行う機関です。
保健、医療、福祉、教育、労働など各専門機関、施設などと連携し様々な相談に対応します。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは障害者の就業とそれに伴う日常生活に関する相談や職場、家庭訪問を行います。
具体的には本人への就業に関する相談支援、障害者を雇用する事業所への助言、生活習慣、健康管理、金銭の管理、年金、住居、余暇活動などの日常生活、地域生活などの相談支援を行います。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は障害者総合支援法の65歳以下の就労を希望する障害者で、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる人へ、就労に必要な知識や技術の習得や職場体験、職場の開拓、就職後の職場定着に必要な相談支援等を行います。
発達障害の認知が広がっている
まだまだ十分とは言えませんが、一昔前に比べると、発達障害の認知は格段に広がっています。
この認知の広がりは「発達障害者支援法」の制定前後から始まり、最近、テレビの番組で取り上げられたり、インターネットでの情報の劇的な増加は日本の「障害者権利条約」批准への流れが推し進めたと言ってもよいでしょう。
少なくとも”ちょっと変わった子”とか、”不器用な子”と言ったレッテルを貼られることは昔よりは確実に減っています。
背景には、保育所や児童館などの児童福祉関係者や学校教育関係者の発達障害への認知及び専門機関との連携や本人と保護者への適切な対応が進んだことが影響しています。
就学前や小学校で障害を持つ友達への正しい対応を学んだ子供たちは実に包容力溢れるフレンドリーな接し方が出来ます。
大人の社会はまだまだこれからなのです。
発達障害を持ちながら働く人も増えている
このように少しずつではありますが、日本社会においても発達障害に対する認知は広がりつつあり、雇用の面でも2013年の「障害者雇用促進法」の改正で精神障害者も範囲に含まれることになり、かっこ書きではありますが発達障害者にも適用されます。一歩前進と言ったところでしょうか。
これも発達障害への正しい認知の広がりの影響か、今までのように児童期に診断を受けた人、プラス、新たに成人してから診断を受け制度を利用して就職・再就職の活動をする人も増えているのです。
今回の同法の改正では雇用対象者を広げただけではなく、”障害者に対する差別禁止”と”合理的な配慮”をするよう求めていますので、今までよりも働く環境はよくなると見込まれます。
発達障害の配慮について
発達障害は、個別性が高いため、配慮も多岐にわたります。
会社によっては、発達障害に関する知識や雇用経験が少ない場合もあり、十分に配慮や理解を受けられないケースもあります。
しかし、前述しましたとおり、改正障害者雇用促進法では事業主はもちろんのこと、他の従業員に障害者の人権や特性などの障害に関する教育や雇用への理解を求めるなども「差別禁止の指針」に含まれています。
また”合理的配慮”には具体的にその人の障害にあった配慮ということで、障害を持つ人が採用試験を受ける際、試験問題を理解しやすいように音読する、解答時間を延長するなどがあります。
労働場面では、発達障害を持つ人に対して口頭だけではなく、視覚的な資料やマニュアルを使って指導する、障害を持つ従業員のために相談員を配置するなどが含まれていますので、就職する側もしっかり自分の障害特性と必要な配慮を伝えられるようにしておかなければなりません。
ライター:atGPジョブトレ
全国的にも珍しい障害特化型、ジョブ特化型就労移行支援事業所を運営しています。各障害に特化するからこそ効果のある就労支援プログラム、業種に特化するからこそ身につく実力。これまでに培ったノウハウから就職に役立つ選りすぐりの情報を日々発信して行きます。