ソーシャルスキルトレーニングとトレーニングを受ける方法について解説
更新日:2022年07月26日
ソーシャルスキルは 上手に対人関係や集団行動を行うために必要な技能(スキル)のことです。ソーシャルスキルは、生まれつき備わっているものではなく、成長していく過程で家族や周囲の人と関わりながら知識を身につけていきます。しかし、発達障害や精神障害を持つ人などは、ソーシャルスキルの習得が困難な場合があります。発達障害者支援法が改正され、厚生労働省から「発達障害児・発達障害者の支援施策の推進」という方針が示されましたが、その中では、障害者当事者の適応力向上の支援として、ソーシャルスキルトレーニング(SST)研修会のメニューに追加し、全国的な普及を図るとされていています。この記事は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)について詳しく解説して、トレーニングを受ける方法なども紹介します。
目次
SST(ソーシャルスキルトレーニング)について
ソーシャルスキルとは?
ソーシャルスキルは、日本語では「社会技能」や「社会的技能」と表現されます。その定義は、さまざまな研究者が述べていますが、日本ソーシャルスキル協会によると、「相手の気持ちや状況を尊重しながら、 自分の気持ちや状況を上手に伝えられるスキル」としています。
このソーシャルスキルが身についていないと、人間関係を上手く構築したり、維持することができない可能性があります。このような場合には、ソーシャルスキルを学ぶためのトレーニング(訓練)が行われます。このソーシャルスキルを身につける訓練を「ソーシャルスキルトレーニング(SST:Social Skills Trainingの略)」と言います。
ソーシャルスキルをトレーニングするメリット
障害のある人の中には、自分の気持ちや考えを相手に伝えたり、相手の気持ちを察することで、他の人と良好な人間関係を築くのが苦手という人がいます。その結果、業務の内容を理解できなかったり、仕事を上手く進めることができずに、ストレスを抱えて最終的には離職してしまうということがあります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、子供から社会人まで全ての年齢の人を対象にしていますが、特に就労移行支援では、実際に職場で困ることを想定して、質問の仕方や依頼の仕方、断り方、質問されたときの回答の仕方などのトレーニングが行われます。こうしたトレーニングを行うことで、コミュニケーションスキルが向上して、社会の中で生きやすくなったり、会社の中でスムーズに業務が進めることができるようになります。
ソーシャルスキルのトレーニング方法は?
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、1)教示、2)モデリング、3)リハーサル、4)フィードバック、5)般化といった方法をとることが一般的です。
1)教示
なぜソーシャルスキルが必要か、ソーシャルスキルが身についているとどのような効果があるか教える。
2)モデリング
お手本となるような他の人の振舞いを見せて学ばせる。反対に不適切な振舞いを見せてどこに問題があったのか考えさせる。
3)リハーサル
ロールプレイングなどの手法で、実際に練習してみる。
4)フィードバック
リハーサルの内容を振り返って、適切であればほめて、不適切であれば修正のアドバイスをする。
5)般化
トレーニングで身につけたソーシャルスキルが、どのような場面でも発揮できるようにする。
ソーシャルスキルと発達障害の関係
一般的にソーシャルスキルは、成長していく過程で、家族や周りの人と関わることで無意識に身についていくものです。しかし、注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害や、知的障害、協調運動障害がある場合などには、ソーシャルスキルを身につけることが難しいケースがあります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、大人の発達障害や統合失調症などの精神障害のある人に対して、認知行動療法に基づいたリハビリテーション技法として行われることがあります。他の人との関係を良好に維持するためのスキルを身につけ、自信を回復して、ストレスへの対処や問題解決ができるようになることが目的ですが、ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、障害に関わらずすべての人に適応できる訓練です。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)を受けるために
ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けたいと思った場合、どのような場所で受けることができるのでしょうか。またトレーニングの費用はどのくらい必要なのでしょうか。
SSTが受けられる場所
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、精神科など医療領域だけでなく、教育や就労支援、職場のメンタルヘルスなどさまざまな領域で行われています
大人を対象とするソーシャルスキルトレーニング(SST)は、精神科のデイケアや就労移行支援事業所、就労継続支援A型事業所・B型事業所、若者地域サポートステーション、地域活動支援センター、就労・生活支援センターなどで行われていることがあります。受講を希望する際には問い合わせしてみるとよいでしょう。
SSTの料金
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の料金は、運営するのが民間か公的な機関かによって料金が大きく異なります。若者地域サポートステーションや地域活動支援センター、就労・生活支援センターなどで実施される場合に、障害のある人を支援することが目的のため無料で受講できることもあります。
