統合失調症の人が仕事を続けるポイントと休職や退職する際に受けられる支援について
更新日:2022年07月12日
統合失調症は、幻覚や妄想などの症状が特徴的な精神疾患です。以前は「精神分裂症」と呼ばれていました。約100人に1人がかかると言われていて、けっして特殊な病気ではありません。はっきりとした原因はわかっていませんが、脳の中にある神経伝達物質のバランスが崩れて混乱することが、関係しているといわれ、統合失調症になりやすい要因を持った人が、生活や仕事でストレスを感じることがきっかけとなって発症すると考えられています。統合失調症を発症すると、記憶力の低下や集中力の低下、計画を立てることができなくなるなどの症状が現れます。それにより仕事に集中することができなくなったり、仕事に対する意欲を失うなど、さまざまな影響がでることがあります。今回は、統合失調症の人が仕事を続ける際のポイントや、統合失調症によって休職や退職をした際に受けられる支援やサポートについて解説します。
目次
統合失調症の症状
統合失調症の症状には多様な症状が見られますが、大きく分けて「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」に分けられます。
陽性症状
「陽性症状」には、幻覚や妄想といった代表的な症状の他に、自我障害があります。
幻覚
幻覚は、実際には存在しないものを、感覚としてあると感じることです。統合失調症で最も多く見られる症状が聴覚における幻覚である「幻聴」で、誰もいないのに声が聞こえたり、他の音に混じって声が聞こえるように感じます。幻聴によってニヤニヤ笑ったり(空笑)、幻聴と会話してブツブツと独語(ひとりごと)を言うため、周囲の人から奇妙に思われます。その他に、実際にはないものが見える幻視や身体症状を感じる体感幻覚、幻臭、幻味などが起こることもあります。
妄想
妄想とは、あり得ないことや明らかに間違ったことを信じてしまい、周囲が訂正しても受け入れられない状態です。自分には関係のないことなのに関係があるように感じる「被害妄想」や「迫害妄想」「関係妄想」、知らない人がジロジロと自分を見ているように感じる「注察妄想」などがあります。
自我障害
妄想に近い症状で、「他の人の考えていることが声となって聞こえてくる」「自分の意思に反して誰かに考えや体を操られている」「自分の考えが人に伝わっている」といった、自分の考えや行動に関するものがあります。自分が行っている感覚が失われていることが原因と考えられていて、これを自我障害と呼びます。
陰性症状
健康な時にはなかった状態が現れる陽性症状に対して、健康な頃にはあったものが失われるのが陰性症状です。陰性症状には、「社会性の喪失(引きこもり)」「感情鈍麻」「思考や会話の貧困」などがみられます。社会性の喪失とは、他人との関りに興味を失って、自分の世界に閉じこもってしまう状態です。感覚鈍麻とは、喜怒哀楽の表現が乏しくなり他者の感情表現への共感ができず、人と目を合わせることもなくなります。思考や会話の貧困は、会話の中で比喩などの言い回しが使えなかったり理解できなくなったりします。
認知機能障害
陽性症状と陰性症状に合わせて、物を覚えるのに時間がかかったり覚えられない「記憶力の低下」や仕事や勉強に集中できなくなる「集中力の低下」、計画を立てたり物事に優先順位をつけることができなくなる「判断力の低下」などの状態が現れることがあります。これを認知機能障害と呼びます。
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統合失調症が発症した時の仕事への影響
統合失調症は、およそ100人に1人がかかる病気で、けっして珍しい病気ではありません。では統合失調症を発症した時には、仕事にどんな影響が出るのでしょうか。
仕事に集中しづらい
統合失調症の主な症状としては、幻覚や妄想などの陽性症状があります。これによって、職場の同僚がヒソヒソと自分の噂話をしているように感じたり、社外の人さえも自分の悪口を言っているように感じることがあります。また、常に誰かに監視されているような感覚を持つことで仕事に集中することができなくなります。また、認知機能障害により集中力の低下が現れます。
意欲の低下
