精神障害者の雇用で定着率をあげるには?対策と助成金について解説
更新日:2024年11月29日
法定雇用率の対象に精神障害者も加えられたことで、精神障害者の雇用や採用は年々増加していると言われています。人事担当者の方は、どのようなポイントで採用選考し、精神障害者が職場に定着して働けるにはどのような準備をしたらよいのか不安に感じているのではないでしょうか。この記事では精神障害者の雇用や職場定着のポイントについて解説します。
目次
精神障害者の雇用・採用の状況
「障害者雇用促進法」では、すべての事業者に法定雇用率以上の割合で障害者を雇用することを義務付けています。平成30年4月1日からは、これまでの身体障害者、知的障害者に加えて精神障害者も雇用義務の対象に加えられたこともあって、精神障害者の雇用や採用は増えてきています。
精神障害者の雇用・採用は年々活発化している
厚生労働省が発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の数は、642,178.0人で前年より28,220.0人増加(前年比4.6%増)と、20年連続で過去最高を更新しています。
そのうち身体障害者は360,157.5人(前年比0.7%増)、知的障害者は151,722.5人(前年比3.6%増)、精神障害者は、130,298.0人増加(前年比18.7%増)となっていて、特に精神障害者の雇用が増えています。
障害者の法定雇用率の引き上げ
障害者雇用を更に促進するため、厚生労働省は、企業に義務付けられている障害者の法定雇用率を2026年(令和8年)に向けて段階的に引き上げる方針を発表しています。
民間企業の法定雇用率は、令和5年度の2.3%から、令和6年4月に2.5%、令和8年7月に2.7%と段階的に引き上げられます。
対象事業主の範囲も、令和5年度の従業員43.5人以上の企業から、令和6年4月から従業員40人以上の企業、令和8年7月から従業員37.5人以上の企業に対象範囲が拡大されます。
今回の改正によって、新たに障害者の雇用義務が生じた企業は、特に注意が必要です。障害者雇用における障害者の算定方法なども変更があるので、下記をご参照ください。
参考:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
定着率に課題がある
精神障害者の雇用や採用が増えている一方で、定着率に課題があると言われています。厚生労働省が発表した「障害者雇用の促進についての関係資料」によると、障害者の平均勤続年数は、平成30年で身体障害者が10年2か月、知的障害者が7年5か月、精神障害者が3年2か月、発達障害者が3年4か月でした。精神障害者については、近年雇用される人が増えていることもありますが、勤続年数が短い傾向にあります。
定着率を調べたデータにおいても、就職から1年後の職場定着率は、身体障害者が60.8%、知的障害者が68.0%、発達障害者が71.5%に対して、精神障害者は49.3%で1年後には半分の人が離職しています。このように精神障害者の雇用には定着に課題があります。
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精神障害者雇用で定着率をあげる選定ポイント
精神障害者の方を採用する際には、どのように評価したらよいのでしょうか。選考で見るべきポイントは次の4つです。
自分の障害をよく理解しているか
企業が精神障害のある方に求めるものとしては、職業能力に加えて、安定して働くことができるかどうかが重要となります。精神障害のある方が安定して働くためには、自分の障害について理解した上で、肯定的に受け入れて行動できる能力や態度を持っていることが必要です。
自分の障害を理解し、受容できているか
うつ病や不安障害、気分障害をネガティブな感情や思考に陥りがちです。そのような状態になると、精神症状だけでなく、不眠や食欲不振などさまざまな身体症状も現れるため、働くことは困難になります。手帳を持つ精神障害者でも、心身の状態が安定している人のほうが継続して働けるケースが多いため、自分の障害を理解し、かつ受容できている人を選ぶと良いでしょう。
他者とコミュニケーションがとれ、協力して仕事ができるか
精神障害者が職場で安定的に働くには、周囲の理解や配慮が必要ですが、精神障害の症状は人それぞれ異なるため、周囲の人が完全に理解するのは非常に困難です。周囲に理解してもらうためには、まずは自分自身が障害について理解することが必要です。そして対処法を周囲に説明して、業務を遂行する上で必要な配慮を相談することが大切です。採用選考では、自身の障害について客観的に説明できるコミュニケーションスキルがあり、また周囲の人と協力して仕事ができそうかをチェックしましょう。
自分のスキルを理解し、自信を持っているか
一般の選考でも重要となるのが、自己分析がしっかりとできていて、自身の長所や短所、得意なこと、スキルなどについて自己理解できていることです。これは精神障害のある方についても当てはまっていて、自分のスキルについて理解していない人は、入社しても十分に能力を発揮することができません。自身のスキルについて自信を持って業務を遂行できることが重要となります。
精神障害者を雇用する際のポイント
前章では、精神障害のある方の選考で見るべきポイントとして4つご紹介しました。では実際に雇用する際には、どのような点に気を付けたらよいのでしょうか。
求めている職務能力、スキルが一致しているか
早期離職や採用のミスマッチを防ぐためには、自社が求める職務能力と応募者のスキルが一致していることが大切です。一般雇用と同様に、業務上で必要となるスキルや知識も持っているかどうか確認しましょう。面接試験だけでは判断が難しい場合には、短期間の実習を行って業務に適応できるか見てみるとよいでしょう。
安定して就労してもらえるか
職務能力やスキルと同様に重要なのは安定して就労してもらえるかどうかです。安定して就労できるかどうかは、前章で解説した精神障害者の選考で見るべきポイントの4つが重要です。職務能力が高くても、安定して働ける状況になければ、入社しても早期に離職してしまう可能性があります。
安定して就労できるかどうかは、「自分の障害を受け入れて理解しているか」「周囲のサポートを受けながらも働きたいと思っているか」「通院や服薬など自己管理ができているか」などを確認することで判断します。