一方で、民間の医療機関や教育事業者などで行われる場合には、トレーニングの内容によっても違いますが1回当たり5,000~10,000円といったケースが多いようです。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の資格と講師
ソーシャルスキルトレーニング(SST)に関連しては、いくつかの団体や協会があり、それぞれが認定している資格を持つ講師がいます。代表的なものは次の通りです。
・一般社団法人SST普及協会
ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training)の普及と精神科リハビリテーションの発展に貢献することを目的として設立された協会です。医師や看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士など128名が認定講師として登録されています。
ホームページでは、ソーシャルスキルトレーニング(SST)に関する教材や書籍も紹介されていますので、職場などで実践する場合には参考にするとよいでしょう。
ホームページ:http://www.jasst.net/top/
・日本ソーシャルスキル協会
全国各地で、医療者向けおよび一般向けのソーシャルスキル研修の開催やカウンセリングなどさまざまな事業を行って、ソーシャルスキルの普及活動を行っている協会です。
「ソーシャルカウンセリング研修」や「医療者向けソーシャルカウンセリング研修」などを開催する他、日本ソーシャルスキル協会が認定する資格を取ることもできます。
ホームページ:http://www.japan-social-skill.org/
・一般社団法人日本能力開発推進協会(ソーシャルスキルトレーナー)
日本能力開発推進協会は、医療や保健、福祉、社会教育、学術、文化などの分野においての実務能力向上に関して情報提供を行い、職業能力の開発や雇用機会の拡充を図ることを目的とした協会です。さまざまな検定試験を実施していますが、そのなかにソーシャルスキルの訓練ができるだけの知識を習得したことを証明するソーシャルスキルトレーナーの資格もあります。
ホームページ:https://www.jadp-society.or.jp/course/social-skills/
SSTの実施形態
身につけることが必要なソーシャルスキルの内容には、年齢によって違いがあります。そのためソーシャルスキルトレーニング(SST)を始める際には、どこまでのスキルを持っているのかを確認しておく必要があります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)には、さまざまな手法があるので、対象者の年齢やスキルの程度によって選ぶようにしましょう。ここでは、ソーシャルスキルトレーニング(SST)の、代表的なメソッドを紹介します。
ゲーム
発達障害児など年齢が低い対象には、ゲーム感覚で楽しくできるソーシャルスキルトレーニングが効果的です。ゲームは、決められたルールを守らなければなりません。また場合によっては、仲間と相談して協力する必要があります。そして、勝ち負けの結果を受けいれる必要があり、さまざまなソーシャルスキルの要素が含まれています。
ディスカッション、ディベート
ディスカッションやディベートは、自分と他の人との価値観や考え方の違いについて、気づく方法として適しています。また、違いを知るだけでなく自分の意見を伝えて、他の人の意見を聞いた上で、協力するという姿勢が身につくことが期待できます。対象者の年齢が低い時には、興味を示しそうなテーマにしたり、参加人数や時間を工夫することで効果が高くなります。
ロールプレイ
実際の生活や職場で悩んだり困難に感じることを想定して、どのように振舞えばよいのかを練習するロールプレイは、現在課題となっているソーシャルスキルを直接的にトレーニングできるので非常に効果的です。指導者の他に複数の対象者が参加して実施し、他の人は想定した場面に登場する相手役を演じます。ロールプレイが終わった後には、良かった点を褒めることで、長所を伸ばすことができます。また他の参加者も、それを参考にして同様の言動をする可能性があります。
共同行動
共同行動とは、何か目標や目的を達成するために、他の人と相談をしながら役割分担を決めたり、助け合うことで、実践的に社会生活に必要なスキルを身につける方法です。
ソーシャルストーリー
「ソーシャルストーリー」とは、自閉症スペクトラムの子どもたちの教育に長年かかわってきたアメリカのキャロル・グレイが考案したもので、絵やテキストによってソーシャルスキルを学ぶ方法です。理解力を高めて、自分の意志で適切な言葉づかいや、行動ができるように導く効果があるとされています。
日常で行うことができるソーシャルスキルトレーニング
・あいさつ
あいさつはコミュニケーションの基本で、良好な人間関係を作るためのスキルとしては不可欠なものです。しかし、ソーシャルスキルが不足している人のなかには、どのような場面でどんなあいさつをしたらよいのかが分からなかったり、そもそもコミュニケーションが苦手という人もいます。
日常的にあいさつができるようになるには、挨拶の意義や大切さを教えることが大切です。また、同じ言葉でも表情や視線、態度によって、相手の受け取り方が違うことも教えましょう。ロールプレイングによってさまざまなパターンのあいさつを行って、あいさつをされた時の気持ちを体験させると効果的です。
・相手の気持ちを察する
アスペルガー症候群や自閉症スペクトラムなどの人は、相手の気持ちを察することが難しいといった特徴がみられることがあります。また、これらの障害が無くても、相手の気持ちを理解するのが苦手だったり、相手の表情や態度から気持ちを察するのが苦手という人もいるのではないでしょうか。
