障害者を在宅勤務で雇用するメリットと在宅就労障害者の助成金を解説
更新日:2023年10月25日
新型コロナウイルス感染症の流行を経て、それ以前よりもテレワークによる働き方が一般的になりました。テレワークは、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方で、少子化や大都市圏の一極集中と地域活性化、環境問題の解決にも有効であると期待されています。政府は、2007年に「テレワーク人口倍増アクションプラン」を策定して、テレワークの推進をしてきました。また、2016年から掲げる「働き方改革」においても、テレワークの推進は、重要施策として位置づけられています。テレワークには、労働者が自宅で勤務を行う「在宅勤務」と、通常業務を行うメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する「サテライトオフィス勤務」、ノートパソコンやスマートフォンなどを活用して臨機応変に場所を選んで仕事を行う「モバイル勤務」の3つに分類されます。なかでも在宅勤務は、通勤が困難な身体に障害がある労働者にとって、非常にメリットのある勤務形態です。
目次
障害者雇用における在宅勤務とは
一般的に在宅勤務とは、会社のオフィスに出勤をせずに、自宅を就業場所として働く勤務形態のことをいいます。主にパソコンを使って作業をして、会社との連絡はインターネットを介したメールやチャット、オンライン会議システムなどを使って行います。
在宅勤務者の要件
平成30年4月1日から障害者雇用率(法定雇用率)が引き上げられましたが、算定の対象となる在宅勤務者は、雇用保険の被保険者になる在宅勤務者のうち、常用雇用の労働者に該当する人です。雇用保険では、在宅勤務を「労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ自己の住所又は居所において勤務すること」と説明しています。
障害者雇用率の対象者となる在宅勤務者の要件は、「事業所における通常の勤務日数が一週間当たり1日未満であり、かつ1週間当たりの事業所への出勤回数が2回未満」と定められています。ただし、次の条件にあたる身体障害者は、通勤の困難を考慮して事業所への出勤回数が1回未満とされています。
- ◇1級又は2級の視覚障害者
- ◇1級又は2級の上肢障害者
- ◇1級から3級までの下肢障害者
- ◇1級から3級までの体幹障害者
- ◇1級又は2級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による上肢機能障害者
- ◇1級から3級までの乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
- ◇1級から3級までの内部障害者
また、在宅勤務者として、事業所に勤務している労働者と同じ常用雇用労働者に該当するかどうかは、雇用保険業務取扱要領に次の要件が記載されています。
- ◇指揮監督系統が明確であること
- ◇拘束時間等が明確であること
- ◇始業、終業時刻等の勤務実績が明確に把握されていること
- ◇報酬が勤務した期間又は時間を基に算定されていること
- ◇請負・委任的なものでないこと
参考:独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構「在宅勤務障害者雇用管理マニュアル」
参考:厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令和5年10月1日以降)」
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在宅勤務者雇用のメリット
在宅勤務による働き方には、雇用する側の企業、働く側の従業員それぞれに次のようなメリットがあるとされています。
企業へのメリット
会社のオフィスで働く場合には、予定外の来客や電話、打ち合わせなどで業務を中断しなければならず、集中して業務に取り組めないことがあります。在宅勤務ではこのような業務の中断を減らすことができます。そのため業務効率や生産性の向上が期待できると考えられます。
さらに新型コロナウイルス感染症の流行や地震や台風などといった自然災害の時などでも、オフィスへ通勤する必要がないため、そのような状況下でも企業活動を続けることができるといったメリットもあります。また、通勤の必要がない在宅勤務であれば、オフィスから離れた地域に住む優秀な人材を採用することも可能となります。在宅勤務により障害者を雇用することで、社会貢献をアピールすることができ、企業イメージの向上も期待できます。
- ◇多様な働き方や業務効率改善による生産性の向上
- ◇オフィスコストの削減
- ◇災害時などの危機管理対策
- ◇地方や海外など遠隔地の優秀な人材の確保
- ◇ワークライフバランスの実現による離職の抑制
障害者へのメリット
在宅勤務は、通勤が困難な身体障害者にとっては、はたらく選択肢が増え就業や能力発揮の機会が増えます。通勤が必要なければ、居住地以外の企業で働くことも可能で、地方に住む人が都市部の企業の求人に応募することもできます。反対に障害者が暮らしやすい自治体を選んで引っ越すことも可能になります。
障害がなくても、満員電車や長距離通勤は、肉体的な疲労や精神的なストレスを感じるものです。在宅勤務は、通勤や移動による肉体的、精神的な負荷を軽減することができるので、結果的に企業の生産性向上にも寄与します。
- ◇通勤時間の削減と、通勤による肉体的・精神的ストレスの軽減
- ◇新たな就労機会や能力発揮の機会が増える
- ◇勤務地や居住地を選択できる
在宅就業支援団体とは?