精神障害者雇用の定着のポイント
前述の通り、精神障害のある方の雇用は増加する傾向にありますが、入社から1年で半数以上が離職する状況であり職場定着に課題があります。精神障害者を採用したくても職場定着に不安があるという企業の採用担当者の方も多いのではないでしょうか。精神障害のある方が職場に定着するためには、現場や周囲の人の理解や配慮が重要です。具体的な定着のポイントを紹介します。
現場と連携し、雇入れの体制を整える
精神障害者を雇用する企業の人事担当者が抱える悩みで多いのは、「障害者雇用、その中でも特に精神障害者の雇用についての経験やノウハウが不足している」や「現場の負担や不安が大きい」などです。実際に、精神障害者を受け入れる現場は、業務を教えたりサポートしたりとかなりの負担があります。
精神障害者を雇用する場合には、配属先の部署に育成を任せきりにすることなく、人事部と現場が連携して雇入れ体制を整えることが大切です。人事部に定着支援担当者を置き、業務指導や精神障害者からの相談について現場の管理者をサポートするようにしましょう。
現場のメンバーが障害配慮について理解する
精神障害のある方が職場に定着するためには、現場のメンバーからの配慮が必要です。そのためには、精神障害に関する理解を深めることが大切です。配属予定の部署だけでなく、社内全体で勉強会を開催するのもよいでしょう。
また、精神障害のある方は、急な体調の変化が起こることもあるため、通院や休暇など柔軟に対応できるように社内の制度や手続きを見直すことも必要です。精神障害の症状は、人それぞれ違うため本人とこまめに打ち合わせして、その人に合った方法を検討することが求められます。
精神障害者の雇用率は、以前は20時間以上30時間未満の場合は0.5カウントで、20時間未満の場合は障害者雇用率としてカウントすることができませんでした。
しかし、現在は短時間労働の精神障害者について特例措置が設けられ、週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合、カウントが0.5人から1人に引き上げられ、さらに、10時間以上20時間未満の場合、0.5人でカウントすることができるようになりました。
勤務時間を短めに設定することで体調管理がしやすくなり、少しずつ職場定着を進めながら労働時間を調整することができるでしょう。
精神障害者の定着に利用できる助成金や奨励金
障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)
障害特性に応じた柔軟な働き方の工夫や施設整備などの特別な措置を講じる事業主に対する助成金です。障害者雇用の促進と職場定着を目的としています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07078.html
障害者職場定着支援奨励金
障害者を雇用し、かつ障害者の業務遂行に必要な援助や職場支援員を配置する事業主に対する奨励金です。障害者雇用安定助成金と同様に、障害者雇用の促進と職場定着を図ることを目的としています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/chiteki_seishin.html
精神障害者雇用の課題
精神障害者を雇用する企業には、疾患による体調の変化への対応や配慮が必要です。精神障害には、うつ病、統合失調症、双極性障害、てんかん、高次脳機能障害、アスペルガー症候群、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)などがあり、人によって体調の変化が異なり、必要な配慮も一人ひとり違います。
一般企業で精神障害者の雇用が進まないのには、障害に対する理解が低いことに加えて、どのような配慮をしたらよいのか分からないという理由があげられます。また、採用したいと思っても、「精神障害者に向いた業務が切り出せない」「どのような業務を任せたら良いのかわからない」「精神障害者と接したことがないのでイメージがつかめない」といった理由で雇用に踏み出せない企業も多いようです。
また、精神障害の方は障害の特性上、疲れやすくフルタイムで勤務するのが難しい人や満員電車が苦手な人もいます。近年では、フレックスタイム制や時差出勤を導入する企業も増えてはきましたが、まだまだ多くはありません。そのように勤務時間への配慮が難しいのも精神障害者の雇用が進まない理由のひとつとなっています。
障害者雇用専門の人材紹介サービス「アットジーピー」
障害者雇用促進法によって、全ての事業者は法定雇用率以上の割合で障害者を雇用することが義務付けられています。平成30年4月からは精神障害者も雇用義務の対象となったため、精神障害のある方を雇用したいという企業が増えてきています。一方で、求人を出しても自社が求める職務能力を持って、安定して就労できる精神障害者からの応募がなかなかないといった悩みを持つ人事担当者の方もいるのではないでしょうか。
障害者を採用するには、ハローワークに求人を出す、求人情報サイトに掲載するなどの方法がありますが、人材紹介サービスの転職エージェントを利用するといった方法もあります。転職エージェントには、特定の業界や職種、エリアに特化した求人を扱う「特化型」がありますが、atGP(アットジーピー)は、障害者に特化した転職エージェントです。就職や転職を希望する障害者が多く登録していて、専任のアドバイザーが面談を行うため、障害の特性や本人の希望などを把握するため、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
精神障害者の雇用と定着には障害に対する理解が必要
精神障害者の採用や雇用は、年々増えています。その一方で、職場定着に課題があり入社後1年以内に約半数の人が離職しています。精神障害のある方が安定して就労し続けるには、本人が自分の障害について理解して受け入れることも大切ですが、職場のメンバーが精神障害について理解して、必要な配慮を行うことが大切です。
精神障害について理解するには、専門家を招いて勉強会を開催するなどで効果をあげている事例があります。まずは、精神障害について理解することから始めてみましょう。
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