ソーシャルスキルトレーニングでは、さまざまなシチュエーションを設定して、その時自分ならどう感じるかを考えることで、自分と他の人との考え方や気持ちの違いについて理解する練習をすることができます。
・会話をする
雑談のような日常的な会話は、他の人と良好な関係を作る上で非常に重要です。上記のように相手の気持ちを察することができない場合には、相手を不快にする言葉を発してしまったり、一方的に自分が話したいことだけをしゃべり続けたりすることがあります。
日常会話には、さまざまなコミュニケーションスキルを応用することが必要となります。ロールプレイングを行って、どのスキルが不足しているのか振り返りながら実施するようにします。
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仕事の場面で活用されるSST(ソーシャルスキルトレーニング)
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、子供から社会人まで全ての年齢の人を対象にしており、休職後に職場復帰するためのリワークや、企業での職場定着支援、就労継続支援事業所、就労移行支援事業所など、さまざまな現場で活用されています。
リワークSST
リワークとは、うつ病や躁病といった気分障害などの精神疾患により休職している人に対して、職場復帰に向けたリハビリテーションを行うことで、「復職支援プログラム」や「職場復帰支援プログラム」ともいいます。
休職した人の中には、職場でのコミュニケーションなどソーシャルスキルが原因となっているケースもあります。そのためリワークプログラムで、職場復帰の際に、必要と思われる場面を想定してロールプレイングなどのトレーニングを行うことがあります。想定される場面に、最適のコミュニケーションを繰り返し訓練することで、職場復帰への自信をつけることが目的です。
定着支援としてのSST
ソーシャルスキルトレーニング(SST)を実践する就労移行支援事業所は多くありますが、一般企業でも障害のある人や精神疾患の人が職場に定着するための支援として、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を導入しているところがあります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の最終的な目的は、トレーニングによって身につけたソーシャルスキルを実際の業務の中で般化することです。企業が独自に行うソーシャルスキルトレーニング(SST)は、このような場面ではこのような言動が求められているということを、具体的に示しやすいといった特徴があります。それはソーシャルスキルトレーニング(SST)によって身につけたスキルを実践する場が、職場そのものであるからです。
企業内で行われるソーシャルスキルトレーニング(SST)では、受講する従業員が業務中に実際に困難に感じたり悩んだりした課題をもとに、トレーニングする内容や場面を設定することができます。それにより企業担当者と受講者が習得を目指すスキルについて共有することができ、受講者はソーシャルスキルトレーニング(SST)の目的や効果をより感じやすくなります。
また、トレーニングしたスキルを実践する場面が具体的に分かりやすいため、受講者がトレーニングに取り組みやすいと考えられます。さらに実施後に、職場でトレーニングしたスキルに関する課題が見られた際には、受講者に対して学んだ内容をもとにして、望ましい行動をとるための練習を行うようにアドバイスしやすいというメリットもあります。
就労移行支援で行われるSST
前述の通り、注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害や、知的障害、協調運動障害がある場合などには、ソーシャルスキルを身につけることが難しいケースがあります。
これらの障害を持っている人が、社会の中で生活し企業で働くためには、実際に就労した際に予想される困難に対処できるように、実践的なソーシャルスキルトレーニング(SST)を行うことが必要となります。そのため多くの就労移行支援事業所では、支援のプログラムの中にソーシャルスキルトレーニング(SST)が取り入れられています。
就労移行支援事業所においても、対象者によって習得が必要となるスキルには違いがありますが、一般的には次のようなスキルを身につけることを目的としてソーシャルスキルトレーニング(SST)が実践されています。
・他の人に質問する仕方を学ぶ
・他の人にお願いする仕方を学ぶ
・頼まれた際に断る方法を学ぶ
・質問された時の回答の仕方を学ぶ
これら職場で日常的に行われるコミュニケーションのスキルを就労移行支援事業所の職員と一緒に学んで身につけます。
障害の有無に関係なくソーシャルスキルを高めることは大切
社会の中で暮らして行くなかで、ソーシャルスキルは不可欠なものです。特に障害のある人は、社会生活や職場での困難や悩みに対処していくために、相手の気持ちを尊重しながらも自分の考えや思いを伝えるコミュニケーションスキルを身につけることが大切です。
一般的には、家族や周囲の人と関わるなかでソーシャルスキルを習得していきますが、発達障害や精神障害のある人は、スキルを身につけていくのが困難な場合が多くあります。そのような人には、ソーシャルスキルを身につけるためのトレーニングを行うソーシャルスキルトレーニング(SST)が効果的です。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、医療機関や就労移行支援事業所などさまざまな場所で実施されていますので、トレーニングを受けたい人は、最寄りの若者地域サポートステーションや地域活動支援センター、就労・生活支援センターなどに問い合わせしてみましょう。