統合失調症の陰性症状には、他人との関わりに対して興味を失って、自分の世界に引きこもってしまう「社会性の喪失」の状態がでることがあります。これにより仕事への興味や意欲も低下してしまいます。また、認知機能障害の症状である記憶力の低下や集中力の低下、判断力の低下により、仕事を覚えるのに時間がかかったり、計画的に進めることができなくなることもあります。さらには、上司や同僚社員から、仕事に対する意欲が低いと見られたり、仕事でのミスが多くなることで、評価に影響することもあり、さらに仕事への意欲を失うといったケースもあります。
統合失調症で仕事をする上でのポイント
統合失調症を発症すると、仕事をするうえでさまざまな影響がでてきます。しかし、病気と上手くつき合うことで仕事を続けることが可能です。統合失調症の人が、仕事をする上でのポイントを紹介します。
症状への負担が少ない仕事に就く
統合失調症により働きにくいと感じたら、症状への負担が少ない仕事の部署に異動してもらえるよう会社に相談するか、負担が少ない仕事への転職を検討しましょう。無理に現在の仕事を続けると、ストレスにより症状を悪化させることもあります。一般的に、統合失調症の症状への負担が少ないと言われている仕事には、次のようなものがあります。ただし、自分の症状や体調、適性にあった仕事を選ぶのが大切です。
- ・人と接する機会が少ない仕事
- ・判断力をあまり必要としない単純な作業
- ・新たに覚えることが少なく記憶力を必要としない仕事
- ・自分で計画を立てる必要がない仕事
- ・残業が少なく定時で帰ることができる仕事
周囲の理解を得る
統合失調症の原因は、はっきりとはわかっていませんが、ストレスに大きな影響を受けると考えられています。統合失調症の症状が出ると、自分自身が混乱してしまい、周囲の状況を理解することが難しくなります。職場では、上司や同僚など周囲の人に、統合失調症の症状や業務上で困ることなどについて理解を得るようにして、サポートしてもらえるようお願いしてみましょう。
徐々に慣らしていく
統合失調症は多くの場合、陽性症状から始まって、陰性症状を経て平常の状態に戻れるまで、医療機関の適切な治療を受けることで、良好な状態まで回復して自立した生活ができるまで回復することができます。治療によって、症状はゆっくりと長い経過を経て回復して行きますので、焦らずに病気と向き合うことが大切です。
特に、入院治療やそれによって休職していた人が、職場に復帰する際は主治医や担当のカウンセラーにしっかりと相談するようにしましょう。また、職場の上司に相談して、始めはフルタイムではなく短時間の勤務から始めるなど勤務形態や勤務時間、業務内容など調整をお願いしてみましょう。統合失調症は、再発しやすい疾患です。焦ったり無理をしたりせずに、徐々に慣らしていくことがたいせつです。
再発の前兆を知っておく
統合失調症は、再発しやすい疾患です。特に発病初期の5~10年は再発のリスクが高いと言われています。再発を繰り返すと症状が重くなり、回復するのにも時間がかかるようになります。統合失調症再発の前兆は人それぞれ違うと言われていますが、主に次のようなものがあります。再発を防ぐには、これらの前兆を知っておくことが重要です。
- ・眠れない日が続く
- ・イライラしている
- ・食欲がない
- ・焦ったり不安に思うことが多くなる
- ・そわそわとして落ち着きが無くなる
- ・うつ症状になって、考え込んだりする
- ・疑い深くなる
- ・やる気が出ない
- ・突然活動的になる
前兆が起きたり、調子が悪いと感じた時にはすぐに主治医に相談するようにしましょう。また、これらの前兆は本人が気づかないこともあります。家族や周囲の人にも知っておいてもらうようにするとよいでしょう。
通院や薬の服用を怠らない
統合失調症から早期に回復するためにも、そして再発を予防するためにも、定期的な通院や処方された薬の服用を怠らないようにしましょう。「寛解」と呼ばれる最も良い状態まで回復した人でも、薬の服用を止めるとと1年以内に60~70%の人が再発すると言われています。再発を防ぐためには、主治医の指示通りに薬の服用を続けることが大切です。また、定期的に通院して診察を受けることで、再発した際の対処が遅くなるのを防ぐことができます。
統合失調症の症状がひどくなったら休職・退職すべき?