自宅または福祉施設などで働く在宅就業障害者に、仕事を発注する企業に対して助成金を支給する制度に「在宅就業障害者支援制度」があります。在宅就業支援団体は、仕事を発注する事業者と在宅就業障害者との間に立って支援を行う団体で、厚生労働大臣に申請し登録を受けています。企業が、「在宅就業支援団体」を通じて在宅就業障害者へ仕事を発注した場合、障害者雇用納付金制度の特例調整金や特例報酬金の支給対象となります。
令和5年6月現在で、埼玉県、千葉県、東京都など12の都道府県に23団体が登録されています。なお、在宅就業支援団体登録の要件は次の通りです。
- ◇法人であること
- ◇常時10人以上の在宅就業障害者に対して、継続的に就業機会を提供、職業講習、就職支援などを行っていること
- ◇障害者の在宅就業についての知識や経験を持つ人を3人以上配置し、そのうち1人は専任管理者とすること
- ◇支援を行うために必要な施設や設備を保有していること
参考:厚生労働省「厚生労働大臣が登録している在宅就業支援団体一覧」
在宅就労障害者への助成金の種類
在宅で就業する障害者に対して仕事を発注したり、雇用する企業に対しては、さまざまな国の支援制度があります。主な支援制度について解説します。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
ハローワーク等からの紹介で、障害者や高齢者など就職困難な人を、雇用保険の一般被保険者(継続して雇用する労働者)として雇用する場合、事業主に対して助成金が支給されます。支給要件は次の通りです。
(1)ハローワークや、地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
(2)雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること。
支給額は、身体・知的障害者を雇い入れた場合に120万円(中小企業以外は50万円)、支給期間は2年(中小企業以外は1年)です。重度障害者や45歳以上の障害者、精神障害者を雇い入れた場合には、支給額が240万円(中小企業以外100万円)、支給期間は3年(中小企業以外は1年6か月)です。
中小企業 | 中小企業以外 | |
身体・知的障害者 | 120万円・2年 | 50万円・1年 |
重度障害者・精神障害者・45歳以上の障害者 | 240万円・3年 | 100万円・1年6か月 |
参考:厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」
障害者作業施設設置等助成金
障害者作業施設設置等助成金は、障害者を常用の従業員として新たに雇い入れる場合、または継続して雇用する事業主が対象となります。障害者がある従業員が、障害を克服して作業を容易に行えるような施設や改造などが行われた設備の設置または整備を行う場合に、その費用の一部が助成される制度です。設置は賃借も含みます。ただし、施設などの設置や整備を行わなければ、支給対象となる障害者の雇い入れや、雇用の継続が困難だと認められた事業者に限られます。
支給対象となる障害者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者とそれらの障害がある在宅勤務者です。支給対象となる施設や設備は、支給対象の障害者が障害を克服して作業を容易に行えるよう配慮された作業施設と作業施設に付帯する施設、作業設備です。
障害者作業施設設置等助成金は、設置・整備の方法により「第1種作業施設設置等助成金」と「「第2種作業施設設置等助成金」の2つに分かれていて、それぞれ支給対象と、助成率、支給限度額が決められています。
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金」
障害者介助等助成金
障害者を従業員として雇い入れるまたは継続して雇用する事業者が、障害者の障害特性や程度に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置などの措置を実施する場合に、その費用の一部の助成を受けられます。
障害者介助等助成金は、次の4つの助成金に分けられ、それぞれの助成金によって、支給対象となる措置、支給額が決められています。
- 「職場介助者の配置または委嘱助成金」職場介助者を配置または委嘱することを助成
- 「職場介助者の配置または委嘱の継続措置に係る助成金」職場介助者の配置または委嘱を継続することを助成
- 「手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱助成金」手話通訳、要約筆記等の担当者を委嘱することを助成
- 「障害者相談窓口担当者の配置助成金」合理的配慮に係る相談等に応じる者の増配置または委嘱することを助成
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者介助等助成金」
在宅就業障害者支援制度
在宅就業障害者支援制度は、在宅や福祉施設などで就業する障害者に仕事を発注する企業に「特例調整金」や「特例報奨金」を支給する制度です。また、障害者に直接仕事を発注する場合だけでなく、在宅就業支援団体を通じて発注した場合にも、同様に特例調整金や特例報奨金が支給されます。
制度の対象となる障害者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)で、制度の対象となる就業場所は、「障害者が業務を実施するために必要な施設及び設備を有する場所」「就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等が行われる場所」「障害の種類及び程度に応じて必要な職業準備訓練が行われる場所」などです。
参考:厚生労働省「在宅就業障害者に対する支援」
まとめ
新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって、テレワークが注目されています。特に身体障害や精神障害があって通勤や事業所での勤務が困難な人にとって在宅勤務は、通勤の負担が軽減されるだけでなく、出勤の必要がないためオフィスが自宅から遠い場合でも勤務が可能となるため、就業の機会が非常に広がるといったメリットがあります。
また在宅勤務は、就労する障害者だけでなく雇用する企業側にも、机や椅子など備品の用意や照明や空調などの費用、広いオフィスが必要なくなるなどオフィスコストの削減や、通勤手当など経費も削減できるといったメリットがあります。障害があっても能力を持った障害者はたくさんいます。在宅勤務は、それらの障害者の雇用を実現できるだけでなく、障害者を多く雇用することで、社会貢献をアピールして企業イメージの向上も期待できます。
今回、ご紹介した通り障害者を在宅で雇用する場合、さまざまな助成金が活用可能です。人材確保で苦労している事業者に置かれては、障害者の在宅勤務での雇用についても選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。