統合失調症の症状がひどくなった場合には、まずは療養することが最優先です。
自分の判断で無理をせずに、医師に相談するようにしましょう。医師は、現在の症状や職場での環境や就労状況、生活環境などを総合的に判断して、休職すべきかどうかアドバイスしてくれます。
療養を最優先にしてまずは医師に相談
統合失調症の症状によっては、通院や薬の服用を続けながら仕事をすることが可能です。しかし、症状がひどくなったら、休職して一定期間仕事を休んだほうが良いという場合もあります。心身ともに疲れ切っている場合には、療養することが最優先です。症状の変化を感じたら、まずは医師に相談しましょう。職場の上司や同僚に迷惑をかけないようにと、自分の判断で無理することは禁物です。
休職・退職時にも利用できる経済的な支援制度
統合失調症の療養により休職、また療養が長期になり休職から退職に至った場合には、収入が途絶えるため不安に思う人も多くいるのではないでしょうか。そのような場合には、次のような支援制度を利用できる場合があります。
【自立支援医療制度(精神通院医療制度)】
自立支援医療制度は、統合失調症などの精神疾患の人が、通院による治療を継続的に受ける場合、医療費の自己負担額を軽減する公費負担の医療制度です。対象となるのは、向精神薬や精神科デイケアなどです。
【障害者手帳】
障害者手帳とは、障害のある人が取得することができる手帳で、障害手帳には、「身体障害者手帳」「精神障害者福祉保健手帳」「療育手帳」の3種類があります。そのうち、精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患により、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約があることを認定するもので、手帳を持っている人はさまざまな支援が受けられます。主な支援には、公共料金などの割引、税金の控除または免除、生活福祉資金の貸付などがあります。
【障害年金】
「障害年金」は、障害や病気によって障害が生じた時に支給される年金です。年金というと、高齢になってから受け取る「老齢年金」のイメージがありますが、障害年金は現役の世代でも病気やけがなどで障害が生じたときには支給されます。障害の程度によって等級が決められていて、等級によって支給される年金の額が異なります。働いていても障害年金を受給できる可能性はありますが、仕事の内容や就労状況、職場での援助内容、他の社員との意思疎通の状況などを審査に際に伝える必要があります。
【生活保護】
「生活保護」は、病気などにより働けなくなった人や、障害や高齢で生活が困難になった人が、健康で文化的な最低限度の生活に必要な給付を受けられる制度です。統合失調症により、自立まで一定期間が必要な場合にも受給できるケースがあります。支援には生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助などがあり、生活扶助には障害の等級によって障害者加算があります。申請手続きは、都道府県や市町村によって異なるので、最寄りの福祉事務所に問い合わせください。
【傷病手当金】
「傷病手当金」は、病気やケガによって仕事を休むことになり、会社から給与が支払われない場合に一定の手当を受けることができる制度です。統合失調症などの精神疾患も対象となります。傷病手当金の受給には、次の4つの条件をすべて満たしていることが必要です。
・勤務先の健康保険に加入し、被用者本人であること
・業務外の傷病により仕事ができない状態である医師の診断があること
・勤務先から給与が支払われなくなったこと
・連続3日で休んだ待機期間があること
就職や職場復帰は専門機関の支援を利用しよう
治療により統合失調症が回復して、医師から復職の許可がでたら、休職の場合には元の職場に復帰、退職の場合には新たな就職先を探すことになります。どちらの場合にも、専門機関の支援を利用するのがおすすめです。
ハローワーク
ハローワークは、正式には公共職業安定所といい、無料で職業紹介や就労支援サービスを行う国が運営する機関です。ハローワークには、障害についての専門的な知識をもった職員や相談員を配置した障害者専用の窓口があります。窓口では、障害のある人の就職を支援するために、仕事の情報を提供したり、就職に関する相談を受けてくれます。障害者手帳を持っていない人も利用することができます。
就労移行支援事業所
「就労移行支援事業所」は、一般企業などへの就労を目指す障害のある人に対して、働くために必要な知識と能力を高め、求職から就職までをサポートする施設です。具体的には、次のような支援を行います。
・就職に必要な知識と能力を身につけるための職業訓練
・履歴書など応募書類の添削や模擬面接など就職活動のサポート
・就職に関する支援や相談
・求職活動に関するサポート
・本人の適性に沿った就職先探しのアドバイス
・企業での職場実習などの機会を提供
・就職後に職場定着するための支援
就労移行支援は、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつで、原則24ヶ月(2年)利用できます。
まとめ
厚生労働省の推計によると、統合失調症により医療機関を受診中の患者数は79.5万人とされています。
受診していない人も含めると、約100人に1人がかかる病気といわれていて、けっして特殊な病気ではありません。統合失調症の代表的な症状は、陽性症状といわれる幻覚や妄想ですが、消耗期(休息期)でも、やる気が出ない、意欲がない、自信が持てない、体がだるい、眠気が強いなどの症状により、仕事で普段のパフォーマンスを発揮するのが難しくなります。症状がひどくなった時には、療養を優先させて休職や退職が必要となることもあります。
統合失調症によって休職や退職した際には国によるさまざまな支援やサポートがあるので、利用するとよいでしょう。統合失調症は、とても再発しやすい病気です。再発すると症状が重くなったり、回復するのに時間がかかります。復職や就職しても、定期的に医療機関の診察を受けて薬を服用するようにしましょう。